俺が勇者であるために
海陽
序章 旅立ち
第一話 苦い悪夢と甘いお茶
悲鳴。
呻き。
叫び。
そんなものが充満した所に、俺はいた。
………ここは?
………どうして?
俺の頭をよぎったのはそんな考え。
ぐるぐると忙しなく廻る思考とは裏腹に身体は少しも動かない。
悪い予感がする。
視線の奥
何かいる……?
黒い何かが……
何かが……
来る。
がくん。と急に視線が低くなる。
黒い何かがどんどん増えていく。
その光景に恐怖のあまり咄嗟に逃げ出す。
……どこに?
分からない。
でも
逃げないと。
そんな感情に、恐怖に、心はどんどん支配されていく。
逃げる。
逃げる。
逃げる。
それでもちっとも進めない。
進んでいる気がしない。
黒い何かは形を変える。
あれは……手?
ひゅっ
一瞬。
俺は首を摑まれる。
脱出しようともがくが何も変わらない。
黒いのが何か……言ってる……?
継名。
……ツグナ?
そうか……、
継名は……、
俺の名前か……。
継名。
継名。
継名。
継名。
「あっ……」
継名。
継名。
継名。
継名。
「いやだ……」
継名。
継名。
「やめて……」
ツグナ。
ツグナ。
つぐな。
つぐな。
「その名前は!」
グナさん……。
ツグナさん……。
おーーーい……。
誰かに呼ばれて、俺は苦く奇妙な悪夢から覚める。
頬を伝う汗。
荒い呼吸。
嫌な気分だ。
ふと隣を見ると金髪碧眼、修道服姿の容姿端麗な女性が心配そうにこちらを見つめていた。
「ツグナさん?」
「っ……? マリーか?」
マリー。
小さい頃に教会に拾われて育てられた俺の幼馴染みたいな人だ。
「はい。ツグナさん、大丈夫でしたか? ひどくうなされていたようですけれど……」
「まあな。ところでどうしたんだ? わざわざ俺の部屋まで来て。何か用事でもあったか?」
「ああ。私、紅茶を淹れてみたんです。ツグナさん、飲みますか?」
「いや……今はそんn「飲んでくれると私すっごくうれしいんですけどね~?」
くそっ。ちゃんとかわいいじゃねえかよ!
上目遣いで! こっちの言葉遮ってきて!
「わかったわかった。飲むよ」
「えへへへ……。ありがとうございます。今持ってきますね!」
「おう。熱いうちに飲みたいからな。できれば急いでほしいが…いいか?」
「はい!急いで持ってきます!」
「あんまり急いでこぼすなよー」
早足で駆けていったマリーを眺めつつ、さっきの夢へと思考を移す。
本当に何だったんだろうか……
昔、同じような光景を見たような気もするが……思い出せない。
そもそもこの教会に拾われてマリーたちに出会うまでの記憶自体が朧げだしなぁ……
ああくそっ、考えても何もわかんねぇ。
こんなもん考えるだけ無駄か。どうせ何にも変わらねぇんだし。
などと考えているとマリーが紅茶を持ち帰ってきた。
「ツグナさん! 紅茶、持ってきましたよっ!」
「おお。ありがとな。じゃ、いただくよ」
ごくっ
いい香りだ。
風味もいいし、頑張って淹れたのがわかる。
のだが……。
これは……。
これはっ……!!
「甘んまぁぁぁぁぁっ!?!?」
「いや甘すぎんだろ!? どんだけ砂糖入れたんだマリー!?」
「いや、甘いほうがいいかなと思いまして……。角砂糖を3つほど入れましたが?」
「カップ一杯にそんなどぼどぼ入れんなぁぁぁぁ!」
口ではそうマリーを𠮟りながらも、俺は微笑んでいた。
でも角砂糖3つは流石に入れすぎだな……。
「あっ。ごめんなさいそっちに入れたの5つでした。角砂糖3つ入ってるのは私の分ですね」
ゑ?
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