第20話

「つまり、興味があることを話すことで外に出てもらおうって作戦?」


 まるで家出した猫を吊るようなやり方だね、と軽く笑った。


「じゃあ話そうか。当日の状況から。俺と吉永が一緒にいるときに、窓ガラスが割れる音が聞こえて、とりあえず受付に向かったんだ。そしたら、日鞠さんに会った。彼女によればどうやら藤野さんが窓ガラスを割ったらしい。入口の小窓もカーテンで閉め切られてたけど、隙間から美術室の中を見れば、確かに彼女が『なにか』していた」

「なにか、ってなんだよ」

「わからない。鍵が届くまでずっと見張っていたけど、こっちに背中向けてたし。美術室の中でなにをしていたか。考えられるとしたら、やっぱり証拠隠滅」

「そうなるな」


 そこに異論はない。続きを促す。


「で?」

「受付の人に鍵を持ってきてもらって、開けて合流。ちなみに、あとから調べたら合鍵だったようだけど。中は四色のペンキがばらまかれていて、緑のペンキだけ残量があった。現場は小さな窓が開いてあった以外、密室」

「僕の知っている密室の定義とは違うんだけど」

「本当に小さいものさ。人は通れないからそこから入った説は除外できると思う。それで、ペンキの中に沈んでいたキャンバスには『黒戸』と書かれていた。美術室で話している俺たちの前に黒戸くん、丹先輩、胡屋先輩が現れる。それで、掃除をしようってなった」


 まあ、通りだろう。いつまでもそんな状態にしておくわけにはいかない。

 それで? と続きを促せば、彼はすんなりと答えた。


「それが当日の放課後。さかのぼってその朝のことを話すね。胡屋先輩と、黒戸くんが作品を描くのに朝練で鍵を借りた、って話だったな。

 けど、実際に朝練は実行されなかったみたいだけどね。どうも、美術室の鍵が開かなかったらしい。仕方なく、胡屋先輩の一言でお流れになったみたい。ちなみに鍵の貸し借り、入館と退館は証言通りだったよ。俺が裏を取ってるから安心してほしい」


 彼の調べた情報を信じるしかない。学校になんか行けないし。


「と、ここまでが当日の出来事。質問ある?」


 美術室の鍵はあった、けど、その鍵では部屋は開かなかった。それは、つまり――


「鍵はすり替えられてたのか?」

「みたいだね。ただ、不思議なのは、その翌日には何事もなく使えたんだ、鍵が」

「それ、ほんと?」


 うん、と彼は頷く。


「ほかには?」

「特に」


 答えてから、引っかかった。白夜が自分で吹き込んだレコーダーから得た情報と、今のアキナシの話。抜けているものがある気がする。まあいいか、と思い直す。あとでまた聞けばいいか。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る