第29話 ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ


「ぎぃああああああああ!」



 ヌメヌメ温かくてプルンとしたものを親指を中で曲げてつぶした。


 おれは真っ黒おじさんにけとばされて、ふっ飛んだ。



「殺す!絶対に殺してやる!」



 真っ黒おじさんの目からは血と白いものがまざった涙が流れていた。


 おれはにげた。



「けっきょく逃げるのか?友達を捨てて!」



 真っ黒おじさんがいかりながら追ってくる。


 でも、五十メートルくらい行ったところで後ろから背中をなぐられて、おれは木に頭からげき突した。


 頭がグワングワンする。なんとか木をだきかかえるようにして起き上がった。


 手の平にこれまでで一番のいたみがおそいかかった。


 ふり返ると、真っ黒おじさんの顔がドアップで目の前にあった。


 いかり顔で、油じみてて、くさくて、血のなみだを流してる顔が目の前にあった。



「ガキが…!調子にのるなよ…!」


「ちけえんだよ!はなれろクソじじい!」



 おれは真っ黒おじさんのむな口から手をつっこんで、手を開いた。


 ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ


 聞いただけで危険だとわかる羽音が、真っ黒おじさんの服の中からした。



「でっ!でっ!でっ!」



 真っ黒おじさんは背筋を反り返らせて何度もはねた。


 服をばたつかせて、中のものを出そうとした。


 ブゥ~ンぶぶぶぶぶ


 服の中からオオスズメバチが出て来て、大空へと飛んで行った。



「はぁっ!はぁっ!」



 真っ黒おじさんは服をぬいだ。へその上、脇腹、そして心ぞうの辺りがぷっくりはれてきていた。


 おれの手もはれていた。オオスズメバチをにぎりこんだからだ。


 ぶつかった木は、前に坂上たちとノコギリで傷をつけてミツを出した木だった。

ここを目指して走った。


 前はカナブンしかいなかったが、大量にミツが出ているからオオスズメバチの一匹や二匹いてもおかしくないと思った。


 かけだったし、めちゃくちゃいたい。


 でも、体力的には自分より強い大人に勝つためには、このくらいしないといけなかった。



「ひっ、ひっ、ひっ、ひっ」



 真っ黒おじさんは真っ赤なでこぼこが体中に出来てかきむしり、ふらふらと円をえがくように歩き回り、ついにはたおれた。


 おれはかけに勝った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る