人と比べちゃダメだよ

ぐらにゅー島

誰か僕を見つけて

「人と比べなくていいんだよ」

 今日の夕方午後五時に、僕は無理しすぎて倒れてしまった友人に優しくそう言った。夕暮れの太陽が彼の顔を照らし、彼はそのままハッとしたような顔をして俯く。

「そうか俺、人と比べてたのか……。なんか気分楽になったわ、さんきゅ」

そう言って少しはにかむ彼を見て、僕は少し安心した。


 人は一人じゃ生きていけない。それなのに、他人を見て僕たちは傷つくんだ。

 一生懸命に頑張っても、どれだけ頑張っても上には上がいて僕では到底追いつかなくて。それがたまらなく悔しいから、また頑張ってしまうんだ。それは、自分の努力を認められないままで。だから、僕たちは支え合って生きていくんだろう。

 

 そんな昨日は過ぎ去って、新しい今日の午前二時、僕は机に向かってシャーペンを紙の上に走らす。空はもうすっかり暗くなっているのに、追いつかない。なにに追いつかないんだろう? もうそんなのわからなくなっていた。それほどに追い詰められていることに、自分では気がつけなかった。

 もっと頑張っている人がいる、もっと頑張らなきゃいけない。僕は僕を他人と比べていたことに気がつけなかった。友人には簡単に言えるのに、自分だけが見えなかった。

「誰か、僕を認めてよ」

 机に突っ伏して、また寝落ちてしまう。蛍光灯の光が眩しすぎて涙が出てきた。誰も見ていないのに、誰かに僕を知って欲しくて。背反した気持ちのまま、目を拭った。

 頑張るのが当たり前で誰も褒めてなんかくれなくて、だから自分を認められない。自分を認められるのは自分だけなのに、どこかで誰かに期待してる。きっと僕が彼に言った言葉は、僕が彼に言ってほしい言葉だったから。そんな偽善的な自分に吐き気がする。


 今日も明日も明後日も、きっと僕は無理をする。誰か、僕が壊れてしまう前に助けてください。

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