第2話 凛音と理生


 


 立花流星が初めて会った美しい少女は、あの日雨宿りをしようと紫陽花が咲き乱れるお寺の境内に駆け込んだ時に、既に雨宿りをしていた。


 どこか儚げな、それは銀河鉄道999の謎の美女メーテルのような物憂げな表情の、一瞬恐ろしいまでの二面性をはらんだ凍り付くような美少女だったが、実は…あの時の少女菊池凛音(リンネ)は、現在高校2年生で愛知県内でも有数の進学校に通っている両親の自慢の娘だった。暫く子宝に恵まれなかったが、結婚10年目でやっと授かった待望の赤ちゃんだった。


 父親は大手三洋化学薬品株式会社の部長で、母親は専業主婦の恵まれた家庭に誕生した凛音は、それはそれは大切に育てられ一点の曇りもない。何の悩みも見受けられない。ましてや成績優秀にしてこの美貌。一見すると何の問題も無い幸せ家族に映るのだが……。


 ある日の夫婦の会話だ。


「本当に俺達は幸せ者だなぁ。あんなに成績優秀な子供に成長してくれて……ありがとう。君がしっかり教育してくれたお陰だよ」


「あなたに似て優秀なのよ!ホッホッホ」

 それは両親の考えであって、凛音には溜まりに溜まった鬱積した悩み事が有った。それはやがて想像も出来ない大きな問題となって、覆いかぶさって来る事となる。


 

  ***

 凛音には両親の過大な期待や喜びとは全く別の感情があった。学校や家庭では良い子を演じているが、実は…全く別の二面性を持つ裏の顔があった。今日の凛音は男性とデートするだけでお金をもらえるパパ活をしている。類まれな可愛い容姿という事もあって、なんと10万円をゲットしていた。


 だが……喜んだのも束の間、その中年の男が車で自宅に送ってくれると言ったので、車に乗り込んだのだが、なんと駅とは反対方向の郊外のモーテルに車は入っていった。


「オジサン食事と映画に付き合うだけでいいって言ったのに、何でこんな事するの?私帰ります」


「君冗談言って貰っちゃ困る。たったの3時間ほどで、それも映画と食事付きで10万は無いわ?俺は熟女は興味がない。まだ青い娘が良いんだ。だから……帰さないよ」そう言うと凛音に襲い掛かって来た。凛音はありったけの力で抵抗して逃げた。


 凛音はこんな危険を冒してまで、何故中年オヤジの相手をするのだろうか?まぁ只のデ-トだけなのだが、それにしても裕福な家庭のお嬢さんなのに何故……?



 そして…危険な目に遭っても懲りずに、また…ある時は凛音は「レンタル彼女」をする事があった。本当はパパカツも「レンタル彼女」も18歳以上でなければ出来ないのだが、噓の経歴を書き綴って18歳と偽っていた。余りの美しさにスカウトされていたので、経営者の方も強くは言えなかった。そんな事をしたら、こんな上玉を怒らせてしまって断るに決まっている。


 それでは凛音は何故そんな事までしてお金を必要とするのか?父親は大手企業の部長さんだ。お金に困る事は無いのだが?


 その問題は追々に分って行く。


(本来の自分を偽って生きて行くのに疲れた。きっと本当の自分の姿を知ったら両親はガッカリして、自慢の娘ではなくなる)

 

 この凛音は何を言っているのか?はたから見れば成績優秀な模範生と思われている凛音。そんな娘がパパ活や「レンタル彼女」をする意味が分からない。確かに「パパ活」や「レンタル彼女」を両親が知ったら、ガッカリどころでは済まないが?


   ***

 それでは今度はもう1人の主人公理生について説明して行こう。

 理生は最近「レンタル彼氏」を始めた18歳だ。秘密主義の彼は多くを語らないが、何か大きな問題を抱えているようだ。今日は美容クリニック経営のマダム相手だ。


「あなたまだ随分若そうね?18歳以下に見えるわよ。フッフッフでもね?私青い少年に興味があるの。成熟した男には興味がないの。だから……プロフィル写真を見た時はピンと来たのよ。私が探し求めていたのはあなただって……」


「ありがとうございます。気に入っていただいて光栄です」


「私ね。未完成の男の子にチョッカイ出してみたいのよね。何か……大人を拒絶して受け付けないその眼差しに、そそられるのよ」


 そう言うと、その……もう50に手が届きそうなマダムが、いきなり理生にキスをして来た。若い娘しか知らない理生は恐怖で体が凝り固まっていたが、割り切って受け入れた。だが……若い男の子を堪能したかったのか、かなりの熱いキスで舌を入れる濃厚なディ―プキスとなった。まぁ対価を得る為には仕方のない事。



    ***


 凛音はパパ活やレンタル彼氏で稼いだお金で、化粧品やファッションにお金を費やしていた。そして…どういう訳か、家には一切置いていない。それではその衣装や化粧品はどこに置いてあるのか?


 それはトランクルームに預けてある。親の前では良い子ぶっている凛音は、親に化粧品や衣装の数々を見られたくなかった。あくまで良い子を演じ切っている凛音。でも……高校生だったら化粧品くらい持っていても、親はとやかく言わないと思うのだが、ましてや衣類までトランクルームに預ける必要が、どこにあるのか?益々分らなくなって来た。


 ※トランクルーム:荷物を収納・保管しておくことができるサービスを指し、海外では「セルフストレージ」や「パーソナルストレージ」と呼ばれている。


   ***

 

 ある日の事だ。ホテルの一室で首なし死体が発見されたのだが、風呂場で見つかった首なし死体だが、肝心の首はどこに消えたのか?


 まさか…凛音が関わっているとは思えないが?それでも…以前、別の60代の男性に無理矢理強姦されそうになったことが有るので、その可能性があるがハッキリした事は言えない。


 何とも、運の悪い事に50代中盤のその男は、たまたま凛音が働いていたレンタル彼女「ローズ」に会員登録していた1人だった。確かに流星が恐怖で凍り付いた2面性のある女の子だったので犯行も十分考えられる。だが、50代中盤のその男は、女性には一切興味が無いゲイだった。


 ※レンタル彼氏とは、男性キャストが時間単位で彼氏になってくれるサービス。 18歳から利用可能で 公開された顔写真やプロフィールから、理想の彼氏像に近い男性を選べる。 出張ホストもあるが少し違う。自然な恋人感覚で会話・食事・デートを楽しめる。 



(いつも感じるこの違和感……そして…自分自身がつくづくイヤになり罪悪感を抱き、うつ状態を悪化させている私。どうして……こんな事になったのか?時々誰にも言えなくて自分で抱えきれなくて……いっその事死んだらどんなに楽か?ああああアアアアアア……苦しい クルシイ)



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