第4話 いざ冒険者ギルドへ~生きてく為には働かなくては~

「園田くん!絶対に私たちが魔王を倒してくるから安心して待ってて!!」


 ありがとう委員長、いや、花江はなえさん。


不知火しらぬいの勇者、十六夜いざよい久遠くおんの名に懸けて!!」


 ありがとう、鈴木花江すずきはなえさん。


「まあ、十六夜が言うように簡単に倒せるとは思わないが、そうしないと元の世界に帰れないみたいだしな。それに、そもそも園田は俺たちの巻き添えを食ったわけだから、最悪、お前だけでも元の世界に戻してやらないといけない。こんな世界に一人で残されて不安だろうが、健康に気を付けて過ごしていてくれ」


 ありがとう、細川君。

 俺は君の人(委員長)を全く疑わない純粋さが不安だよ。


「…………」


 …………。


 こうして三人の勇者は、ゲームさながらに魔王討伐の旅に出発していった。



「園田殿、本当によろしいのか?勇者の皆さんが帰られるまで、この城に居てもらって構わぬのだぞ?」


 王様はどうやら本気でそう言っているらしい。

 普通、こういう場合――


「無能はいらん!!役立たずは出ていけ!!」

 とか、言われるもんじゃないの?


「そうですぞ、園田殿はその…職業も…あれ…ですし…スキルも……ですので……」


 これで住むところを無くしたら、住所不定無職の完成ですが何か?


「王様と宰相さんのお気持ちは嬉しいのですが、せっかくの異世界ですので、彼らが魔王を倒すまでの間、この世界を見ておきたいのです。それに、自分のステータスは分かってますから、無茶はしませんよ」


 今更、出ていけと言われると思っていたから、自分から出ていこうとしていたなんて言えない。

 そんなに優しくされると泣きたくなるのでやめてください。


「そうか…まあ、この国の中じゃったら、それほど危険な目に遭うこともあるまい。宰相――あれを」


「園田殿、こちらを」


 ちょび髭宰相が、何か入った皮の袋を手渡してきた。


「こちらは当面の生活費に充ててください」


 中には金貨がぎっしりと詰まっていた。

 ――金貨!?初めて見た!!


「王様が王妃様の目を盗んで、こっそりと貯めこんでいたへそくりでございます」


「え!?」


 何で王様が驚いてんの?


「宰相なんで――」


「我らからのお詫びの気持ちですので、どうぞお持ちください」


 我…ら?

 王様涙目だけど良いの?

 本当に貰っちゃうよ?


「これだけあれば泊まるところにも困らないでしょうし、冒険者ギルドで護衛を雇って、街の外を見て回ることも出来るかと思われます」


 おお!やっぱり冒険者ギルドとかあるんだ!


「王様、ありがとうございます。ありがたく受け取らせてもらいます」


「……はい」


 そんな顔しても、もう返さないからね?


 そうして、俺は初めての異世界への第一歩を踏み出したのだ。


「ううぅぅぅ……」


 王様も強く生きてね。


 タブンナの城下町は、何となく想像していたような街並みだった。

 白い石壁の建物と木造の建物が並び、どこか西洋風な顔立ちの人たちが歩いている。

 上下夏服の学生服に純日本人な顔立ちの俺はそれだけでも目立つようで、すれ違う人たちが好奇の視線を向けてきているのを感じていた。


 とりあえず、服装だけでも何とかしないとな。

 あと、当面の宿と、冒険者ギルドへの登録か。

 せっかく魔法とかステータスとかある世界に来たんだから、そりゃ冒険者とか気になるでしょ?。

 魔王なんていうラスボスを倒す必要が無いんだから、気楽なもんだしね。


 大きな建物の入り口には『冒険者ギルド タブンナ支店』と書かれた看板が掲げられていた。

 服屋を探していたのに、先にギルドを見つけてしまった。


 まぁ、いいか。

 先に登録して、ここで服屋とか宿屋とか聞いたらいいや。


『ギルド職員急募!!初心者大大大歓迎!!みんな仲の良い、笑顔で楽しい職場です』


 入ろうとすると、入り口にはそんな張り紙が貼られている。

 文字の周りには幼稚園児が書いたような不気味な顔?のような絵が取り囲んでいる。

 生首祭り?

 何かヤバい職場の気配を感じるけど、職員になりに来たわけじゃないから別に良いか。


 扉を開けて中に入ると、ゲームに出てくるような装備をしたガタイのいい人たちがいて、軽い感動を感じた。

 ローブを着ている人は魔法が使えるんだろうな。

 良いなあ。見てみたいなあ。


 正面奥にはカウンターらしきものがあって、制服姿の女性や冒険者の人が何か話しているのが見える。

 まずはそこだなと思って、カウンターへと歩いて行くと、やはりここでも周囲からの視線を強く感じた。

 こういうのも、異世界物ではあるあるだね。


 空いているカウンターの受付へと向かうと――


「いらっしゃいませー!!こんにちはー!!」


 どこかの古本屋を思い出させる挨拶に襲われた。

 身長は小さめだけど、元気いっぱいの笑顔の女性。


「あの、すいませ――」


「職員希望の方ですねー!!ありがとうございますー!!」


 そんなに職員不足してんのか?


「いえ、冒険者登録をお願いしたいんですけど……」


 そう言うと、受付の女性は途端に笑顔を無くし――


「チッ、ああ……新規の方でございますですか……」


 おい、今舌打ちしたよな。

 テンション下がってんのはお前だけじゃねーぞ。


「……じゃあ、これに適当に記入してくださいませです」


 じゃあ?適当に?

 笑顔で楽しい職場はどこいった?


 ――ゴン!!


 渡された用紙を見ていると、何か鈍い音が聞こえた。


「ぎゃふん!!」


 そして、受付嬢の悲鳴?


 顔を上げると、頭を両手で押さえてカウンターに突っ伏している受付嬢と、その後ろで拳を握りしめている見るからにしっかりした印象の受付嬢が立っていた。


「ラバンダ!どうしてあなたはいつもそうなんですか!受付としての心構えについて何度も何度も口をすっぱくして言ってますよね!!貴女のその態度のせいで、どれだけの苦情が私に上がってきていると思っているの!!毎日毎日遅くまで残業して、休みも返上で仕事しても全然減らないのは誰のせいだと思っているんですか!!」


「ですから……私も少しでも職員を増やそうと思って……」


「貴女がその態度を改めれば済む話なんですよ!!」


 ――ゴン!!


「ぎゃふん!!」


 怖っ!!鳥肌でた!!

 隣で会話をしていた受付嬢と、屈強そうな冒険者のPTが視界から静かにフェードアウトしていく。

 触らぬ神に何とやら……。

 よし、俺も今のうちに……。


「申し訳ありません。こちらの者が失礼をいたしました」


 カウンターの下に気配を殺して隠れようとしたところを捕まった。

 無念!!


「きちんと対応させますので、どうかお許しください」


「あ、いえ、はい……」


 許さないなんて口が裂けても言えない。

 スタート直後にバッドエンドとか最悪だし……。


「うぅ……募集の貼り紙とかも頑張ったですのに……」


 あれ、お前か。

 ギルドにかけられた呪いかと思ったぞ。


「では…こちらの用紙に記入をお願いしますですです」


 涙目のまま改めて用紙を渡された。


 ちゃんと書いてるのが読めるのは助かる。


 名前……ソノダ タイセイっと。

 おお!カタカナで書いたつもりなのに、勝手にこちらの文字になってる……みたい。


 レベル……1。

 数字の表記はどうやら同じっぽいな。


 職業……職業……えっと……。


「どうかされやがりましたですか?」


 職業欄でどう書くか迷っていると、ラバンダ嬢が声をかけてきた。

 もうそれ、敬語でも丁寧語でもないからな。


「ん?レベル……1?……ぷふっ!!」


 そこじゃねーよ!


「ええと……職業欄なんですけど……」


「ぐふっ…そこは…ぷぷ…今の職業…ぐぐぐ…構いませ…もう…無理……ぎゃはははは!!」


 お姉さん出番ですよ。


 ――ゴン!!


「ぎゃふん!!」


「大変失礼いたしました」


「いえ、お気になさらず」


「叩かれ過ぎて頭が悪くなったらどうするんですかぁ……うぅぅ……」


 お前は逆に良くなれ。


「職業のところは現在の職業を記入していただければ構いませんよ。今後職種を変更された場合は発行されたギルドカードをお持ちいただければ更新いたしますので」


 何故、こんなきちんとしたお姉さんの下で、あんな育ち方をするのか?


「ええと…今の職業は……その他です」


「はい?」


 うん、そういう反応になるよね。


「職業は、【その他】です」


「【泥田坊】?」


 それ流行ってんのか?

 それとも、俺の言い方がなまってんのか?


『【泥田坊】

泥田坊は顔が片目のみで手の指が3本しかなく――』


 お前も毎回出てくんな。


「【泥田坊】の方は、この時期になると農家の方からの依頼が多くなりますので、こちらとしても大変助かります」


「あんのかよ!!」


「ありますよ」


 あいつら、仕事で妖怪やってたんだ……生きてくって大変だな……。


 異世界の怖さをまざまざと感じさせられたのだった。



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