case08 : 誰かのトゥルーエンド
【――ラーメン屋佐藤――】
俺たちは黒猫の思い出の家を出てから
無論、悪魔がいたという事は秘密にしたまま。そして捕まえた片方の男を警察に
こういう時、知り合いに警官がいると楽でいい。
「おう、お帰り。みんな無事でほっとしたぜ」
店に入ると、大輔さんが大きな声で出迎えてくれた。
「遅くなってすまない。予想外の出来事に巻き込まれてしまってな」
そう告げて店の奥へと進むと、店の最奥で優香君が立っていた。その腕の中には、小さな子猫が二匹すやすやと眠っている。
「あ、亮さん。こんばんはー!」
「優香君、どうしてここに?君は明日も学院があるだろう」
「いやいや、まだ12時だよ?寝るには早くない?」
夜中の12時が早い?
最近の高校生は随分夜更かしが過ぎるらしい。だが、あれだけの戦闘をしていて、まだそんな時間か。
体感ではもっと遅いものだと思っていた。
一之瀬君には辛い思いをさせてしまっている。
「子猫の面倒を見てくれたのか。助かる」
本人がまだ寝ないと言っているのだ。それ以上の詮索はしない。視線を子猫に落とすと、抱かれている子猫たちが随分ときれいになっている。
「洗ってくれたのか?」
「うん。凄く汚れてたからね。お父さんから話聞いたし」
ちらりと大輔さんを見る。
「すまんな、子猫を連れて帰ってきたらまだ起きててな。黙っている訳にも行かず、つい」
「問題ない。それより、こちらは特に何もなかったか」
「あぁ。子猫に飯をあげた以外は何もしていない」
飯を食って風呂にも入れてもらって……生まれて初めての贅沢だろう。こんなに幸せそうに眠っているのだから、起こしては可哀想だ。
「そう言えば……彼は誰だ?」
大輔さんが人型の猫耳少年を見て尋ねる。
「そうか。現場にいなかったからな。俺はただの猫又だ。こいつらの世話、ありがとな」
答えたのは黒猫だ。
――
ついでに術を解く。
「お、おぉ……。幻術か?初めて見たぜ」
大輔さんは目の前で姿を変えた猫に驚いている。
本当は妖術なのだが……あれを説明するのはまた今度だ。今はそんな余裕が無い。
「亮さんー!この子たちって、どうするの?」
抱いた子猫を心配し、優香君が質問してくる。
「それはこっちで何とかするぜ」
黒猫が責任をもって返答する。
「これ以上迷惑はかけらんねぇ。元から俺達だけの問題だったんだ。後の事は気にしないでくれ」
そう軽いノリで断るが、何とかなるものなのだろうか。
そんな考えを読んだかのように、一之瀬君がコートの裾を引っ張る。何とかしてほしそうな感じだ。
「私、猫飼いたい!」
すると、俺よりも先に優香君が手を挙げた。
黒猫は驚いて彼女を見る。
「ちょ……それは」
「それはいい考えじゃないか。俺は基本的にここにいるし、優香も面倒を見れる」
大輔さんも彼女の意見に賛同する。
「だが、二匹は流石にきついな」
「それなら、もう一匹は俺たちが預かろう」
このまま放置は目覚めが悪い。
それに、初めからそのつもりでいた。
目の前で次々と決まっていく子猫の住処に、黒猫は驚いて声も出せない。
「そういう事だ。お前が全て背負う必要は無い」
「しかし……」
「歯切れが悪いな。大丈夫だと言っている。お前はここまで一人で充分頑張ってきた。頼れる相手がいるのだから、存分に頼るといい。それでも、申し訳ないと言うのであれば……」
俺は黒猫の前に立ち、笑みを浮かべる。
「俺の事務所で働くと言うのはどうだ」
突然の申し出に、黒猫は訳が分からないという顔で瞬きをする。
「話が分からん奴だな。この猫を飼ってやる代わりに、お前は俺の手伝いをしろと言っている。あれだけの実力があれば役に立つところは多い。どうだ?」
黒猫は一瞬、しっぽを震わせ、大きな期待の籠った瞳で伸ばした手に両足を乗せた。
「ありがとう!それでお願いするぜ!」
今日一の返事が、店の中に響く。
これでよかったのだろう。
「契約成立だな」
こうして俺の家にまた一人……いや一匹加わることになった。
「しかしそうなると、呼び名が無いってのは不便だな」
黒猫ではあまりに呼びにくい。
だが、俺はあまり名付けが得意では無い。
名前を決めると言っても、直ぐにいいものが浮かぶわけでもない。
「そうだな……黒……いや、ラックだ。お前は今からラックと呼ぶことにする」
黒色だからブラック……ラックだ。
安直すぎるが、これでも精一杯考えた結果だ。
そのままクロと呼ぶよりはマシだと思う。
「ラック……ラックか。いいな。俺は今日からラックだ!」
その瞬間、俺とラックを囲うように魔法陣が起動する。まぶしい輝きは五秒ほどで収まり、陣もなくなっていた。
「契約魔術……だよな。なんか、発動したな」
「ああ、……したな」
何故か勝手に、契約魔術が起動した。
言葉上の約束のつもりが、どうやら契約条件をクリアしていたらしい。
「つまり、俺はお前の使い魔ってわけか……じゃあご主人だな」
「そうみたいだな。お前はそれでいいのか」
「問題ないさ。助手だろうが使い魔だろうが、やることはさほど変わらんだろ?むしろ力が上がって、得した気分だ」
名付けと契約は、主従関係を結ぶと同時にお互いの魔力を共有する。俺の魔力と相性が良かったためか、単純な身体能力も向上したのだろう。
「ならばいいが、何故勝手に魔術が発動した?」
「亮さんに分からないのであれば、私たちにはわかりませんよ」
ふふ、と一之瀬君が笑う。
以前よりも元気になったように見える。
「そうか……まあいい、それならもう時間も遅いし帰るか」
「はいっ」
「了解だ」
俺は、優香君から子猫を一匹預かる。
起こさぬよう、慎重に。
「それじゃあ、また。今度はラーメンを食いに」
「ああ、こっちもいろいろ助かったぜ!」
思い返せば、初めは大輔さんからの相談からだった。
一日の内容が濃すぎて忘れていた。
引き戸を開けて外に出れば、先程までは気づかなかった寒さがそこにあった。だが、空には満点の星が輝いている。月明かりも星々の瞬きを喜んでいるかのよう。
今は寒さのおかげだと思うことにしよう。
「帰るか」
俺たちはゆっくりと静かな
――新しい仲間を連れて。
【――神谷探偵事務所――】
「ラック、お前はどこで寝る?」
帰ってきた俺たちは、手早く風呂を済ませ、就寝の準備をしていた。
「俺か?気にしなくても、猫の姿でいるからどこでも寝れるさ」
「なら、俺の部屋でいいな。クッションくらいならある」
「それで構わない」
ちなみに、子猫は一之瀬君が今日だけ自分の部屋で一緒にと言うので許可した。大人びて見えても中身は中学生。
新しい家族が増えて、喜んでいるのだろう。
「俺たちも寝るか」
そんなわけで、俺たちはそれぞれの場所にて寝ることになった。
俺も昼間に寝たとは言え、疲労も相まって眠い。
布団に入るとすぐに眠気がやってきた。
目を瞑り寝ようとしたところで、近くから声がした。
「ご主人は本当に強いんだな。共有した魔力を通して、さらに強さが伝わってくる。それに、先の戦いでもすごかった」
「どうした」
「いやな、あまりに強いから考えていた。俺は本当にご主人の役に立てるのか……とな」
「考え過ぎだ」
そうは答えたが、なるほど。
使い魔として契約したからか、ラックの不安な気持ちが伝わってくる。
「安心しろ、使い魔となったからには、しっかり働いてもらう。お前ほど優秀な使い魔には、山ほど頼みたいことがある」
「……そうか、お手柔らかに頼むよ」
そう言って静かになった。
どうやら寝たようだ。
どれだけ強い主人であろうと、疲労と睡魔には勝てない。静かになった途端、俺は直ぐに深い眠りに落ちて行った。
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