【短編・完結済】※ランキングの順位が最下位となりましたので、この作品は打ち切られました※

水都まる

前編

この世界には、"job"がある。


jobとは、例えばファンタジーでありがちな"勇者"とか"魔導師"とかではなくて、はたまた、現実世界での"会社員"や"公務員"みたいなものでもない。


……そう、そのjobとは……



「ねぇねぇ、リンのjobってなんだっけ?」

「私は"Mentor"」

「えー!!いいなぁー"Mentor"!!あーしなんて"Trickster"だよ?なにをどうトリックしてスターすればいいのかわかんないって…」

「あんたはもう充分場を引っ掻き回してると思うけどなぁ…」



……そう。jobとは、例えば"Hero"や"Herald"といった、物語上の配役のことである。


しかし、この世界は、紛れもなく現実である。


なぜ現実に、そういったファンタジックなjobとやらが生まれたのか、世界の名だたる科学者達は日々研究しているが、未だ答えに辿り着けていない。


……数百年前に、ぽっとこの世界に生まれ出たjobは全部で9つ。


"Hero"……主人公

"Mentor"……道標、師匠

"Guardian"……守護者

"Herald"……使者

"Shifter"……自由人

"Night"……悪者

"Trickster"……道化

"Friends"……協力者



「……で、残り1つが何なのかは、まだ分かっていないそうだ」

「えー……」

「先生ー、MyTubeのいいところで入る広告みたいじゃないですかそれ。せっかくjobの授業なのに」

「しょうがないだろ。世界中の著名な学者が集まってここ50年は毎日研究してるのに、未だに分からないんだから。……おいアイカ!リン!私語が大きい!!」

「あーい」

「すみません。もう、アイカってば……」

「えへへ……」

「ったく……いいか、続けるぞ!」



……9つ目のjobについては未だ不明である。


ただ、このjobというものは生まれながらにして全人類に、それぞれ制定されるものである。jobが突如生まれた時に、既にこの世に生を受けていた人達は、その時に全員制定された。


かくして、この世界には"job"がある、ということになったのである。




◇◇◇◇◇◇◇




「……ねぇミツ、うちらの担任まじで神ってると思わない!?」

「いやまじでそれな?他の先生達だったら、授業中ちょーっとでも喋ろうもんならすぐ"授業中だぞ!!私語するな!!"って怒り散らかすもんね。問題の解き方がわかんないから、仲良い連中で相談しあってるだけだっつーのに…」

「ほんとにねぇー……あんな怒ることなくない?解説中とかはうちらちゃんと黙ってんだよ?まじ偉くね?」

「それなー」



…教室の中央から少しズレた席で、集まって駄弁っている女子達の声が聞こえてきた。どうやら、授業が終わったらしい。……この漫画、そんなに好みじゃないな。でも最近流行ってるアニメの原作だし、まだ新しいから高く売れるはず。週末にでも、READ・OFF行って売ろうっと。


そんなことを考えながら、机の上で立てて開いていた教科書……もとい漫画を閉じて、机の中に仕舞いこんだ。



「あー!レイってばまた漫画読んでたでしょー?」

「げっ、マリア……」



と同時に、あたしのクラスメイトであり、友達……?のマリアが、あたしの席目掛けて一直線に走り寄ってきた。ほんと、騒がしくて嫌になる。


……紹介が遅れたね、あたしの名前はレイ。御年17歳の、普通の女子高生。物心ついた時から漫画が身近にあって、そのせいか今では生粋の漫画好きだ。


もう国内の漫画という漫画は全部読み尽くしたのでは?ってぐらいには、ここ十余年、学校以外の時間をずっと漫画に費やしている。


そんなあたしの、最近の悩みはいくつかある。ちょうどいいから、その悩みの中の1つを今ここで紹介しようと思う。



「…ねぇねぇちょっと聞いてるー?レイ、ぼーっとしすぎだよー。あ、そうそう!昨日うちの彼氏のお兄ちゃんがさ〜……」

「……」



……最近の私の悩みの1つは、私の(自称)友達であるらしい、マリア。


授業が終わるや否や、すぐにあたしのところに駆け寄ってきては、あたしが顔も知らない名前も聞いたことない、その上有名ですらないような人の自慢話を休み時間中ずーっと隣でしゃべり続けるのだ。正直、うざいったらありゃしない。



「……で、すっごく高い車を、今度私にくれるんだって。もう乗らないから〜って、ほんっとにノリ軽い!!」



多分、この子は他に話を聞いてもらう(聞かせる)のにちょうどいい相手が居ないから、はたまた自分だけが長々と喋り続けても文句を言ってこない扱いやすい人があたしだからか、高校入学以来ずっと隣にいる。


……正直なところ、あたしはこの子が苦手……いや、嫌いなのだ。



「あっ。それじゃあそろそろ私、帰るね〜!レイ、また明日ね〜!!」

「あ〜いまた明日」



反射で答えてはしまったけれど、心の中では"また明日"しなくていいよ、あんたがあたしのところに来なければ、毎日学校ももう少し楽しめるのに……と、思っている。


……なんか気分下がった。今日の晩ご飯はあんたの大好きなひつまぶしだよって、母さんから連絡来てたのに……帰りの電車で漫画でも読んで、気分上げてかなきゃ。晩御飯をより美味しく食べられるように、準備しなきゃね。


そんなことを考えながら、あたしも帰りの支度をし始めた。……んだけど、



『この世界には、Jobがある』



ふと、この1つのフレーズが、あたしの目に飛び込んできた。


正確に言えば、そのフレーズが書いてある、先程までJobの授業で使われていた黒板が視界の端に入った時に、それがやたらと目についた。


……今回もちょうどいいから、あたしの悩みをもう1つ、紹介しようと思う。


それは……みんなと違って、あたしの"Job"だけ不明なんだ。



……さっきの授業の内容を思い返してみたら……この世界にはJobがあって、そのJobは全部で9種類ある。


Hero……主人公、Mentor……道標·師匠、Guardian……守護者、Herald……使者、Shifter……自由人、Night……悪者、Trickster……道化、Friends……協力者。


上記の8つは判明しているけれど、のこりの9つ目がなんなのかは分かっていない。



……ここまできたら、もうみんななんとなく予想はつくと思うけど……あたしの"Job"はきっと、その"なんなのか分かっていない9つ目"なんだと思う。


別に、自分のJobがなんなのかわかってないこと自体は……あんまり気にしてない。


でもふと、みんなが自分のJobについて話す時や、なにかしらの場面であたしのJobについて聞かれて、咄嗟に嘘をついて答えた時とかに……あたしの胸は、ちょっとぴりって痛むんだ。


……まあ、そんな気がするだけだと思う。でも、ほんの少しだけ嫌な気持ちになるのは事実だ。……なんか、その時のことを思い出した。ちょっと憂鬱……


そんなことを考えながら、黒板をぼんやりと眺めていた。



『……午後6時になりました。部活動生以外で、今も校舎内に残っている生徒は速やかに帰宅してください。また、届出をして許可を貰ってから残っている生徒は、許可証を近くの机の上などの分かりやすい位置に置いておくようにしてください。繰り返します、午後6時に……』



そこに、教室のスピーカーからほんの少しノイズが混じった生徒の声(録音)が響いた。



……ああ、もうこんな時間。



普段、あたしは夕方のHRが終わったらすぐ帰るから、この放送を聞いたのは久しぶりだ。


その久しぶりに聞く放送が終わる頃に、あたしは教室を後にした。



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