SHINOBI〜人ならざるもの〜暗殺兵器として首相官邸で飼われていましたが、突然ダンジョンが現れ、ダンジョンに実験台として投入されました。兄弟たちと配信始めます

碧桜 汐香

第1話

〜某国首相官邸〜


「一夜(いちや)」


「はっ」


 一夜と呼ばれた全身黒装束を見に纏った男は、この国の首相に呼ばれて、どこからか突然姿を現した。どこにでもいそうな顔をしているが、その瞳からは何も感じられない。


「こいつをいつも通りに。頼んだ」


「仰せのままに」


 首相が差し出した一枚の写真には、環境保護団体のトップである中年の男性が中央に写っていた。この男性は、今、首相が推し進めている経済政策に異議を唱え続けている。



「あと、二夜(ふたよ)。こいつを落としてこい」


「はっ」


 二夜と呼ばれた女が、突然現れた。こちらも全身黒装束を見に纏っている。黒装束の隙間から見える顔はかなり整っている。

 首相の指差す先には、環境保護団体のNo.2とされる男が写っていた。




 二人は闇夜に向かって、首相官邸から飛び出して行った。









『環境活動家杉浦進氏。自宅にて心臓発作で救急搬送。5時間後に死亡が確認された』


『杉浦氏がトップを務めていた地護会で贈賄か!?まさかのNo.2橋山氏による内部告発独占スクープ』






「うまくやったな、一夜と二夜」


「「はっ」」


 そういう2人に表情はない。心をどこかに忘れてきたようだった。


「次は……」


ごおおおおお


 首相の言葉と同時に、大地が大きく動いた。



「くそ! 南海トラフか!?」


「首相、気象庁に確認します!」


「失礼します! 気象庁から地震ではなく、原因不明の天変地異との連絡が、」


「首相、関係各所から問い合わせが入ってます!」


「な、なんだこれは!?」



 ふと、窓の外に目をやった首相が思わず叫ぶ。慌ただしい首相官邸の横には、青く輝く黒い真四角の建造物がそびえ立っていた。

 ビルのような形ではあるが、窓もない。その代わりに、真ん中に人が入れるくらいの穴がぽかりと空いた形状という異質なそれは、後に東京第一霞ヶ関ダンジョンと呼ばれるものであった。









「……分析が進んでないじゃないか!」


 ダンジョンが発生して1日。世界各国で突然現れたものだということが徐々に明らかになってきた。

 特に各国の主要都市に集中していることから、宇宙からの侵略説や隕石説、はたまたとある国の核兵器説まで唱えられている。

 この国では、外から様々な機械でのスキャンが続けられ、ドローン等も投入されている。そんな中、各国では軍隊を投入した国も出てきた。

 とある国で、興味本意で中に入った民間人が戻ってこなかったという第一報が届いて以来、この国では、警察がダンジョン前を封鎖している。





「……我が国も自衛隊の投入を国会で承認させよう」


 首相のその決定を報道しようとしたところ、テレビからこんなニュースが入ってきた。



「本日は環境保護団体地護会の橋山さんにきていただいております。おはようございます」


「おはようございます」


「本日はよろしくお願いします。早速ですが、橋山さん。今回の建造物の出現について、どのようにお考えですか?」


「そうですね。核兵器という説は薄いのではないかと思います。直ちに危険を及ぼすものでしたら、何か対応するにしても、もう遅いと思いますし、まずは各国からの情報を待ってもいいかと思います」


「他国では、軍隊の投入をしている国もありますが、そこまでする必要はない……と?」


「そうですね。各国で協力して分析してからでいいかと思います。そもそも、民間人が一人戻って来なかったのにも関わらず、自衛隊を投入するのは人の命を粗末にしているとしか言いようがありません」


「この若造が! 何もわかってない! 他国と協力できるわけないだろう! 分析結果を自国内で抑えられるか、共有されるとしても貿易やら後々何かしら不利な条件を求められるに決まってあるではないか!……二夜! お前、失敗しただろ!?」


「……申し訳ございません」


「便利な道具だと思っていたが、失敗するならドローンの方がましだ!……そうだ。お前がドローン代わりにあの建物の中に入ってこい!」


「……」


「ご主人様。二夜一人では、難しいかと……」


「一夜! お前も道具のくせに持ち主に意見するのか!?」


 妹である二夜を庇おうとする一夜も、首相の怒りに触れて、ダンジョンに送られることとなった。


「まだまだ道具はあるからな」



 実際のところ、平成以降の歴代総理たちは、殺害依頼まではしてなかった。しかし、今代の総理は彼らだけでなく国民までもを物としか思っていないため、躊躇なく殺害依頼をかけ、自分の思う世界を作ろうとしていたのだった。

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