序章 嵐の日に捨てられました
「シルヴィア、ごめん。何も言わず
仕事中、
「ど、どうして?」
声を
「どうしても何も、見たらわかるでしょう?」
そう言って、継母が視線を向けるとサニアが目の前でリックスと
……二人の仲が良かったのは知っていた。
けれど仕事も、
でも、そこまでの関係になっていたなんて。私は
「それに君、仕事も、失敗ばかりだよね? この前の発注ミスでどれくらい損害がでているかわかっているのかい?」
リックスが責めるように言う。でも、それは、サニアが最初に発注書の
反論したら、きっとまた三人に責めたてられる。
「お姉さま、そういうことだから、離婚届にサインをお願い。これからは錬金術師として
サニアの言葉が悔しくて、情けなくて私はぎゅっと自分の服の
「ポーション作りも、事務仕事すらろくにできない
継母に
結局、私は離婚届を出したその日に、家を追い出された。わずかばかり
──役立たず、お前は仕事ができない。錬金術師としても無能だ──
私を責めたてる言葉が耳に
やめて、お願い、ごめんなさい。
歩きながら降ってきた雨に私は再び空を見上げた。そういえば今日は
おそらくこの様子では乗り合い馬車も今日は休みだろう。ここは観光客も多い場所だからホテルも満室でとれないかもしれない。
なんでこんな目にあわないといけないんだろう?
仕事も、家事も、
だから女として見られないと言われた。窓ガラスに映る自分の姿に足をとめ苦笑いが浮かぶ。
ずぶ
夫とサニアの
とりあえず今日の嵐をやりすごすホテルを見つけないと。
歩き出して、そして──ふらりと
ああ──風でよろけて馬車がいたのに
そんなことを思いながらどこか遠くで馬のいななきが聞こえた気がした。
● ● ●
「お待ちください! あと一日! あと一日だけでいいのですっ!?」
酷く
「
男が
「それに、日数を延ばしたところで貴方が資金を工面できるはずもない。貴方が借りられそうな場所は私が裏で手をまわしていますから」
「……な!?」
男がニタリと笑いながら言うと老人の顔が青くなった。
「いやぁ、貴方に人望がないおかげで
「貴様っ!!」
「おや、貴方がよくしていたことじゃありませんか。
男が
「この! 若造がっ!!」
老人が持っていた杖で
「ははっ、いきなり暴力はいけませんね。まぁ殴られて
男はにっこり
「何もあそこまでしなくても。また敵が増えましたよ」
老紳士の
「おや、不服ですか? 先にこちらの
葉巻をふかしながらキールの
「……そんなことばかりやっているから悪徳商人とか言われるんですよ」
「その評価は何も
ヴァイスが言いかけた
「何事ですかっ!?」
キールが急停車した馬車から降りて、御者に問う。
「それが馬車の前に人が倒れてきたんです」
馬の
「人?」
雨の降る中傘をさし、キールとともに馬車から降りたヴァイスが視線をうつすと、確かに馬車の前に女性が倒れている。二十代~三十代くらいの
「……行き倒れですか」
ヴァイスがふむと
「どうしますか。一応生きています」
困ったようにキールがヴァイスを見た。
「この区画は観光地であるがゆえ、親のいない子どもや住むところがない者などは
キールが女性を見る。やせ細りすぎていて、
「病気なのかもしれません。下手に連れ出して
御者の言葉に、ヴァイスは空を見上げた。街灯で明るいとはいえ、時刻はもう夜といって差し
「いえ、これから風雨はさらに酷くなります。この
「本気ですか
「……ええ、乗せてください」
キールの
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