ラナ妃のドレス

元 蜜

プロローグ

「――センスがない。すぐに作り直して」


 何日もかけて描きあげたデザインは、無情にも私の胸に突き返された。

 目の前にいる、まるで才能と自信の塊でできているかのような彼女は、私よりも5歳も若い25歳で、その才能からこのデザイン部門のチーフを任されているやり手上司である。

 

「もっとよく見てください! ほら、ここのラインとかとてもこだわったんです!」

「はぁ……。キツイこと言うけど、アナタが描いてくるデザインってさ、ぶっちゃけ今の時代には合わないんだよね。それに、一番大事なことができていない」

「『大事なこと』ってなんですか?」

「その歳でそれに気づけてないなら、もうこの世界で生きていくのは諦めた方が良いかと思うよ?」


 確かに『もうダメかもしれない』って自分でも薄々気づいてはいたけれど、そんなバッサリと切り捨てなくてもいいじゃん……。

 泣くもんかと我慢すればするほど、悔しくて情けなくて涙が溢れてくる。そんな私の様子を、目の前の上司は慰めるわけでもなく、黙ったまま面倒くさそうに眺めていた。


 幼い頃からドレスデザイナーになるのが夢だった。でも上司の言うとおり、この歳で一つもデザインが認められないのは才能がない証拠だろう。

 実は明日は私の30歳の誕生日。3年付き合っている彼から「大事な話がある」ってメールが入っていたから、今夜ついにプロポーズされるかもしれない。こうなったら結婚するってことで仕事を辞めようかな……。

 しかし、現実はそう自分の思い通りにはいかないようで、仕事終わりに私の部屋にやって来た彼は、開口一番私に現実を突きつけた。


「……別れよう」

「えっ、な、なんで!?」

「だってお前、仕事ばっかで俺のこと放置じゃん? 俺がいなくても一人で生きていけるだろ?」

「そんなことない! アナタがいたから辛くても頑張って来れたんだよ!?」

「今さらそんなこと言われてももう無理。それに、実はこの間さ、いつも俺のことをめっちゃ頼りにしてくれてる会社の子に告白されたんだ。俺も30歳超えたし、その子と結婚を視野に付き合おうと思ってる」

「そ、そんなっ! 私だって今さら一人でなんて生きていけないよ!? それに、アナタとの将来を考えて仕事を辞めようかと思ってたの!」

「……ごめん。じゃ、そういうことだから」


 彼は別れを悲しむ様子を全く見せないまま、振り返ることなく部屋を後にした。


 なんで? 私なにか悪いことした? 結婚を逃げにして夢を捨てたから罰が当たったの?

 今夜一晩で幼い頃からの夢と愛する人を同時に失い、この先一人きりで生きていくのが無意味に感じられた。

 時刻は0時になり、30歳になったことを告げるアラーム音が部屋に響く。私はその音を合図に、最後に描きあげたデザイン画を手に握りしめ立ち上がった。そしてフラフラと部屋を出て、そのままベランダに足をかけると、両手を広げ夜空に向け飛び出した。

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