Ver5.1 怪奇を越えた怪奇

トウケイ中央のオフィス街。


ゴミがゴミを呼ぶゴミみたいな地域。


路上ではラリった人間のような何か。

屋上ではワーホリの飛び降りショー。

そして、ビルの中では理性が溶けた獣達が実験中。


この世の中が、いかに狂っているのかを教えてくれるのがこの場所だ。


じゃぁ、なぜわざわざここに来ているかって?


仕事だよ。


なんでも、幽霊やら何やら(覚えてない)が出るから祈祷してほしいらしい。

私は少し感動したよ。

まだ祈りに力があると思っている人がいるなんて。

捨てたもんじゃないね……!



でも、全然身に入らない。



色々口で喋って祈りを捧げているが(幽霊さん静まって?みたいなやつ)全然上の空。



原因は分かってる。



この前の件のせいだ。


あのトクイチとかいう、僧侶のオートマトン。

あいつが何を企んでいるのかが分からないせいだ。

(説明放棄された漫画とか小説ってイライラするよね)


少なくとも、あいつは宇宙からやってきたことは分かった。

(意味わかんねーけど)


そして、ここに来た理由は――


『呼んだのは、君たちだろ?』


昨日のあいつの言葉を思い出す。


私たちが呼んだという理由以外は、冒涜的?助けたい?

結局、答えははっきりしない。

やはり、監視対象と認識しておくべきか……


はぁ……マヨイガの件もあるってーのに、まためんどくさい奴が増えたなぁ。



そんなことを考えていると、祈祷は終わっていた。

(やってたのは私なんだけどね。ごめん、適当だわ)


報酬を受け取り、そそくさとオフィス街を後にする。


ここにいると、全ての感情がコンクリートと鉄に跳ね返され、気持ちが悪くなる。


早く家で寝よう。


もう疲れた。


今日は閉店休業。



そうして、一日を終えるた次の日。



ジゥから連絡が入っていた。


「すぐに来るように」


この短いメッセージ。

やばい。

怒ってるわ絶対。


怒られると分かってオフィスへ向かうっていうのか?


馬鹿らしい。


私は向かわないぞ。


怒られるの嫌だもん!!


「安心してください。もう来てますから」

「どわ!!」


急に現れたジゥに驚き、私は本当に6cmくらい跳ねたと思う。

そしてすごいことに、その跳ねた私をジゥはすかさず掴み。


一発グーパンしてきたのである。

(腹に)


声が出ません。

マジのパンチじゃん…


「なにテキトーな仕事してんだお前……」

「……祈祷の件ですか?」


怖くて敬語になっちゃった。


「全然収まらないってクレームが来たんだよ」

「あはは……強い霊がいたもんだ」


 場を和ませるためにちょっと冗談を言ってみた。

 よかったジゥも笑ってくれた。


「……今度は顔を殴ってあげましょうか?」

「勘弁してください」


教訓。

怒られてる時に茶化すのは辞めましょう。


そうして私は、そのまま車に詰め込まれ、昨日のオフィス街へと連れ戻されたのであった。


ゴミがゴミを呼ぶゴミみたいな地域へ再び。





まだこの時は、この案件がトクイチと繋がっているとは分かっていなかった。



―――Ver5.1 怪奇を越えた怪奇 終

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