第22話 新さん、……だめ?
その瞳は揺れるのをやめてただ真っ直ぐをみつめていた。
「まず私の姉であるあの人はお義兄さんに多大なご迷惑をおかけしました。取り返しのつかないことだと思います。本当にごめんなさい」
「謝らなくていい。前にも言ったが悪いのは
「それでも、ごめんなさい」
それから顔をあげて
「お義兄さんと藤咲家のあいだに関係がないのは認めます」
ですが、と言葉をはさんで続ける。
「関係というのは戸籍やそういったものだけでなく、これまで接してきた時間だと私は思います。三好さんは職場での仕事などを通じてお義兄さんとのいまの関係がおありですよね?」
「ええ、そうね」
たとえ戸籍や血の繋がりがあってもそこに時間がなければ、誰であったとしても遠い存在だ。
俺はそれを父親であるあの人を通じて痛いほど理解している。
「では職場が変わってしまえば他人になるのでしょうか。いえ、なりませんよね。現に三好さんとお義兄さんは関係は良好に続いています。いまでも家に泊めてしまうくらいに」
にっこり、と
笑顔なのになぜか寒気がするんだが。
「私は元婚約者の妹という立場ですごく遠い位置にいますが、姉の婚約中に家族交えて会食をしたり出かけりしたことだってあります。その時点でもう他人ではありません」
一度関わった以上、本当の意味で他人に戻ることなんてないと俺は思う。
離れたり関わらないという選択肢を取ることはできるが、薄くて細くても繋がりはそこにあるのだ。
「あの日、式場で自分が悪いわけじゃないのに何度も頭を下げて謝ってる姿をみてお義兄さんが深く傷ついているの感じました。それで藤咲家とは関係がなくなったいま関らないほうがいいとも考えました、でも……」
言葉が詰まる。
喉元に出かかった言葉をどうしようかと悩んでいるようだった。
「でも、私個人として傷ついたお義兄さんを支えてあげたい、慰めてあげたい、そう思ったんです。だから私はここにいます」
その言葉を聞いて
「そうだったのね。話してくれてありがとう」
「私はなにもあなたたちの関係を否定するつもりはないの。本当にただ
そして、ひと呼吸置いて続ける。
「でも第三者である私がづけづけと無遠慮に聞いてしまったのは良くなかったわね。言い方も感情的になってしまって大人気なかったと反省しているわ。
「あ、あの、頭をあげてください。元婚約者の家族がきてなにをしてるんだって、先輩である
「ありがとう、そういってくれると助かるわ。でも本当にごめんなさいね」
張り詰めていた空気がなくなる。
なんとか場が丸く収まったようだ。
というか
お義母さんに頼まれて嫌々きてるんじゃなかったのか……?
「
「え?」
突然名前を呼ばれたことにどきっとして、思考が手放される。
「お義兄さんじゃないから、呼び方かえる。これからは
「いや、それは」
「
こてん、と首を傾げてきいてくる。
そんな風にいわれたら断れるわけがなかった。
「いいよ」
「ありがと」
それにしては
呼び方を変えたときは、もっとこう呼ぶのにためらいとかあると思うのだが。
「ちょっ、ちょっと! 私も
髪をかきあげながら
「え、なんでですか? 理由ないですよね」
「そうです、
「そ、そんな……」
「だ、だったら
なるほど、それなら理由があるか。
いいですよ、と言いかけたそのとき。
「だ、だめです!」
大きな声がしたかと思ったら、ぷくっと頬を膨らませた
「どうして
「だって、だめなものはだめなんです」
「あなた、名前で呼ばれてるじゃない。しかもちゃん付けで。私だって本当だったら
「下の名前で呼んでもらうのは
「そんなのずるいわ。私のことも名前で呼んで欲しいの、いいでしょ
二人の顔がずずいっと寄ってくる。
美少女と美女だと迫力がすごいな、圧倒されてしまう。
「あ、いまどさくさに紛れて名前で呼んだ!」
「べ、別にいいじゃない!」
それにしてもなんだこの状況は、俺の入る隙がない。
どうすればいいんだ、と
――ピンポーン
突如、インターホンの音が家に響いた。
「おっと、だれか来たようだから出てくるよ」
俺は二人を残して、そそくさとその場を離れた。
宅急便だろうか、なにかを注文した覚えはないが助かった。
ドアホンのディスプレイをみると見知った顔があった。
『おはようございますセンパイ、朝早くに突然の訪問申し訳ございません』
ショートヘアをなびかせ、いつものスーツ姿とは違う綺麗目なファッションに身を包んだ女性がいた。
元部下の
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