第24話 無表情
おれは、しくったのが直感的にわかった。せっかくつなわたりのような会話をしてきたのに、最後の最後で気がゆるんだのかまちがえてしまった。
林田さんはもう笑顔じゃなかった。いかった顔をしていた。
「ありがとうございます、じゃない?」
いや、もういかった顔もしていなかった。いかりを通りこして、無表情な顔をしていた。
「あ、はい、ありがとうございます」
「それだけじゃなくない?」
「え…?」
おれは頭が真っ白になって、何を言ったら良いかわからなかった。
「ごめんなさいだろうがっ!」
林田さんは急に大声を出した。
おれはビビった。
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
二回あやまった。
「何がごめんなさいなのか言ってみろ」
「え~と…」おれはまたどなられるから一生けん命考えた。「木を傷つけたことと、それをちゃんとあやまってなかったことと、返してもらってお礼を言わなかったことです」
林田さんはだまってまだ見ていた。
「あ、あと、ここまで送ってくれたし、いろいろ説明してくれたし、わざわざ送ってくれたし…全部です!」
林田さんはまた無表情に「それだけか?」と聞いてきた。
「え~と、たぶん…」
「まだまだ」林田さんはコシのビニールぶくろを手に持ってふりかぶった。「あるだろっ!」
ビニールぶくろをおれの頭にふり下ろした。
頭にカブトムシやクワガタが当たった。甲虫だからいたい。
「あ!す、すいませんでした!顔に投げて!」
さっきにげる時に林田さんの顔にこのビニールぶくろをぶつけたのを思い出した。
でも、林田さんはもう聞いてなかった。
今度は顔を真っ赤にしていた。
「だいたい君たち子供はカブトムシやクワガタの命をなんだと思ってるんだ?かわいそうだと思わないのか?ずっと土の中にいてカブトムシなんてたったひと夏の命だぞ?見ろ!」
林田さんはビニールぶくろを広げて見せた。
中にはバラバラになったカブトムシとクワガタがいた。まだ手足が動いているのもあった。
「お前がやったんだ!お前の責任だ!お前の罪だ!そうだろう?」
頭のはしっこで、林田さんがおれの頭を思いきっりたたいたからこうなったんじゃ?と思った。じゃないと、まだ手足が動いているものの説明がつかない。
でも、おれはそれを頭の中でかくした。
「ごめんなさい!全部おれの責任です!おれが悪かったです!」
「いいや、お前はわかっていない。だいたいさっきお前はすいませんって言ったろう?」
「え?」
「言ったろう?言ったんだよ!ほら見ろ!ついさっき自分で言ったことさえ覚えてない!そんなやつの言葉をどう信用したらいいんだ?あやまる時はごめんなさいだろっ!」
すいませんとごめんなさいにそんなにちがいがあるとは思えなかったが、おれはそれもかくした。
「ごめんなさい!」
おれはとにかく許してほしかった。
頭がしびれて、なみだが出てきた。
林田さんは一しゅん笑ったような顔になって、またすぐに無表情になった。
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