第8話 記憶~4~

「でも、記者志望の人がペラペラ人のことを話すのはどうかと思うけど……」


ジトーっとした目で見つめると、ちなが慌てて「ごめんって」と手を合わせた。


「でもさ、変だよね……」


ちなが呟く。それに首をかしげた。

変って? 何が?


「春岡君は楓を知ってたんでしょう? なら普通に声をかければいいじゃん? なのに、覚えてないのかだなんて回りくどい言い方するなんて……」

「確かにそうだね」


普通に久しぶりって声をかければすむことだ。

わざわざあんな言い方をしなくても良いのに……。

しかもあの笑顔。爽やかな笑顔の龍輝君からはちょっと違う、まるで裏の顔を見てしまった気がする。


「例え声をかけて相手に忘れられてたとしてもさ。いついつこうして出会ってましたって言えば良いことでしょう? なんか変だよね」

「そうだよね」

「聞いてみたら?」

「何を?」

「だから春岡君に直接どこで会っていたか、聞いてみたら?」



聞く? 私から?

ちなの提案にあっさり納得する。


「あ、そうか」


そうだね。

本人に聞いちゃえばスッキリする話だ。

うんうんと納得したならば、話は早い。

そうしよう! あとで龍輝君に話を聞きに行こう。

そう決めた。


昼休みーー………………


1-Bの教室までやってきた。

しかし、勢いつけて龍輝君の教室まできたはいいけど……。

教室の前には他のクラスにない光景があった。

廊下には女子がたむろっており、色めきだっている。

最近こういう光景をよく見るな、なんて思った。

そもそも、この教室の前にだけ、やけに女子率高くないですか!?

用もないのにわらわらしている!?

まさか、みんな龍輝君目当てとか……?

どれだけ凄いのよ。春岡龍輝って男は。

ある意味感心しちゃう。

そんな中、龍輝君に声をかけるのは少し気が引けた。

呼び出したりしたら、ここにいる女子たちに殺されるのではないだろうか……。

そんな恐ろしさを秘めている。

しかし、龍輝君とは話がしたい。どうしたものかと思ったが、時間もないため、意を決して声をかけようと決心した。


さて、問題は呼び出し方だ。

どうしようかな……。

B組に友達いないし、誰かに呼んでもらうしかないかな。

ちょっと恥ずかしいけど、話がしたいし仕方ないよね。

教室の前でウロウロしてても仕方ないもん。

よし、と教室の入口付近にいた女の子達に声をかけた。


「すみません、龍……春岡君を呼んでもらいたいんですけど」


そう声をかけると、教室ばかりでなく廊下にいた女の子達が一斉に私を振り返る。

その視線に冷や汗が流れる。


うわぁ。睨まれてるよ。


しまったかなと思ったがもう遅い。

言ってしまったのだから仕方ない。

龍輝君を呼んでもらうしかないのだ。

声をかけた女の子達にも嫌そうに睨まれてしまった。

そして、わざとらしく盛大にため息をつかれた。


「またぁ? 悪いけど、告白とかでの呼び出しなら取り次がないから」

「そ~そ~。春岡君は誰も相手にしないしぃ」


そう言ってクスクスと笑われる。


うう、バカにされたっ!


同じクラスだっていう優越感をこの人達から感じる。

周りからも、同情のようなバカにしたような視線が突き刺さる。


でも告白なんかじゃないし!


単に話がしたいだけだと気持ちを切り替えて、再度声をかける。


「告白とかじゃないです。聞きたいことがあって……」


と話していると周りが一瞬ざわついた。

そして……。


「楓ちゃん?」


後ろから驚いたような声が聞こえた。

その声に周りがざわつく。

声の方を見なくても、周りの雰囲気で感じ取る。

ゆっくり振り返ると、そこにはやはり捜していた人の姿。

私と目が合うと嬉しそうにニッコリ微笑んだ。


「どうしたの?」

「……龍輝君」


教室には居なかったようで、龍輝君は廊下から現れた。

周りの女の子たちには目もくれず、真っ直ぐ私の前までやってくる。


「もしかして俺に用?」

「あ、うん。聞きたいことがあって……」


そう告げると、ちょっと驚いた表情をしてから、再びニッコリ微笑み頷いた。


「わかった。ここじゃ何だから、二人になれるところに行こう?」


その発言に、周りの空気が止まったのがよく分かった。


二人になれるところって……。

龍輝君のセリフに周りがざわつき、女子からの厳しい視線がより一層強くなった気がする。

それに焦ったのは私だ。

意味ありげな言い方をしないで欲しい。


しかし、私が口を開く前に龍輝君は笑顔で先に歩き出す。


その背中を恨めし気に睨み付けるが、それよりも女の子達の鋭い視線が、最後まで後ろから私の背中を突き刺していた。


失敗した、と後悔するがもう遅い。

これから私の平穏な高校生活はなくなったなと確信した瞬間だった。






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