第12話

B SIDE


 機管室でマイクなどを返却し、その後3人で話し合うことにした。

「んとね。まずはうちから。一緒にバンドやってください。一緒に音出して楽しかった。それでいいと思うっちゃね。」

「ありがとう。私も一緒に音出して楽しかった。」

「せやね。楽しいのは楽しかった。でもこのままやとすぐに行き止まると思うわ。最初のスタジオで言うこととちゃうけど、プロ目指すんやろ?」

「うん、もちろん。んでね。良かったら芝井戸先生のバンドカウンセリング受けんかな?」

「バンドカウンセリング?」2人の声が揃った。

 用意しておいた説明のプリントを見せながら説明をする。

「二週間に一回しか受けられんけどどうかなって。」

「でも私、芝井戸先生のこと全然知らんけどいいんかな?」

「バンドカウンセリングかぁ。」

 二人は遠慮なのか嫌がってるのか単純に決めかねるのかが分からなかった。

「見せて良いんか分からんけど、これ見て。」

 そう言って昼間に貰った講評の芝井戸先生の分だけ見せた。

「こういうことを言うてくれると思うんやけど、どうかな?」

 二人はプリントを食い入るように読んでいる。自分から見せたものの、こうも食いつかれると恥ずかしい。

「なるほどなあ、これは手厳しいわ。…俺受けたい。それに俺、その先生と一回話してみたいねん。芝井戸先生?やっけ。」

「そうやんね。古賀さんが受けたいっていうなら私はいいよ。」

「ありがとう。じゃあ明日先生に聞いてくるけど、いつなら大丈夫?」

「俺日曜以外やったら問題無い。日曜は家の仕事にバイトで入ってお金稼ぐねん。それと楓にはもうバンドやるしプロ目指すからって言ったから。楓とは平日一緒に帰ったりも出来るし、そっちの心配はいらんからな。」

「私も別にいつでもええよ。寮生活やし時間はいっぱいあるよ。」

「じゃあ先生、水曜はお休みっていってたから他の曜日かな。ん~。…やけん木曜日かな?大丈夫?」

「OK。ほな、それまでにスタジオも入ろか。1曲もまともに聞かせられへんのもなんか悪いやろ。明日1曲に決めてそれを固めよう。」

「分かったぁ。」


「うちの連絡先教えるわ。」

「じゃあ私も。」

「俺も。パソコンは持っとる?」

「うち持ってる。」

「私もノートやけどあるよ。」

「練習ん時に録音したデータとか大きいもん送るならそっちのほうがいいかもな。じゃあそれも教えるわ。」

 3人で連絡先を教え合い、メッセージのグループを作った。

「このグループ名どうすんの?」

「とりあえず古賀バンドでいいんやない?」

「うち嫌やぁ。みんなのバンドやし。」

「とりあえずよ。それともバンド名とか決めてるん?」

「全然、でも決めんといかんよね。」

「うん。名前が無いと単純に他の人が呼びにくいやろ。」

「うーん。じゃあ宿題にしよっか。みんな考えといて。」

「古賀さん良いの決めてよ。」

「いやいや、杜谷さんも考えるんやで。」

「あんなぁ、気になってたんやけど、その杜谷さんって呼びにくない?前からみんなに呼びにくいって言われてて、先生以外はみんな名前呼びやったんよ。」

「ごめんやけど、名前なんやっけ?」

「芽以。モリヤメイ。芽以って呼んで欲しいん。」

「じゃあ芽以ちゃん。うちのことは華ちゃんでいいよ。」

「俺も?」

「出来ればそっちのほうが嬉しいかな。」

「分かった。芽以ちゃんに華ちゃんかぁ。」

「ねえ、なんで大阪の人は華ちゃんなん?」

「なにが?」

「ハのナにアクセントあるやろ。今住まわせてもらいよる親戚もおいちゃん以外みんなハちゃんやけん。」

「しゃーないやん。ハちゃんやもん。」

「なんかしっくりけーへん。やったら華でいいよ。それやとナにアクセント無いっちゃろ。」

「ほんまや。なんでやろな。でも呼び捨てはなぁ。」

「彼女以外は呼び捨てにしきらんてか。」

「なんでちょっと切れてんのか分からんけど、分かったわ。華ちゃん。アクセントに気をつけて華ちゃんにするからこれでええやろ?」

「それで良し。うちは川北くんのことはヨーイチローって呼ぶけん。ええね?」

「なんでやねん。」

「騙してたバツや。」

「バツってなんのバツやねんな。ん?騙してるって年齢のこと?それとも進路説明会のトイレのことか?」

「うるさい!ヨーイチローやけん。決まり。」

「分かったよ。もうなんでもええ。好きに呼んでくれや。っ男一人は辛いわ。次のメンバーは男な。これ決定!」

「それでどうするぅ?ギターかキーボード探すん?」

「そうやなぁ。それも芝井戸先生に相談してみたらええんちゃう?どんな人がこのバンドに合うと思いますか?て。」

「全部先生任せも良くないよ。」

「うちらはうちらで探そ。プロになるって、口で適当なこと言う人もおるけん、見極めんといけんし。」

「せやなぁ。俺らは俺らで探すか。手っ取り早いのはアンサンブルの授業ちゃうの?誰かこれって人いいひんの?」

「華ちゃんどう?」

「うーん。わからん。ぱっと思いつく人おらん。芽以ちゃんは?」

「ベース科やったらリズムアンサンブルの授業あるからまだ分かるんやけど、ギター科は一緒になるのアンサンブルだけやからなぁ。アンサンブルの授業って2クラスあるんよね。確か。」

「そうなん?」

「うん、ドラム科も一緒に受けるの半分だけやし。」

「そうなんや。授業のクラス分けすんの大変やろな。あーそれでか。選択授業を選ぶ時にあれこれ言うてたんは。」

「とりあえず、明日カウンセリングを先生と相談して予約するけん。じゃあ明日のスタジオ今押さえよか。」

「じゃあ、俺行ってくる。とりあえずは古賀バンドでええよね。」

「好きにし。」

 ようやく話がまとまり、その日は解散に成った。


「もう受けるんですか?」

 翌日、芝井戸先生にカウンセリングの話をしに行ったら驚かれた。

「前回から、そんな日にちも経ってないのは分かってるんですけど、バンドになったのって別で見てくれんですか?」

「なるほど。でも古賀さんの名前だと差し支えは出てくるでしょうね。面倒臭いですが建前ってやつです。バンド名はもう決まっているのでしょうか?」

「まだです。」

「では適当な名前でいいので、古賀さんの名前を出さないグループ名で予約をとってみて下さい。機管室の人間がOKを出せば大丈夫なはずです。」

「分かりました。でね先生。他のメンバーに会って話をしてあげて欲しいってのが、今回の目的なんです。」

「それはもちろん話をしますよ。カウンセリングですから。」

「そうやなくて、他のメンバーもうちと同じくプロになりたいって子らやけん。ちゃんと話をしてあげて欲しいんです。」

「なるほど。しかしそもそも私は古賀さんを特別扱いしてるつもりは無いんですけどね。」

「それでもいいっちゃ。お願いします。」

「言いたいことは分かりました。では木曜でこの間の部屋以上のサイズでお願いします。いいですか?」

「はい!ありがとうございます。」

「それと古賀さん。バンドカウンセリングは上手に使って下さいね。言ってる意味、分かりますか?」

 先生が掛けている眼鏡越しに、じっと目を見据えられて言われた。どういうことだろう。

「考えときます。ありがとうございました。」

 お礼を言い急いで機管室に逃げた。なんだかその眼鏡越しの視線が怖かったのだ。


 誰も居なくて一人で暇そうにしている百瀬さんに話しかけた。

「あの。バンドカウンセリングの予約に来ました。」

「あのな、古賀ちゃん。こないだ受けたとこやろ。どうせ芝井戸先生やろ?先生の許可はもう取ったんか?」

「今回はバンドなんです。別口なんです。芝井戸先生は良いか悪いかは百瀬さんが判断してくれるやろって。」

「急ぎなん?」

「はい。バンドメンバー探したいんですけど、どんな人が良いのか聞きたくて。それに他のメンバーも紹介したくって。」

「そんくらい今聞きゃいいんとちゃうの?あかんの?」

「先生はバンドカウンセリングは上手に使えって。」

 さっき言われたことを意味が分からないまま、とっさにそのまま使ってしまった。

「なるほどなぁ。」

 どういうことなんだ。

「分かった。その代わり代表者にお前の名前出すなよ。後で俺が怒られんのも嫌やし。それでバンド名は?」

「ヨーイチローズです。」

「は?」

「今決めました。」

「絶対あかんやろそんな名前。絶対売れへんやん。」

「じゃあ、かっこかり。付けといて下さい。」

「めちゃくちゃやな。…俺、知らんぞ。」

 なんとか予約を取ることができた。

 そしてその日の放課後のバンドの練習は、昨日に比べて随分落ち着いて練習できた。たった一曲だがなんとか聞かせられるレベルに成っただろうか?

 

 次の日、学校はお休みだったので芽以ちゃんとお買い物に出かけた。梅田の駅で待ち合わせると迷うので途中の駅のホームで落ち合い、一緒に梅田で迷った。そうだ、芽以ちゃんも地元の人じゃなかったんだ。

 でも二人なら楽しかった。楽器屋さんに行ったり、雑貨を見たり服を見たり、ハンバーガー食べたりでとても楽しかった。

 先生が講評で書いてくれたリストバンド。トレーニングに使うような黒いやつをイメージしていたが、雑貨屋さんとか古着屋さんに可愛いのがあった。値段も安かったので2つ買った。ピックも少し硬いのと、ティアドロップっていう涙型のも試しに買ってみた。

 大阪に来て初めての学校の友達とのお出かけは、とても有意義なものになった。

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