座敷

@kenoko88

座敷

飯田橋の軒先凄じい或る一軒の家の端に、質素な座敷があった。その部屋には何やら毎日々々黒尽くめの方々が出入りしてゐるやうで、如何にも怪しげな様相を呈して居る。


或る日、毎日のやうに起こって居たその現象がぴたりと止んだ。訝しさに身を悶えて居た近くの御近所方は其れを感ずるに程無く皆驚愕の眼をしてそれを見つめて居る。あら?あら?


しんと静まり返ったその家は何やら物騒な気配を催し、深い紫のアウラを放っている。


と其処に一人、全身金タイツの漢が突然現れ、その家の前に立ちて、突然ラヂオ体操を始めた。


周囲の人々は皆炯々たる眼差しで其れを見つめてゐた。すると忽ちその漢の周りには綺麗な円が出来て居て、何か催しでも行うて居るのかというやうな気配を呈している。


すると突然、あの座敷のカアテンがピシャリと開き、内から大量のアリが現れ、皆口々に邪魔だ邪魔だと喋ってゐる。すると円は忽ちにランドルト環に成り、その開口部から金の漢に向けて一直線に黒い点線が完成し、まるでこれは家電製品の電源ボタンの形ではないかと思うた途端にその金の漢は気づくと消えて居て、その座敷のカアテンも閉じられてゐる。


ランドルト環は唯のランドルト環となったまま硬直、忽ち皆お隣さんとべちゃべちゃ話し始めてゐる。


その中の或る眼光鋭い一人の男が、このやうな事を云った。


「無惨哉塵も積もれば山となる金の神輿の数奇な祝典」

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