第十一話「新着アップデート情報」8/5


 動画投稿を考えているゲームタイトルにアップデートが入るという情報が出たのは、昨日のことだった。

 いつものように週末の金曜日にいつもの三人で集まっていた優利達だったのだが、これまたいつものように夕食を外食で済ませてから『作戦会議室』についてすぐ、スマホを眺めながら靴を脱いでいた拓真が大声をあげた。

「あー! アプデくるやん!」

「うっさいわ! 何が?」

 反射的に怒鳴り返して玄関で突っ立っている拓真のもとに近寄る。最後に部屋に入った拓真は、扉こそ閉めていたものの、靴は脱ぎ掛けのまま止まっており、その目は未だスマホに落とされたままだった。優利が画面を覗き込んでようやくその接近に気付いたのか、彼にしては珍しく一瞬スマホの画面を消し、それからすぐに再度表示した。

 これは優利にも何度も経験があるので理解できる癖なのだが、主に隠し事のある人間が直前に見ていた画面を交際相手などの目から咄嗟に隠そうとする動きだった。いつもの癖が出て少し照れくさいのか、拓真は「いやー、つい」と笑って、改めてスマホ画面を見せてくれた。

 そこにはもう見慣れまくったゲームタイトルに、お盆休みの期間限定でボスモンスター相手のタイムアタックを実施するという内容の情報が記載されていた。どうやらゲームの公式が企画しているイベントのページらしい。そういえば今朝、ゲーム機本体にアップデート通知予告が来ていた気がする。あ、これは本体システムのアップデートだったか。

 このゲームにおけるタイムアタックとは、ボスモンスターとの戦闘時間をカウントし、その交戦時間の短さを競うものだ。タイマーはゲーム内で計測されているので、討伐後の報酬画面をネットにアップすることで証明になる。

 今回のような公式企画は初めてだが、これまでもよくネットで『ボスモンスター〇〇分討伐動画』とかいう見出しで動画があがっているのを見たことがあった。内容まではチェックしていないが、それなりに腕が立つ『隊長』達は多そうに思える。

「討伐イベントで名を馳せようってか。ええんちゃう? 俺らのプレイスキルがどれくらいのレベルなんかも、それでわかるやろし」

「実力の可視化は大事よな。俺もええと思うで。拓真ももちろん?」

 既に定位置について座り込んでいる一希がくくっと笑いながら乗ってきたので、優利もそれに快く応じてやる。勝負事が好きな好戦的な性格は、この三人の共通点だ。

「僕もええに決まってるやん。ボスモンスターはお盆らしく『ガイスト型』のみやけど、新規勢も参加しやすいように装備自体は固定やし、これなら新しいデータでも火力の差は全く問題なし。シンプルにプレイスキルだけの勝負やん。いつものスキル構成できひんのは面倒やけど、そこはまあ、気分転換くらいに考えよか」

 靴を脱いで拓真は一希にも画面を見せるために彼の隣に腰を下ろす。優利はついでに冷蔵庫から飲み物を取り出しながら、本体のアップデートが終わっているかを確認する。

「お前ら、ちゃんと本体のシステムアップデート終わってるんか?」

「ちゃんとしてあるでー」

「同じく」

「俺も終わってたわ。とりあえず、イベントの前哨戦も兼ねて、『ガイスト型』クエストいって、それ元に動画編集してみよか」

「弟から編集の仕方は教わったんか?」

 ゲーム機に手を伸ばした優利に、意味深な――というか、どちらかというと揶揄うような笑みを浮かべて一希が問うものだから、勘の鋭い拓真が「もしかしてまだ教わってないん? いったい何してたん? やらしー」と全部わかっているかのような声を上げた。



 それから六時間程『ガイスト型』と呼ばれる種類のボスモンスターをひたすらに討伐し続けた。イベント専用のクエストの配信がまだなので、ガイストと戦えるクエストは一匹だけ出現する単純なクエストと、二匹同時に出現するクエストしか今のところ存在しない。その至って『ノーマル』なクエストを延々と繰り返して、戦闘時の行動を最適化していく。

 このゲームに出てくる敵は、皆どこか人と獣が混ざり合ったような見た目をしており、それらを総称して『ヴォルフ』と呼んでいる。公式からしっかりとした設定は明記されていないが、獣の部分がおそらく狼のようだからというネット上での考察が、今のところ最も可能性的には高そうだった。

 そんなヴォルフだが、雑魚として大量に出てくるモンスターは狼そのままの見た目をした姿なのだが、大型モンスターと分類される所謂ボスは、どこか人と同化した気持ちの悪い存在として描かれていた。人の部分が突き出した部位の違いによって、『~型』と分類がわけられていて、今回のイベントではその中の一種、幽霊のような特性を持つ『ガイスト型』を討伐するということだった。

 イベント限定のクエストのため、キャラクターの装備品は武器、防具共に全て固定。選べるのは武器種のみのため、自分の好みのスキルの発動すら行えない。確かに装備の整っていない初心者にも優しい制度のように思えるが、こういったイベントで一番恩恵を受けるのは、どうしても達人の域に達しているベテランプレイヤー達だった。

 企画自体が玄人向けのタイムアタックなのだ。ここは相当研究しておかないと、名前を売るなんて夢のまた夢。

 反復練習のようにクエストをやり込み、お互いにとってのベストな武器種の選定、ひるみタイミングの調整、ダメージ計算による効率化を行い、結局は『普段から愛用している武器種を各々担ぐ』ということに落ち着いた。

 その時点で時刻は明け方。各々呻き声をあげながらいつものように就寝し、昼前には起床。昼食に向かう時間も惜しいと食事はデリバリーを頼んだ。

 今日は拓真が本命との外せない予定があり、十五時には解散の約束だった。そのためシャワーは解散直前と決めて、また三人は黙々とクエストに挑み続けた。

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