夏祭りに行こう その2

 アリサと手を繋いだまま人混みの中をゆっくりと歩く。


「うわぁー! いろんなお店がありますねー! どこから行きますか?」

「はいはい! アタシはかき氷が食べたーい!」


 コハルが大きく挙手をして、提案する。


「今日も暑いしな。いいんじゃないかな?」

「はい、ではかき氷を食べましょう!」


 屋台に並んでかき氷を食べる。


「くぅ〜キンキンに冷えてるね! 暑い夏にはかき氷がたまりませんなぁ!」

「う〜ん、冷たくて甘くてシャキシャキしてて、いくらでも食べられますね〜!」

「うん、うまい!」


 アリサは美味しそうに、シャクシャクとかき氷を食べ進める。


「あっ、そんなに急いで食べると──」

「うっ!? 頭がキーンとしますぅ……!」


 アリサは頭を抑えて、頭痛をこらえている。


「ごめん、言うのが遅れたね……。食べるのを焦ると、頭が痛くなるから気をつけて」

「焦り過ぎました……」

「あはは、頭がキーンてなるのもかき氷の醍醐味だいごみだよね! う!? キタキタ! アタシも頭痛が痛い!」


 コハルも頭を抱える。


「頭痛が痛いって意味が重複ちょうふくしてんじゃん……」


 俺は冷静にツッコミをする。


「出たー! 重複じゅうふく重複ちょうふくって読む奴ー! 絶対、お兄ちゃん、早急そうきゅう早速さっきゅうって言うし、一段落ひとだんらく一段落いちだんらくって言うし、今川焼きを大判焼きって言うタイプだよね!」


 コハルがガァーとまくしたてる。


「まぁ、そうだけどさ……。でも大判焼き呼びだけは譲れないぞ?」

「今川焼きだってば!」

「私は回転焼きって呼んでますよ!」

「ふっ、どうやら。どれが正しい呼び方か、決着をつける時がきたようだね……」

「いいだろう、コハル……」

「そんなにこだわるところなんですかね……?」


 その後も、大判焼きの呼び方に対する議論はちょっぴり白熱したのだった。





 アリサがふと、俺たちのかき氷を見ている。


「かき氷にはいろんな味があるんですね。イチゴにレモンにメロン。どれも美味しそうですねー!」

「実はかき氷のシロップって、全部同じ味なんだよね。知ってた?」


 俺はネットで聞きかじった知識を披露ひろうする。


「え!? そんなんですか? コ、コハルちゃん、一口よろしいでしょうか?」

「うん、いいよー!」


 アリサは、コハルからレモンのかき氷を一口。


「レモンの味がしますよ! 酸っぱさがありますよ?」

「そうだー! そうだー! ビタミンCたっぷりなんだぞー!」


 2人はどうも信じられないという顔つきをしている。


「見た目の色と香料で、味を錯覚するみたいだよ。試しに目をつぶって、匂いをかがずに食べた見たら?」


 俺の提案に、2人は目をつぶったまま、かき氷をパクリ。


「確かに、ただの甘いシロップの味になりました……。目に見えるものだけが真実ではないんですね……なんと……」

「アタシ達は今まで騙されていたんだね……。世界には知らなかった方がいいこともたくさんあるんだね……。美味しくなってリニューアルだと思ったら実は量が減ってるみたいな……」


 



 屋台を散策していると、お面屋の前でアリサが立ち止まった。


「あっ、他の人がしてたお面。こんなところに売っていたんですね! ひとつ記念に買いましょう!」

「いいねー! アタシも買うー!」


 アリサはキツネのお面、コハルはひょっとこのお面を購入していた。コハルがひょっとこのお面を装着する。


「クスクス、コハルちゃん、面白い顔のお面ですね〜」

「どーお? お兄ちゃん。似合ってる?」

「ああ、似合ってるよ」

「ひょっとこが似合うって、バカにしてんの!?」

「理不尽にキレるなよ!? じゃあ、どんな風に答えりゃよかったんだよ!?」

「正解は〜お面を外して、『やっぱりお前の素顔をずっと見ていたい……』でした!」


 何を言ってるんだ、ウチの妹は……。


「あっ、信じてないな〜! これをされたら女の子は一撃なんだゾ?」


 こんなんで落ちる単純な女はいる訳ねーだろ……。


 アリサも続いて、キツネのお面を装着する。


「ど、どうですか?」

「うんうん、かわいいね〜、アリサお姉ちゃん!」


 俺はここで、ふと思いついた。さっきコハルに言われた通りにやってみたら、場の流れ的にも面白くなるのではないだろうかと。


 俺はアリサのお面をそっと、横にずらす。


「え?」

「やっぱりアリサさんの素顔を見ていたい……から」

「〜〜〜ッッッ!?」


 アリサはさっとお面を被り直す。


「アハハッ、早速試してるじゃん! ノリがいいねぇ〜お兄ちゃん!」

「こんなんで、ときめく訳ないよね? アリサさん」

「そ、そうですね〜! この程度では! あはははは…… (めっちゃキュンキュンしました〜! あ〜心臓破裂しそうです! 顔真っ赤だから、お面外せないじゃないですか〜!)」






 



 

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