第25話 寧々side④
レトロ喫茶店『
お昼すぎ、ピークが去ってお客さんがまばらになった店内では落ち着いた時間が流れていた。
玄関にハイヒールがあった時は心臓止まっちゃうかと思った。
自分でも聞いたことない冷たい声が出てびっくりした。
大人だからそういうこともあるのかなって想像しただけで、とても胸が痛くなって、苦しくなった。
でも
なんて、そんなわけないよね。
もとから
元上司が家に来たことをほんとになんでもないように話すから、どんどん毒気が抜かれちゃった。
それはそれで嬉しかったけど、
喫茶店のタイルの小さな染みが視界にうつる。
それにしても、
そのことを思い出して顔をあげた
そんな顔をしたのも
そのあとすぐに
自分でも驚くほどに単純で、笑っちゃうんだけど。
「
「あ、店長」
二十台後半から三十台前半の朗らかな女性が
青色の襟足の長いウルフヘアにピアス、一見バンドでもしてそうな見た目だが彼女こそ、レトロ喫茶店『下弦の月』の二代目の店長である、
その見た目とは裏腹に父から譲り受けた喫茶店の味を守りつつ、個性的で映えるメニューを展開したり、見た目も自由にして可愛い女の子を採用したりすることでSNSでの人気を獲得するなど戦略的な一面を持つ。
女性の中でも背の高い彼女はギャルソンスタイルがよく似合い、男性だけでなく女性からの人気もあった。
「最近の
「そうですか?」
こてん、と首をかしげる
「うん! 自分でも気づいてないのかい?」
「……自覚はちょっとあります」
「だろうねい、もしかして
知っている名前を出された
「店長なんで知ってるんですか」
「だってたまに名前呼んでるじゃんかあ」
「え。私、口にでてましたか?」
「うん、ぼーっとしてるなってときにぼそっと言ってるよお? その様子じゃそれには気づいてなかったようだねえ」
にやりと
「は、恥ずかしいです……」
うぅ、と
その姿はただの恋する乙女だった。
「ほんと可愛いねえ
可愛い子はそこにいるだけで癒しになり、明日への活力になるのだという。
「その
「いいんですか?」
突然の提案に、
サービスしてもらえるのは嬉しい。
そしたら
「いいよお、
「店長ありがとうございます。でも恋する相手ってやめてください、恥ずかしいです……」
「あはは、初心だねえ。可愛いねえ。それに
「そう、でしょうか?」
「うん! 自信持っていいよお」
それから
◇ ◆
バイトを終えて帰宅した
今日は新さんの元上司の
今では
その
いつか誰かに言われることだと思っていた、それがあのタイミングだった。
そこには私を責めるつもりがなくて、ただただ
だからなにひとつ誤魔化さずにきっちりと答えた。
それから、
『
『そうなのでしょうか……』
『きっとそうよ。
――――ありがとうね。
そのとき、この人はたとえ自分がそばに居られなかったとしても、好きな相手の幸せを願える、心優しい人なんだろうと思った。
だから、さり気なくずっと
『でも、諦めたわけじゃないから』
と釘を刺してきた。
それからは意気投合して仲良くなった。
お酒を飲んで赤くなって目がとろんとしてる
その写真をみて、かっこ良すぎる、尊い、としきりつぶやいていた
そして脱線していってガールズトークになっていったんだけ。
戻ってきた
そのときの顔が浮かんで、ふふ、っと笑みがこぼれる。
いつもクールで涼しげな顔なのに、目が点になってて可愛いかった。
「それにしても……
ふと、帰る間際に聞いたことが頭をよぎり楽しかった気持ちがしぼんでいく。
これからの
それに
ずるくて臆病でどうしようもない。
そんな
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