真夏の目標

春光 皓

真夏の目標

 お、もしかしてお前、俺の声がわかるのか?

 そうかそうか。じゃあせっかくだ、俺の話を聞いてくれ。



 自慢じゃないが、俺は生まれてこの方、ここを一歩も動いたことがない。

 生まれも育ちもここってわけだ。

 見ての通り、俺の周りには姿かたちがそっくりで綺麗な奴らがたくさん立っている。

 この場所がとりわけ好きってわけでもないが、まぁ何事も程々が一番って言うしな。


 俺はここが気に入っている。



 俺と違って自由に動きながら何かを話す連中は、俺らを見ては「ひまわり」と呼ぶ。

 その言葉以外は言うことがバラバラで、全くもって意味も分からないが、恐らく俺らは、あの連中の間で「ひまわり」と呼ばれているようだ。


 俺は別に何て呼ばれようが構わないが、特に呼んで欲しい呼び名もないし、お前も俺のことは「ひまわり」って呼んでくれ。



 俺はな、実は俺自身の姿を見たことがないんだ。

 それでも俺は、自分が綺麗な姿だと思って生きている。


 そりゃそうだろ?


 他の奴からどう思われようと、俺は俺だ。

 周りと比べたって何の意味も持たないさ。

 俺が俺を綺麗だと思えば、それが正解なんだよ。

 だからもし、お前が俺のことを見てどう思ったとしても、それも正解だ。

 お前の考えはお前のものだからな。


 でももし、俺の望んでいる言葉じゃなさそうなら、その言葉は胸の中に閉まっておけ。


 正解同士が、必ずしも同じになるとは限らないだろ?


 お互いいつまでこうやって元気でいられるかなんてわからないんだ。

 それなら傷つけあって生きていくなんて、何の得になる?

 それが楽しいって言うんなら、別に口を出したりなんてしないけどよ。

 自分の命をそんな時間に使う気なんてさらさらない。

 俺は絶対にごめんだね。


 お前もお前を、綺麗だと思って生きていけよ。



 おっと、ちょっと話が脱線しちまったな。

 俺が話したいのはこんな事じゃねぇ。

 お前から見えるかはわからんが、俺はこの数日でかなり大きくなったんだ。

 隣のやつも、その隣の奴のことも追い越したんだ。


 いつかはこの周りの奴ら全員を追い越してやる。


 この調子だと、お前のところに辿り着くのも時間の問題だな。


 ……、え、周りの奴らと比べるなって?

 はは、墓穴を掘っちまった。


 でもこれは競争じゃねえ。


 俺の目標だ。



 目標がある方が、生きるのが楽しくなるだろう?



 そういえば、お前は何て呼ばれているんだ?

 え、なに? 遠くて良く聞こえない。


 ……、た……い……よう?


 そうか、お前、「たいよう」って言うのか!


 たいよう! 俺はお前を目標にするって決めたぞ!


 これでまた、毎日が楽しくなるな!



 いやー、今日は本当に楽しい一日だった。

 明日はもっとお前に近づいているからよ、楽しみに待っとけ。


 それじゃあ、たいよう!

 これからもよろしくな!

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