おいしい味見
献立が決まれば、あとは作るだけだ。休憩を終えると、千影はホワイトボードに夕食のメニューを書き込んだ。
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【今日の夕食】
・ビーフシチューオムライス
・リーフレタスの粉チーズサラダ
※オムライスのご飯はバターライスです
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まずは、ビーフシチューからこしらえる。
牛バラ肉に塩コショウをしてから、じゃがいもを八等分にカットする。じゃがいもを水にさらし、玉ねぎはくし切り、人参は乱切りにする。
フライパンで玉ねぎと人参を炒めて、鍋に入れる。野菜を炒めた同じフライパンにバターを入れて、牛バラ肉に焼き色をつける。バターはたっぷり入れること、焦がさないように注意することがポイントだ。
焼き色がついたら鍋に入れ、水を加える。赤ワインとブイヨンも入れたら、弱火でコトコト煮込んでいく。
灰汁をとりながら一時間半ほど煮込んだら、デミグラスソースを入れる。水にさらしておいたじゃがいもとケチャップを足したら、味が馴染むまでもう一度煮込む。
じゃがいもに竹串がすっと通ったら出来上がり。牛バラ肉がほろほろになったビーフシチューの完成だ。
念のため味見をすると、肉と野菜の旨味がぎゅっと詰まったビーフシチューになっていた。
「濃厚でおいしい……!」
思わず自画自賛する。ちゃんと濃いめの味になっている、と安心しながら千影は鍋に蓋をした。
続いて、バターライスを作る。
普通のオムライスならケチャップライスにするところだが、ビーフシチューをかけるので今日はバターライスにする。
フライパンにバターを入れ、みじん切りにした玉ねぎを炒める。玉ねぎの色が透明になったらご飯と一緒に炒め、乾燥パセリを加えて彩りを良くする。
バターの香りがふわっと漂ってきた。少量を小皿にとって味見する。
「うんっ、これもおいしい」
玉ねぎの甘味とバターの塩気が、ちょうど良い具合に仕上がっている。
次はサラダの準備だ。
リーフレタスは、よく洗って水気を切る。粉チーズとマヨネーズと酢を同じ割合でボウルに入れて、よく混ぜ合わせてドレッシングを完成させる。
ボウルにリーフレタスを入れて味を馴染ませたら、リーフレタスと粉チーズのサラダの完成だ。
こちらも、小皿に盛って味を確かめる。ドレッシングと混ぜ合わせたから、レタスがほど良くしんなりして、その分だけ味が良く付いている。
濃いめの味付けだけど、酢を入れているのでさっぱりとモリモリ食べることが出来る。
社員たちがいつ帰宅してもいいように、卵液をこしらえておく。卵はひとり2個分。白身を切るように菜箸でよく混ぜる。
一通りの準備を終え、千影は洗い物に取り掛かった。包丁やまな板はもちろん、布巾のひとつに至るまでていねいに洗う。調理器具は大事な仕事道具だ。包丁に刃こぼれがないか確認してから、布巾を煮沸消毒する。
しばらくすると、玄関のほうから「お腹減った~!」という声が聞こえてきた。
「ただいまー!」
食堂に入って来た陽汰は、千影を見つけると破顔して「ご飯、もう出来てる?」と言う。
「準備は出来てます。すぐに召し上がりますか」
「食べる食べる~!」
うきうきと答える陽汰に、洋皿を渡す。
「バターライスをお好きな分だけ盛ってください」
「りょうかーい」
陽汰が大量のバターライスを皿によそっている。
千影はフライパンを熱して油を入れ、準備しておいた卵液を流し入れた。ジュッと良い音がする。
卵液をフライパン全体に広げるようにして、周りが固まってきたらいよいよだ。
じいっと陽汰に見られているので、若干緊張する。
菜箸を大きく広げて持ち、両端から中央に箸をすべらせる。卵液を挟むようにして中央で合わせたら、菜箸はそのまま固定しておく。
フライパンを回転させていくと、半熟ともいえない状態だった卵液がドレスのひだのような形になっていく。
卵液が完全にかたまる前に、フライパンからバターライスの上にスライドさせるようにして盛る。
オムライスの周りにビーフシチューをかけてたら出来上がり。
繊細なドレープが美しい、ドレス・ド・オムライスの完成だ。
「お待たせしました。どうぞ」
リーフレタスの粉チーズサラダと一緒に、配膳台に置く。
「す、すげ~~! プロの技だー! あっという間に卵がくるくるになった!」
陽汰が目を輝かせている。
「マジできれーだなぁ。食べるのもったいない」
そう言いながらも、彼のお腹はぐうぐう鳴っている。
「早く食べてください」
素っ気ない声が出てしまい、千影は慌てて言い直した。
「で、出来立てがいちばんおいしいので。お、おいしく食べてもらいたくて……!」
「あ、そうだよね。やっぱ出来立てが最高だよね。実は貫井さんに『今日の夕食はこんなに美味しそうなオムライスですよ~!』って画像を送ってあげようかと思ったんだけど。でも、美味しく食べるほうが大事だからやめとく!」
にこにこと笑いながら、陽汰がスマホをスーツの胸ポケットにしまう。
満面の笑みを浮かべて「うまそ~!」と言う陽汰を見ていたら、強張っていた千影の体から、すっと力が抜けていった。
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