夏祭り

和田いの

短編

私は、友達に誘われて夏祭りへとやってきた。その友達の話だと、ちょっと変わった屋台が多いみたい。いつも同じ屋台ばかりではつまらないということで、一風変わった夏祭りにすることになったらしい。


メッセージがきた。

いまかき氷たべてる


かき氷屋さんの近くに行くと、かき氷を食べながら歩いている彩を見つけた。

「ちょっと」

「ん、やっほ」

「何1人で楽しんでんの。めっちゃ水ヨーヨー持ってるし」

「あ、これあげる」

「ありがと」

「それただの水ヨーヨーじゃないんだよ」

「え?普通にしかみえないけど」

「中にジュース入ってる」

「えー飲みづらそう」

「絶対こぼすよね」

「そっちのかき氷もなんか変わってんの?」

「うん。あれみて」

私は指をさされた方をみた。かき氷のメニューが書いてある。


シロップ

イチゴ、メロン、レモン、ブルーハワイ

モモ、ミカン、バナナ、キウイ


「氷って?」

「氷の味も選べるんだよ。凍らせた果物まるごとかき氷機に入れて砕いてた」

「えー、おいしそう」


私はかき氷を食べながら見てまわることにした。

いろいろな屋台がある。

中にアメが入ってたら景品がもらえるたこ焼き。

長い蝋燭に向かって火が消えないように投げる輪投げ。

もんじゃ焼きを皮で包んで揚げた揚げもんじゃ。

上に商品が置いてあるポイの的を水鉄砲で狙う射撃。


いつもの屋台の方がいいなと思うものもあったけど、新鮮で楽しかった。

1時間半くらいが経ち、そろそろ歩き疲れてきた。

これは最後にしようと言っていた場所があったのでそこに向かう。

片手で掴める分だけ取っていいという、駄菓子のつかみ取りをした。

いろいろな駄菓子が入っていて、スナック、チョコ、ガム、ラムネ、アメ、グミ、ゼリーなど様々なものがあった。


予想通り、大量に掴むことができた。最後にしたおかげで荷物にならずに済んだ。

いっぱい取れたことを一緒に喜んだ。



私たちは会場近くのベンチで駄菓子を食べながら休んだ。

途中、彩がスマホのインカメで何度も口の中を見ていた。気にはなりつつも、何か歯に挟まったのかな程度に思っていた。

10分ほど経った頃、「ちょっと待ってて」と屋台の方へ消えて行った。

駄菓子を入れたビニール袋をベンチに置きっぱなしで、その中には食べ終えたごみと、まだ手をつけていない駄菓子が共存している。


すぐに戻ってきた。さっきまで持っていなかったマグカップを持っている。たしかマグカップは、たこ焼きの中にアメが入っていたらもらえる景品だ。

でも、たこ焼きを食べたのはかなり前だし、今たこ焼きを買って食べる程の時間はなかった。

もしかして、取ったアメをたこ焼きの中に入ってたことにして店主を騙した...?


「おかえり。そのマグカップどうしたの?」

「景品で当たったー」

「えーいいなぁ」

そんな会話をしながら私は、さっき見た袋の中を思い出していた。アメを食べたごみが入ってて、ソーダと...イチゴ味だったと思う。

「マグカップって3等だっけ?」

「うん。これ私いらないからあげる」

「え、いいの?」


私はマグカップをもらった。3等は何いろだったかな。1等が白だったのは覚えてるんだけど...。

あれ、自分がいらないものを、騙してまで手に入れようとするかな。

マグカップをくれた手前、聞きづらいけどどうしても気になる。

私は覚悟を決めて聞いてみることにした。

「あのさ」

「ん?」

「もしかしてなんだけど...私の勘違いだったらごめん。さっき、つかみ取りのアメ、たこ焼きの中に入ってたことにした?」

「...ん〜気づかれちゃったか。ごめん、どうしても1等がほしくて」

「え、1等?」

「うん。だってSwitchだよ?こんなチャンスはないって思って」

「でも、あのたこ焼き屋さん、はじめから1等と2等は入れる気ないみたいだったよ」

「え?どういうこと?」

「はじめにたこ焼き屋さんに行った時、気になったことがあって、3等以降の景品は置いてあるのに、1等と2等の景品が見当たらなかったの。屋台が小さいから、裏に置いてあるものは全部丸見えだった。私が行った時間はまだお祭りが始まってから30分も経ってなかったから、その間に1等と2等の両方が当たったっていうのはない思う。店主がたこ焼きを作るときに、自分でアメを入れるから、商品が1個しかないなら、最初の30分で入れるっていうのは、ちょっと変でしょ?」

「...たしかに。全然気づかなかった」

「それより、白いアメなんて持ってたの?」

「ううん。ソーダアメで代用したんだよ」

「え、どうやって?」

「中にしゅわしゅわしたラムネみたいのが入ってるタイプだったから、それを見せた」

「そんなのあるんだ。まだ残ってる?」

「うん。ほら」

アメを歯で挟み、ニッと口を開けている。

「こうやってソーダの色が残ってない方みせたの」

「へぇ...。よく思いついたね」

「うん、偶然」

彩は話しながら、水ヨーヨーを飲もうとしている。

急に風船が萎み出し、中のジュースが半分くらい溢れた。

「うわっ」

「わ、びちょびちょじゃん」

私は笑った。

「も〜、さいあく」

「ここに入れれば飲めそう」

私は水ヨーヨーをマグカップのなかに入れて、爪を押し付けた。

するとヨーヨーが割れ、ジュースをほとんど溢さずにマグカップに入れることができた。

「よし。びちょびちょならずに済んだ」

「3等も役に立つんだ」

「そういえば、なんで3等もらえたの?」

「あー、1等もう出ちゃったから代わりにって」

「なにそれ、はじめから1等入れてないくせに」

私はジュースを飲み干した。


「2人とも楽しんでる?」

後ろから声をかけられ、振り向くと友達がいた。

「あ、めっち。すごい楽しいよ!」

手にはSwitchの箱が握られている。

「めっち、今日は誘ってくれてありがとう」

私は動揺を隠し、お祭りに誘ってくれたお礼を言った。

「忙しくて、全然話しかけれなくてごめんね。今もたこ焼き屋の景品運ぶとこで。ごめんそれじゃ!」

「え、うん」

めっちは走り去って行った。


しばらくの沈黙の後、彩が口を開いた。

「1等あったね」

「...うん。多分、景品は別のとこに置いといて、誰かが当ててから持ってくるってことかな」

「じゃあ私が1等出したときは...」

「それは、嘘なのが丸わかりで適当に景品渡したんだと思う」

私はそんなことを言いながら、頭の中では自分の言ったことが間違っていた恥ずかしさでいっぱいだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夏祭り 和田いの @youth4432

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ