第14話 勝君の父Tさんの死の原因
世の中まだまだLGBTに対して深い理解がされていないのが現状である。そんな中悲劇は幾度となく繰り返されて来た。
星信学園高校の男子Xが、豊明市の民家の廃墟で見付かった首なし死体Tさんの息子勝君にLINEを介して「友達以上💛💛💛LOVE。付き合いたい」などとメッセージを送って恋愛感情を告白したところ、勝君は「これからも良い友達でいたい」などと応答した。
友達の戯言と思った男子Xの言動を「友達として付き合いたいのだな」と最初は考えていた。だから…野郎達と一緒にXも誘って、海にもショッピングモ-ルのゲ-ムセンタ―にも山にも登ったりして、束の間の時間を謳歌していた。
そんな時にXとショッピングモ-ルの「屋内アスレチック施設」トンデミで、野郎達と遊んでいた時の事だ。
トンデミとは様々な遊び方のできる、トランポリンや誰でも気軽に楽しめるクライミングウォール、ハラハラドキドキのロープウォークなど体感型の遊びを世界中から集めた次世代の「屋内アスレチック施設」で、子どもから大人まで、ファミリーやグループみんなで楽しめる「屋内アスレチック施設」だ。
Xと2人でトランポリンをやっていた時に、Ⅹが後ろから抱きついてパンツの中に手を忍ばせて来た。
「オイ!ふざけるのも大概しろ!」
「いいじゃないか男同士だから…」
これには流石に勝君もチョット行き過ぎではないかと思い始めた。だが、修学旅行で最初は皆あそこをタオルで隠して大浴場に入るが「見せ合おうぜ」という事になり、野郎達と大浴場で入浴した時などは皆で大きさ比べをした事も有った。
だから…あんなゲイやレズと言った類の人間が、本当に自分の周りにいようなど想像も出来ない事だった。だから…勝君は差し障りない拒否を続けたが、次第に度を超す行為を取る事に、流石の勝君も気味が悪くなりXを避け始めて来た。
例えば抱き付いて来て暫くすると生温い、こそばゆいものが首筋を伝っているように感じる。それは舌で首筋を舐めているのだった。
「なんだよ?気味の悪い事するなよ」
「ご愛嬌 ご愛嬌フッフッフ」
そんな時に同級生の謙太君からとんでもない誤解をされた。
「ハッハッハ!お前等ゲイかよ!」
こんな勘違いをされた勝君は、Ⅹと距離を置くようになって行った。そのⅩとは学校でも幅を利かせているボス的存在。強く出る事も出来ず、受け入れる事も出来ず、やがてⅩの復讐が怖いので、2人の事情を知らない他の同級の友人とも距離を置くようになり、精神的に不安定になり夜眠れなくなっていった勝君。
それでも…ちょっかいを出してくるⅩに、勝君は同級生である友人たちが見ているLINEグループに、「Ⅹがゲイであることを隠しておくのもうムリだ。ごめん」と投稿し、Ⅹが同性愛者であることを第三者に暴露した。このLINEには同級生10名ほどが参加していたとされ、結果的に既に知っていた3人を除く、7人に対してAが同性愛者であることが暴露されてしまった。
***
ある日の事だボス的存在のⅩが皆に手招きで集まりの合図を送った。いつもだったらボスのⅩが怖いので一斉に集まって来るのだが、何か……ひそひそ話をして寄ってこない。
「オイ!皆どうしたんだい?」
隠し事が有るらしく、浮かない表情のクラスメイト達。
「お前等いい加減にしろ!一体何の真似だよ。言って見ろ!」
するといつもの仲間の1人が、意味有り気な表情で近づいて来て、ひそひそ話で耳打ちした。
「あのね!皆に聞かれたら不味いので小さい声で話すけど、アッ!やはりここじゃ不味いので、サッカー部の部活の時話すから……その時に……」
こうして授業が終わりサッカー部に向かったⅩだったが、するとさっきの友達が、校舎の木の陰にⅩを引っ張って行き話し出した。
「実はね!……こんな事……こんな事……言いたくないけどⅩが気の毒で見て居られなくてねぇ。実は…勝君がLINEで君の事ゲイだって暴露しちゃったんだよ。だから皆警戒して避けているんだよ」
「勝なんてこと・・・なんてこと・・・言うんだよ‼許せネ—!」
こんな事件があって間もなく勝君の父Tさんは、首なし死体で豊明市の廃墟から変わり果てた姿で発見された。
やはり未だLGBTに対して偏見が有り受け入れられない為、隠していたのに暴露された腹いせに復讐心で、勝君の父親Tさんは殺害されたのかも知れない。
全くの見ず知らずの人の話だが、酷い事を言う親もいるものだ。
その息子の親はゲイに対して偏見があるらしく、息子がゲイで挙句の果ては父親は、エイズを発症した実の息子に「青酸カリを飲んで死んでほしい」と言ったという衝撃的な話を聞いた事があるが、まだ頭の固い中高年には青天の霹靂で、このようにまだまだ受け入れられないのが現状のようだ。それでも……余りにも酷い話だ。
⁂
それではLGBTQの人々の肉声を何点か紹介していこう。
●自分の認識する性で生きられないことが、死にたくなるくらい辛いことだと分かってほしい。何気ない言葉に沢山傷ついてるのを知ってほしい、気づいてほしい。
●胸が膨らんだり生理が始まったりと身体が変化することは、自分の認識する性とは異なる。世の中の“普通”とは違う自分の中で違和感が膨らみ自殺願望が膨らむ。
●16〜22歳はセクシュアリティに対して家族の理解が得られないことで、家に帰宅したくない・うつ症状・摂食障害そして…自殺願望が強くなって生きるのが空しい。
● 「おかま」「ホモ」などの侮蔑的表現の言葉に自分が振り分けられる恐怖と日々闘い、疲弊して高校生の頃に精神疾患を発症し、高校を中退せざるを得なくなった。
●家族の中でさえ理解されずに、自分の好きな服を着たいと言えず、着ることができない。
●母親に隠していたがバレてしまい「二度と女性とは付き合いません、男性と結婚し子供を産みますと復唱しろ」と言われ拒否したら、「言うまで出さない」と飲まず食わずで3日間部屋に監禁された。恥ずかしい、なんで産まれてきたの、いっぺん死んできてとも言われた。
●学校の先生が理解してくれない「思春期の一時的な気の迷い」とか「あんたはおかしい」最終的に不登校になって自傷行為もしていた。
●毎日服を脱がされるいじめを受けていたが誰も助けてくれなかった。体育の授業で着替えをしなかったので教員に無理やり脱がされた。
この様な現状を見聞きする限り、思った以上に家族や周りの人々の風当たりが強い事が読み取れる。全く無神経の極み、LGBTQの人々の心の内に寄り添うのではなく、自分の役割、体裁に固執して苦しんでいるセクシャルマイノリティー(性的少数者)の人々の事は、念頭にない。先ずは自分の体裁、自分自身の事しか頭にない態度。これでは浮かばれない。自殺者が通常の人の6倍と言うのもうなずける話だ。
このような有り様では、秘密にしていたのに、(性的少数者)LGBTQの正体をバラされれば事件になっても致し方ない面もある。
***
一方のいぶし銀の異名を持つ銀さんこと長瀬刑事は、今窮地に立たされている。その理由と言うのが、名古屋弁でまくし立てられる事への違和感と、後輩たちに示しが付かないという理由で捜査一課長直々に注意を受けた。
「銀さん他県の新人も多い昨今、新人刑事も面と向かって言わないだろうが、銀さんの言葉がわかり辛いという投書が何通も寄せられている。これ幸いに共通語の勉強もしてくれたまえ」
他県から採用した新人達が意味が分からず、言葉の壁に苦しめられていると言うものだった。この長瀬刑事、実は両親が共働きで幼少期は祖父母宅で生活していたので、すっかり名古屋弁が染みついてしまった。本来ならば59歳くらいの年齢の名古屋人なら、共通語で話すのが普通になって来ているので、あそこまで名古屋弁丸出しという事は無いのだが………。
「どえりゃあ アッ間違えた!タ 沢山だった。ああアアアアアア……おうじょうこいた。アッまた間違えた!苦労するだった。ハァまーかん わやだがや。アッ!また名古屋弁。まぁ追々に直すで……」
後輩の為にも必死に標準語の勉強に励む長瀬刑事の姿が有った。
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