獣集落

第1話

雪の降るトウヒの森の中に、ある集落があった。

温かい焚き火や木の穴の洞。そしてたくさんの食料。寒い雪の冬を乗り越えるのには最高の場所だった。

一匹狐の僕は、その集落に入ることができないか考え、日々集落の周りをうろついていた。そして、僕は気づいた。

そうだ。僕は化けることができる。あの鹿に化けて、仲間に入れてもらおうではないか。

僕は近くにいた鹿に化け、話かけた。

「なあ君。ここ最近は雪が寒くてね。春がくるまでここに泊めてもらえないだろうか?」

鹿は言った。

「なんだ、見ない顔だな。この辺りはよく悪い狐がうろうろしているのだが、同じ鹿なら歓迎だ。」

悪い狐。僕のことだとすぐに分かった。でも僕は決して悪い狐ではないはずだ。ただ「狐」というだけで意地悪や悪行をする悪い奴だ思われ、逃げられる。

狐の僕は好きだ。他の動物にはできないところもたくさんあるから。でも、皆に嫌われ軽蔑される狐の自分は嫌いだ。

そして、同じ鹿。ここには鹿以外の動物もいる。

やはり狐が悪い印象を持たれているから、仲間はずれにされていくんだ。

でも

「温かいこの場所でゆっくりしていくんだな。」

今は彼のとても温かい言葉に甘えさせてもらうことにしよう。

その後僕は、その集落に住む動物たちと仲良くなった。これで僕は仲間と春を迎えることができる。

なのになぜだろう。心に霧がかかった感じがしていた。

本来の僕は、狐。でも今は鹿。集落に混ざるためにやむを得ないということはわかっている。しかし、本来の僕を殺してまで、僕はこの集落にいるべきなのだろうか。

狐の僕は好きだ。でも狐の自分は嫌いだ。

もしかしたら、彼らは正直に話せば僕のことをわかってくれるかもしれない。

僕は仲間を信じることにした。

狐の姿で彼に話しかけた。

「本当は、僕は狐なんだ。でも決して悪いことはしない。絶対に約束する。」

彼は驚いた顔をした後、鬼の形相で言った。

「ば、化け物狐?!今まで騙してたんだな。やはり狐は酷い奴だ。」

生ぬるい言葉が心に刺さる音が聞こえた。

僕は脳内が怒りと悲しさに満ち溢れていた。ずっと、仲間だと思っていたのに。カッとなって、僕は怒鳴った。

「いい加減にしてくれ!!悪いことはしないと言っているだろ。どうして信じてくれないんだ!」

すると、鹿も怒鳴り返してきた。

「お前ら狐族が今まで行ってきた結果だ。」

鹿は呆れた顔をしてそっぽをむき、どこかに行こうとした。

「どこにいくんだ!僕なんかよりお前の方がよっぽど悪者だ!」

鹿がぼそりとつぶやくように言った。

「狐に生まれた自分を憎むんだな。昔からお前ら狐は俺たちに迷惑をかけてきた。今更そんな信じてなんて言われても、誰もお前ら悪物狐を信じないさ。

分かったならとっとと集落から出て行け!」

あぁ…そうか。そうかよ。やはりここは「獣」の集落なんだな。



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獣集落 @nago_2992

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