第4節 疫病と怪我人
集落に疫病が訪れた。
ヤママの中には、コトプァやおれの様子を見て、
疫病は緩やかにヤママ達を襲った。おれは弱るヤママたちにせがまれて、集落の中で子ども達相手にずっとそうしてきたように物語を語った。病床の中でも、物語を耳にする時のヤママ達は楽しそうで、おれは少しでも彼らの痛みを和らげることができるならと、ヤママが最後の一人になるまで寄り添い、最期の時まで話をした。
最後の一人を看取り、おれは集落に残った犬たちだけを引き連れて、百年ぶりに洞窟に戻った。洞窟には変わらず魔力が立ち込めていて、生き物が住むことはなかったようだ。犬たちもまた洞窟に入ることはためらっていたので、窪地の近くに寝床だけ作ってやった。犬たちはいつしか普通に森の中で狩りをして子どもを産み、野生に帰っていった。
――おれは竜の姿でまた一人の生活に戻った。それでも最初の時よりも楽しみが増えていた。ヤママは文字を持たなかったが、人間の姿になれるようになったおれは、その姿で物語をしたためることができるようになっていた。羊皮紙は貴重で手に入れるのは難しかったが、洞窟の石を削って板にして、竜の鋭い爪で文字を刻んだ。人間の姿になるには魔力を圧縮する必要があり、かなりの気力を必要とする。百年の幼竜期を終えて日に日に成長していたおれは日に二時間、頑張っても半日ほどしか人間に化けることはできなかったが、その二時間いっぱいを石に物語を刻むことに没頭するのがおれの毎日の楽しみになった。
物語を書く気が起きない日は、たまに人里の様子を見に行った。町や集落に入ると面倒なので、遠目に観察するだけだったが、竜の視力は鋭く、それだけでも
それでまた百年。
その日、眠りから覚めたおれの耳に届くうるさい声があった。その声は洞窟の外からのものだった。おそらく人間のモノだ。朝の眠りを妨げられ、久しぶりに少しだけ
「おーいおーい。いるんだろー? あ! そこの君!!」
洞窟の外でやかましく騒いでいたのは、やはり人間だった。少し驚かせて追い返してやろうか、いやしかしそんなことすると後が面倒だし――とそんな風に思考を逡巡させていたら、身を乗り出したその人間はバランスを崩し、足を滑らせて窪地に落ちた。
「あ」
おれと落ちた人間と二人で同じような間抜け声を出す。ドスンと鈍い音がした。あまりにも急なことだったから助けようにも助けられなかった。こんなところで不注意な。そういえば、昔似たような不注意で車をスリップさせて命を落とした馬鹿がいたことを思い出してしまい、放ってはおけなかった。
おれは仕方なく、窪地の下まで落ちたそいつを抱え上げ、洞窟の中まで運んだ。
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