サンタクロースが死ぬ瞬間に  仁王頭シリーズ第二弾

ヌン

第1話 エピローグ


 新宿区歌舞伎町。


 灼熱のアスファルトがゆらゆらと熱気を立ち上らせ、熱中症警戒警報がもう一週間も続く大気は、日陰ですらビルの反射熱でひと息もつけないほどの高温になっていた。


 それでも靖国通りとセントラルロードが交わる歌舞伎町交差点は日曜の歩行者天国に闊歩かっぽする人々でごった返している。


 皆、暑さを避けるために言葉少なに、それぞれの目的地に向かっていた。


 そんな雑踏ざっとうの人々は小さな悲鳴を耳にしても足を止めない。


 しかし、その悲鳴が複数の人々から湧き起こり、大きなざわめきの波になると真夏の太陽でも好奇心をとめることはできなかった。


 熱気に顔をしかめつつ、人々が足をとめて凝視する先に、その男はいた。


 頭と腕を大きく振り回し、うめき声をあげながら、人々にぶつかっては看板をひっくり返す。


 この街によくいる酔っ払いだと、さめた目で通り過ぎる者よりも足をとめた者が多い理由は、男のいでたちの異常さだ。


 その男はサンタクロースだった。


 白い縁取りのある赤い服に金ボタン。割腹かっぷくの良い腹も、見事な白い髭も体から離れることはなく、自前のようだ。ただ、足元だけは裸足で傷だらけだった。


 踊るように錯乱する男に、人々は当然のようにスマートフォンのレンズを向ける。


「うわ、こっちくんなよ」


 学生らしき男性に、口から血液混じりのよだれらしたサンタクロースは唸り声をあげて歩み寄る。


 視点の合わない表情で、しかし、男性に枝垂しだれかかった。


「くんなって」


 男性はそういいながらも、ついには足元の地面に倒れ込んだサンタクロースをスマートフォンで撮り続ける。


「ク、クネヒト……」

 

 吐息とともに搾り出すようにそう呟いて、サンタクロースの眼球は上転し、赤黒かった顔色は見る間に血の気を失った。


「お、おい、あんた……」


 動かなくなったサンタクロースを録画中のスマートフォンでつついてみるが、反応はない。


「死んだんじゃね?」

「ウソでしょ⁈」

「サンタさん、死んじゃったみたいー」

「誰か救急車!」


 遠巻きに見る人々は、口々にそう言いながらもスマートフォンを向けるのをやめない。


 救急車が到着する十分弱の間に、サンタクロースの死の瞬間はまたたく間にネット上に拡散した。



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