第2話 初めまして?~2~
「私的には、A組の速水くんに、F組の町屋くんが一押しだなぁ。でもなんていったって、1番人気は……」
そう言って、私の肩を揺する。
「B組の春岡くん!」
と、ちながウキウキした声を出す。
揺れる、やめて~。
ちなは私を揺さぶりながら話を続ける。
「彼は断トツだよね。超イケメン! 入学して間もないのに先輩にも人気なんだって~。あ~あ、間近で見てみたいなぁ~」
やっと手を放してくれて、ホッとする。
興奮気味に話すちなとは対象的に、私は窓からの日差しに心を奪われていた。
人気男子なんてどうでもいいよ……。
思考は少しずつ働かなくなっていってる。
ん~、やっぱり春は気持ちがいいなぁ~……。
ふかふかの芝生とかでゴロンって寝転がったら最高だろうなぁ。
話半分でウトウトしている私に、ちなはもう慣れっこで構わず話を続けている。
すると本気で目が開かなくなり始め、眠くなってきた。
ありゃ、そろそろ本当にまずいな。
小さい声で「へぇ~…」と相槌を返しながらも、私はちなの声を子守歌にゆっくりと眠りの世界に入って行った。
――――
『かえでちゃんっ!待ってよ、かえでちゃん!』
可愛いあのこが手を振っている。
『かえでちゃんっ!』
必死に名前を呼んでくる。
大好きなあのこ。
駄目だよ、こっちに来ては駄目だよ。
『かえでちゃんっ』
駄目だよ……。
来ては駄目………………。
駄目………………………。
「何が駄目なんだ、松永!」
「起きて!楓!」
「えっっ!?」
急に大きな声が耳元でして、驚いて目が覚める。
がばっと顔を上げると、こちらを振り向いているちなと、隣には担任の先生が立っていた。
クラスメート達も私に注目している。
やばい!
そう思ったとたん、先生から雷が落ちた。
「松永! 授業は寝る時間じゃないぞっ」
「す、すみません!」
うわぁ……、最悪だ。あれから爆睡しちゃったんだ。
まさか、授業が始まっていたなんて気が付きもしなかった。
ちなも起こしてくれてもいいのに。
つい恨みがましくチラッとちなを見ると、呆れたように「私は起こしたよ」と小声で言われた。
そうだったのね、ごめん……。
ちなには小さく謝る。
バツの悪い私を見て、クラスメート達もクスクスと笑っていた。
かなり恥ずかしい。
しかも懐かしい夢まで見ちゃったし。
懐かしいけど……、頭に霞がかっているようでどんな夢だったかはあまり思い出せない。
懐かしいという感覚だけが残っていた。
それよりも、今はこの状況だ。
恥ずかしさから顔を赤くして俯くと、先生は呆れた様にため息をついた。
「たるんどるなぁ、松永。よし! 先生が松永のために良いこと思い付いたぞ」
ニッと笑う笑顔がよからぬことだと気が付くほどに悪い笑顔で、思わず顔が引きつってしまう。
「い、良いことですか?」
「おう! お前は今日から学級委員長だ!」
学級委員……?
先生の言葉を理解した途端、一気に目が覚めた。
「えぇー!? 待ってください、私にはできませんって!」
ガタンッと私は勢いよく席から立ち上がる。
どうして急に学級委員に任命されるの!?
わけがわからず黒板を見ると、そこにはまさに今、今年の係り決めをしていた形跡が。
ちょうど運悪く、学級委員を決めていたようだった。
きっとスムーズに決まらなかったのだろう。
先生はとても晴れ晴れとした表情をしていた。
「寝ていたお前が悪い」
「そんなぁ~……っていうか、委員長を今頃決めていたんですか!? 新学期始まって結構たちますよね!?」
すでに新学期が始まりひと月だ。
普通はもっと初めに決めるものだよね? それを今頃決めていたなんて……。
文句も言いたくなるよ。
すると、先生は悪びれもせずに微笑んだ。
「うん、すっかり先生忘れてたんだ」
なっ……!
そんな笑顔で返されても……。
そこまでハッキリ言われると、なにも言い返せない。
クラスの中も、もう有無を言わさない雰囲気になっていた。
むしろ、お願いと拝む子さえいる。
嘘でしょう……。
絶望的な気分になり、頭がくらくらしてくるほどだ。
「頑張れ、楓」
「頼んだぞ」
「松永にピッタリだ」
など、クラスメートもここぞとばかりに笑顔で拍手してくる。
みんなやりたくなかった役が他の人に決まったことで安堵の表情をしていた。
ずるい、と叫びたかったが寝ていた自分も悪い。
文句を言えた義理ではなかった。
自業自得という言葉がまさに当てはまる。
「ちなみにさっそく今日の放課後、委員会あるから。よろしく~」
ここまで来ると断れない。
仕方ない、とうな垂れた。
「わかりましたよ」
私はしぶしぶと引き受け、椅子に座り直した。
うわぁん、面倒くさい!
学級委員なんてやることたくさんあるよね!?
私の平穏なのんびり高校生活が~……。
寝ていた自分を思わず呪った。
「じゃぁ、男子は? 誰か委員長やってくれるやついるか?」
先生がもう一人の委員長を決めようとすると、「はい」と声が上がった。
「先生、俺やります」
一人の男子が手をスッと挙げた。
「おぉ、貴島。お前がやってくれると安心だ。頼むな」
「はい。よろしくね、松永さん」
「あ、よろしく……」
爽やかな笑顔で振り返った彼は、確か、貴島 聡 (きじま さとし)くん。
入学試験の成績が良く、学年2位だったと聞いたことがあった。
塩顔男子って言う感じで笑顔が爽やかで背も高く、確か女子からの評判は結構良い方だったはず。
そんな彼と同じ学級委員をやれるなんてある意味レアだろう。
「良いなぁ、貴島くんと一緒で。貴島くんがやるなら私もやれば良かった」
ちなが羨ましそうな声で言うから、思わず私は身を乗り出した。
「代わるよ!? ちな!」
「……やっぱ遠慮しとく」
笑顔で首を振られ、がっくり肩を落とす。
ですよね……。
面倒くさいものを引き受けてしまった。
はぁ。私の思い描いていた高校生活が………。
私は大きくため息をついて、頭を抱えたのだった。
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