第33話 気づけば溺愛されてて幸せな新婚(?)生活が始まってたんだが…




 ――――数年後。


 

 俺は結婚式場の控え室で椅子に座り、自分の出番をいまかと待っていた。


 

「おいあらた、いよいよ結婚式当日だな」


「あ、ああ……」


「おい、びびってんのかよ。でけえ図体のわりに意外と小心者なところがあるよなお前って」


 恭平きょうへいが肩をすくめながらいう。

 スーツとあいまって、その仕草がやけに似合う。


「意外とは余計だ。それにそういうところが好きと言われるんだ、これは立派な俺のチャームポイントだ」


「あーあー、もう惚気話のろけばなしはいいって。こちとらずっと聞かされて腹いっぱいだっての」


「俺がいつ惚気のろけたっていうんだ?」


「げっ。自覚ねえのがますます厄介だぜ」


 張り詰めていた空気がゆるむ。

 しかし、俺は恭平きょうへいの言う通り、俺はびびっていた。

 手袋をしているのに手先が冷たい。

 

「大丈夫。もうあんな悪夢は二度とねえよ」


 ポンと肩に手を置かれる。


「だから目の前の花嫁さんのことだけ考えるんだな」


 俺が仕事をクビになったあとの夜ごはんの一幕を思い出す。

 あのときもこうして肩を叩いてくれたな。

 恭平きょうへいには何度も助けられている。


「ああ、そうするよ」

 

 軽薄そうにみえてやっぱり優しいやつだ。


「じゃあ俺は先に行くぜ。待ってるぞ花婿さん」


 恭平きょうへいはひらひらと手を振って、控え室を出て行く。


 

 あの日とは、もうなにもかも違うんだ。


 

 俺はそう言い聞かせながら、鏡の前でタキシードの最終チェックをした。



 ◇ ◆



「――誓いますか?」


「はい、誓います」


 

 祭壇にて、牧師からの問いかけに俺は静かに宣言する。

 厳かなおごそかな式場に自分の声が響く。


 

「それでは新婦――」


 

 続いて新婦への問いかけ。

 徐々に緊張が高まる。


 大丈夫だ。大丈夫。

 あの日みたいなことには絶対にならない。


 そう信じて花嫁に目をやる。

 俺の視線に気づいたのかベールの下にみえる口もとが弧を描く。

 

 その笑顔に、震えていた俺の手がピタリと止まる。

 君には敵わないな、いつも安心させてくれるのだから。


 

 そして牧師がいい終わる。


 

「――誓いますか?」


  

「その結婚ちょっと待った!」


 

 チャペルに似つかわしくない大声とともに木製の扉が勢いよく開かれた。


 

 神父から定番の問いかけのあと、新婦がお決まりの『誓います』という返事をする直前。

 狙い澄ましたかのようなタイミング。


 

 二度目だぞ? ありえるのか?

 そうもいってられない。現実にあり得ているのだから。


 

 二度目だが今回は違う。


 

 絶対に君を他の誰かには渡さない。

 俺はこの人と一生を添い遂げるんだ。


 

 花嫁の前に一歩前に出て、立ちはだかる。


 

 突然の出来事にその場にいる全員の視線が当事者の女性に注がれる。


 

 女性? 誰だ?


 

 扉を開けて入ってきた侵入者に慌てて前に出たが、思い返せば声からして女性だった。


 

 髪はボロボロでふくよかな体型をしているのにやつれている。

 この女性に見覚えがない。


 

「なんだあなたは、結婚式の最中だ」


 

 侵入してきた女性に問う。

 

あらたさん! 私です!」


「私ですといわれてもな……」


 全くわけが分からない。


 

「忘れちゃったんですか? 私、姫乃ひめのです」


 

 なんだと、この女性が姫乃さんだと?

 言い方は悪いが完全に俺より年上のオバサンにみえていた。


 

 あれから彼女がどんな生活をしてきたなんて考える必要もないが、これまで通りではなかったのだろう。


  

姫乃ひめのさんということはわかった。今さらなんの用だ?  関係ないから出ていってくれ。先ほども言ったが結婚式の最中だ」 


 

「私、真実の愛に気づいたんです!!」

 


 俺の話を聞かずに姫乃ひめのさんとおぼしきオバサンは口を開く。


 

 真実の愛か。前にもそんなこといってたよな。

 その言葉を聞くと頭が痛くなる。

 俺はこめかみを抑えてしかめ面になってしまう。

 

 

 自分のことしか考えていない姫乃さんは、俺たちに構わず大声で続ける。


 

みなとみたいなロクでもないやつじゃなくて、あらたさんみたいなしっかりとした人がいいなって気づいたの。まあ感情表現が乏しいとぼしいところなんかは目をつむってあげるから、そんな女じゃなくて私と結婚しましょう?」


 

 そんな女といいながら、俺の隣にいる花嫁を指さす。

 どうやらまだ自分が物語の中心にいてなんでも思い通りにできるのだと勘違いしているようだな。


 

「そんな女とはなにをいってるんだ。あなたなんかより……いや、比べるのもおこがましい。唯一無二の俺の好きな人であり、俺の大切な花嫁だ。あなたがここにいるだけで吐き気がする。即刻退場してくれ」


 

「な、なによ……。昔と全然ちがうじゃない。そんなに感情むき出しで……」


 

 信じられないものをみているかのように姫乃ひめのさんがたじろぐ。


 

「警備の方々、その人をつまみ出してくれ」


 

 姫乃ひめのさんを警備が取り囲み、あっという間にとらえる。

 そして、扉から連れて行こうとするもいまだ抵抗をみえせていた。


 

「いやああ、あらたさあん」


 

 醜い叫び声が神聖な式場を汚している。


 

「牧師、続けてください」

 

 

 気を取り直して式を続行する。今回は中止にはならなかった。

 俺が再開を促すと、牧師はこほん、と咳払いをした。


 

「新婦、あなたはあらたとの結婚を誓いますか?」


 

 ――はい、誓います。


 

 ああ、この言葉を聞くのにどれほどの歳月を要したのだろう。


 

「それでは新郎新婦、誓いの口づけを」


 

 花嫁のウェディングベールをあげる。



 

 これから俺たちの新婚生活が始まる。

 いや、今思えば実はあの日からすでに始まっていたのかもしれない。


 

 そう、君が家にきたあの日から。



 あれからいろいろあったなと過去を振り返る。


 君が急に押しかけて来て困っていたけれど、気づけば溺愛されてて幸せな新婚生活が始まってたんだが……。

 それもかけがえのない良い思い出だ。


 

 目の前の君とのこれまでに感謝して、そしてこれからの幸せな未来を願って。


 

 祭壇の上で、ステンドグラスを透過する光に包まれながら。



 誓いのキスをした。





―――――――――――――――――――

【あとがき】

ここまでお読み頂きありがとうございます。

一気に読んで頂きたく書き上げてから告知をせず投稿してしまいましたので、

混乱された方がいらっしゃいましたら申し訳ございません。



皆さまのおかげで毎日毎日書き続けることができました。

本当にありがとうございます。

こんなにも読んで頂けると思っておらず驚きと喜びでいっぱいです。

まだまだ書きたいお話があるのですが、ここで一旦、一区切りとさせて頂きます。



どうか皆さまよろしければ

下の+⭐︎⭐︎⭐︎から作品を評価、レビューして頂けますと非常に嬉しいです。

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