学園1の美少女が実は生活力0でした!〜お世話をしている内に「もうアナタなしでは生きていけません」と言われた件〜

腹ペコ侍

学園1の美少女の正体

 俺の名前は如月湊きさらぎみなと


 私立月影学園しりつげつえいがくえんの2年生。特技といえば、ちょっとした料理くらいかな。


「みなさん、おはようございます」


 教室の戸をガラリと開け、長い銀髪をなびかせた色白の少女が入室する。


 その瞳の色はあお。清らかな湖の様にどこまでも透き通っている。


 名を“早乙女さおとめアリサ”。容姿端麗ようしたんれい、成績優秀、スポーツ万能と非の打ち所がない才女である。


「わー、アリサちゃんだー!」

「おはよー!」

「今日も可愛いなー!」

「今日もお美しいですわ……」

「相変わらず胸デケェな!」


 アリサは、クラスのみんなの歓声に包まれている。


「やべぇ! アリサちゃんと目が合った! 絶対俺のこと好きだろ!?」

「ばーか、お前振られてんじゃん」

「お前もなー」


 彼女は俺が2年生になった際、海外からこの学園に転入してきた。


 その初日に、告白待ちの長蛇ちょうだの列が出来たことは、この学園の伝説と化している。


「ボクも告白したけど、昨日フラれたよ……」

「後、このクラスで振られてないのは、ミナトと“たかし”だけかよ」

「クククッ、貴様は告白せんのか? 我が盟友よ」


 クラスメイトの友人である、“法竜院ほうりゅういんたかし”がオレに告白を勧めてくる。ちなみにたかしは中二病をわずらっている。


「ばーか、告白しなくても、結果は分かりきってるだろ?」

「クハハハハハ! よかろう、ならば我と共に修羅道しゅらどうを歩むとしようではないか!」

「へいへい……」


 オレはたかしの中二病を適当に流しつつ席に着く。


「早乙女さん、ちょっといいかな?」


 教室の戸を開けてアリサを呼んだのは、Bクラスのサッカー部のエース、荻堂傑おぎどうすぐる


「……何ですか?」

「早乙女さん、俺と付き合いなよ?」


 急な告白にクラスがざわつく。


「おいおい、いきなり告白かよ!」

「大胆すぎる……モテる男の自信ってヤツか……」

「きゃあああ! スグルくんよぉ!」

「ああ、なんてかっこいいの……」

「これは流石さすがに、アリサちゃんも落ちるか?」


 そしてアリサは口を開く。


「──だれですか?」


 クラスが一瞬で凍りつく。


「は? 俺だぜ? みんなのスグルちゃんだぜ? 知らん訳がなかろう?」

「知りませんし、お付き合いもしませんから、もうクラスに帰ってはいかがです?」


 その瞳は、凍りつくような冷徹さと無慈悲さを秘めていた。


「うわあああああああああん! みんなのスグルちゃんなのにぃぃぃぃ!」

 

 みんなのスグルちゃんは、泣きながら走り去って行った。うわぁ、好きな人にあんな振られ方されたら、俺でも泣くわ。南無。


「ひゃああ、容赦ねぇな、さすがだぜ……」

「あの視線がクセになるんよ」

「ふぅ……たまんねぇな」


 アリサはスタスタと俺の席の隣座る。そう、俺とアリサは隣同士の席なのだ。


「おはようございます、如月きさらぎ君」

「おはよう、早乙女さん」


 イスに座って挨拶あいさつをするだけでも、彼女は絵になる。


 俺なんかとは住む世界が違いすぎる。誰が告白するってんだ、この化物てんさいに。


「へっくち!」


 突然、アリサは可愛いくしゃみをした。くしゃみまで可愛いのか……。よくみれば顔全体がほんのりと赤い気がする。


「早乙女さん、風邪かな? 帰ったらゆっくり休みなよ?」

「はい、ありがとうございま……へくち!」





 放課後に俺は軽く友人と雑談し、帰宅する。


 途中にある公園をふと見ると、そこには見覚えのある女の子がベンチに座っていた。


「早乙女さん……? 公園で何やってるんだ……?」


 まぁいいやと思い、帰ろうとした瞬間──

ドサッと言う鈍い音が聞こえた。


「……え?」


 音がした方に振り向くと、ベンチに座っていたアリサが横倒れになっていた。


「お、おいおい!」


 俺は急いでアリサの元に駆けつける。


「早乙女さん、大丈夫!?」

「……ん? 如月きさらぎ……君?」

「待ってて、今救急車を!」


 俺はポケットからスマホを取り出すと──


「え?」


 アリサがその手を制止した。


「だ、大丈夫……ですから」


 フラフラとアリサは起き上がる。


「お、おいおい……」


 俺はその様子を近くで見ていたが──


「あっ……」


 彼女はまたフラッと倒れそうになる。


「……っと、大丈夫か?」


 俺はなんとかアリサを支える事に成功する。


「やっぱり、救急車を……」

「それだけはやめて下さい!」

「っ!?」


 いきなり強い口調で言われてビクッとした。


 なんでそんなに嫌がるんだ? 単に恥ずかしいとか、迷惑をかけたくないとかか? 仕方ないな……。


「分かったよ。なら──よっと!」

「……え?」


 俺は彼女をお姫様抱っこした。


「きゃああ! な、なにやってるんですか? 如月きさらぎ君」

「何って……。救急車を呼べないなら俺が運ぶしかないだろ?」

「悪いですよ。私、重いですし……」

「ふふっ、どこがだよ」


 彼女は思った以上に軽かった。ちゃんと飯食ってんのか心配になるレベル。


「そう……ですか?」

「そうそう。だから遠慮しなくていいよ。すぐ近くの同じマンションだしさ、手間は大して変わんないさ」


 俺とアリサは同じマンションに暮らしている。最も俺は一階で、彼女は最上階に住んでいるのだが……。


如月きさらぎ君って優しいんですね?」

「クラスメイトがこんな状況なら、放っては置けないって」


 彼女は少し考え込んだ後、


「じゃあ、お願いしても……いいですか?」


 と俺の提案を受け入れた。


「オーケー」


 俺は羽のように軽い彼女を抱えて、マンションへと向かった。





 マンションの最上階にあるアリサの部屋の前に到着した俺は、アリサをゆっくりと降ろす。


「到着したよ。何かあったら、すぐに誰かに連絡した方がいいよ」

「ありがとうございます。このお礼は必ず返します」


 そして彼女はフラフラとした足取りで部屋へと入っていった。


「ほんとに大丈夫かな……」


 ──ドシャア!


 アリサの部屋の中から、鈍い倒れた音がした。


「くっ、やっぱりヤバいじゃねーか!」


 俺は無我夢中でドアノブを回し、中へと入る。どうやら、まだ鍵はかかってないようで助かった。


「……へ?」


 そこで俺が見たモノとは──


「きゃあああああああ! 見ないで下さい!」


 辺り一面、ゴミだらけの部屋だった。








 

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