第8話  嫉妬 〜昂る〜



軽井沢から帰って来た私は

二週間ぶりに広い部屋を大掃除して

安藤くんと只今電話中



「ごめんね、

 バタバタして連絡が

 遅くなっちゃって」



"いいよ、気にしなくて。

それよりさ歴史の課題終わってなかったら

一緒にやらないか?"



「うん!!

 ……それなんだけど、

 いい資料幾つか見付けたから

 家でやろうと思って」



軽井沢から持ち帰った数冊の本たちは

瀬木さんに選んでもらったもの



"それ、俺も見に行っていい?"



「うーん……

 ちょっと確認してからおりかえすね。

 それでもいい?」



"分かった。バイト始まるからまたメールして"



電話を切った私は部屋を出て

リビングを覗くと、

オフを満喫してる瀬木さんは

リビングでサスペンスを鑑賞中だった




「…あの…瀬木さん」



『今は仕事休み』



ドクン




「‥‥‥隼人くん」



『ん?なに?』



帰ってきてから仕事外では

瀬木さんと呼ばれたくないという

我が儘を言うので、

恥ずかしながら

そう呼ぶことにしている




テレビからは

私の恥ずかしさなど

消えるくらい大音量で

女性の悲鳴が聞こえてくる



よくこんな怖いの見れるよね‥‥

夜寝れなくなりそう



瀬木さんはコメディでも

ホラーでも恋愛ものでも

なんでも興味を持って見る


小説のアイデアになるんだって。



「あのね……

 友達とここで残りの

 課題やったらダメかな?」



『課題?……あぁ、歴史の?』



さすがに煩いのか

テレビを消してくれた瀬木さん



『ここは、日和の家でもあるからいいよ。

 佐伯さんと?』



佐伯さんとは彩のこと。

瀬木さんちゃんと覚えてくれてたんだ



「えっと……違うんだけど

 ‥‥‥‥安藤くん?」



『駄目』


えっ!!?



一言そう言うと

もう一度テレビを付けてしまった瀬木さんに

何故だか悲しくなって泣きそうになる



確かに好きな人の家にいて

男の子呼ぶなんて

いけないことだけど、

安藤くんは友達だから

怒らなくてもいいのに……



腕を引き寄せられると、

座っている瀬木さんの胸の中に収まり

キツく抱きしめらる



『泣かないで。悪かった……

 でもこれだけはダメ。』



「ん‥分かってる

 ごめんなさい。

 ‥‥……駄目なら図書館で」



『もっと駄目』



えっ!!?

ここでも駄目!

外でも駄目なの!?



二人で会うのは駄目だって分かる。

きっと逆のことされたら友達でも

多分気になって嫌だから



ん?

そうか………

二人きりじゃなきゃいいんだ!



「は、隼人くん、

 彩とか他の子も誘えば

 ここでやってもいい?」



彩は歴史専攻とってないけど

まだ他のレポートあるだろうし、

もう一人歴史専攻で知り合った子にも

声かけてみようかな‥



『はぁ………いいよ』



「ほんと!?

 良かった……じゃあ早速

 連絡とってみるね!」



嬉しくなって

瀬木さんにまた抱きついて

顔をそこに埋めた。



「……あ、映画見てるのに

 邪魔してごめんなさい。

 私部屋に……あっ!」



立ち上がろうとすれば、阻止され

あろうことか瀬木さんの足の上に

跨がるように座らされてしまう



「は、隼人君…近いよ!!」



『聞いて』



「やだ………降ろして」



『日和……』



ドキン



瀬木さんはズルい。

名前を呼べば

私が恥ずかしくて

動けなくなることを

多分知ってる



『日和は自分のことを分かってないから

 心配してるの、それは分かる?』



「よく分かんない……」



恥ずかしがる顔を見られたくなくて

慌てて両手で顔を隠してしまう



『そういう仕草が可愛いし、

 離したくなくなるんだって。

 多分……無意識だと思うけど』



「‥‥‥隼人君だけ‥」



『俺だけ?何が?』



撫でていた手が髪の毛を通り、

私の剥き出しの肩に触れる



「……こんなに恥ずかしくて

 緊張するのは昔から……

 尾田先輩しかいない……だから」



動いていた手が一度止まった後、

すぐに腰に移動して私を引き寄せる



瀬木 遥

尾田 隼人……

そして先輩全部に恋してる




『…顔見せて』



恥ずかしくて両手で顔を

覆ったままの私は

首を左右に何度も振る



ビクッ!!



腰を抱く瀬木さんの片手が

首に移動したと思ったら、

ホルタータイプのリボンを

解くのが分かり

慌てて顔から両手を離した



「隼人く!……んっ」



それを待っていたかのように

唇に噛みつかれ瀬木さんの腕が

私の首元に移動して

逃げられない



「…………はぁ……んっ‥」



『日和‥‥口開けて』



ドクン



隼人くんの舌がペロっと

私の唇に触れると

恥ずかしさが増して

体が熱くなる



「そんな……出来な……んんっ」



『‥なんで?』



「無理………恥ずかし……」




本とか漫画とかでは見たことある

大人なキス



普通のキスで既に

こんなにいっぱいいっぱいなのに

恥ずかし過ぎて出来ない‥



でも好きな人との行為は

何回か重ねると幸せで、気持ち良くて

離れるのも寂しくて

変な気持ちになる



『……クスクス‥ごめん。

 嬉しいこと言うから。』




「‥はぁ‥‥はぁ」



私がもっと大人で経験あれば

きっと好きな人とだから

素直に身を任せて出来ると思う



まだ最近思いが通じたばかりの

わたしは、そばにいるだけで

かなり緊張してしまう



ごめんねの意味を込めて

首に手を回して抱きつくと

首元に唇が触れた



『‥こういう服は着たら駄目だから』



「うん‥‥」



暫くしてからようやく

解放された私は

部屋で彩と友達にメールをしたら、

OKを貰えて安堵した



安藤くんにも四人で課題を

やることをメールしたら

楽しみにしてると返ってきたので

少しだけホッとする。




夏休み前半にレポートを終わらせれば

あとは凄くラクだから頑張ろう



みんなで日にちを決めた後、

リビングで眠る隼人くんにそっと

ブランケットをかけて

買い物に出かけた。



「………暑っ」



何日か前までは

あんなに軽井沢で

涼しさを感じていたのに、

都内はやっぱりそうはいかない



またいつかあの場所に行ってみたい。

私にとって特別な場所となったから。




夕食に冷やし中華を作り

二人で食べた後、

初めて一緒にリビングで映画を見た



しかもテレビではなく

階段の奥の背面に映し出された

大きなスクリーンで。



思いを伝える前は

リビングでこんなふうに

過ごす日が来るとは思えなかった




驚くことは尽きないけれど、

こうしたオフの時間があるのは

ほんの少しの期間だけで

瀬木さんは仕事が入ると

また忙しくなってしまう



だから横に居てくれる時間を

大切にしようと思えた


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勉強会という会


つまりみんながここに来る日



少しだけ早起きをした私は

仕事が少しずつ始まりまだ寝ている

瀬木さんが起きる前に

軽く掃除をしていた



9時に大学で

待ち合わせをするためだ



簡単な朝食の準備をしていたら

二階のドアが開いたので、

キッチンから上を見上げた私は

その姿に洗っていた

トマトをザルに落とす



「は、隼人君、服 !!」



朝からモデル並みに

綺麗な顔の瀬木さんは、

下はタオル地のスウェットを

履いてるものの

上は裸のままだ



『暑い……』



「あ、暑いじゃなくて

 ちゃんと服着て!」



細そうに見えても

程よく筋肉がついてる体は、

本ばっかり書いてるけど

ちゃんと引き締まってる



あの胸に私はいつももたれてて

……抱き締めてもらって



って!!

朝から変なこと

考えない、考えない!!



高城さんから送られてきた原稿に

先日書き上げたあの作品に

赤ペンが入ってて、

遅くまでパソコンで

書き直していたのだろう



「隼人くん、朝食作ってあるからね」



『ん、ありがとう』



時間がなくてさっさと食べ終えた私は、

新聞を読む瀬木さんを他所に

仕上げの掃除機をかけている



うわ‥

時間ギリギリになっちゃう



後片付けを終えた私は、

急いで服を着替えてから

階段をかけ降りた



着替える前、

瀬木さんはシャワー浴びるって

言ってたし、

鍵だけかけて出ようかな‥‥




『どこか出掛けるの?』



「わっ!!出掛けるというか……

 課題やるから

 みんなを大学まで

 迎えに行ってくるだけだよ」



『……車出す、待ってて』



えっ?



髪の毛から滴まだが零れている

隼人君を追いかて

洗面所に入る



「隼人くん大丈夫だよ。

 お願いだから髪の毛渇かして?」



『ん』



寝不足な上に

また風邪でもひいて

倒れたら心配



タオルで頭を拭こうとしたら

届かなくて

体を屈めてくれた



『今日の服可愛い……

 ちゃんと肩でてないのに

 してるね。』



「これ彩とお揃いで買った……の」



ドクン



タオルの間から見えた瞳に

心臓が跳ねる



よく考えたら

脱衣徐で髪の毛を拭いてる私は、

この状況に気付くのが遅くて

あっという間に唇を塞がれた



「‥‥んっ」



タオルを両手で握り締める手に

力が入るも、私の唇が

次第に触れた舌にビクっと反応する



『日和‥ここ開けて』



「…はぁ……遅刻‥する……無理‥」



お風呂上がりの色気がすごい

隼人くんをおしのけ

マンションを急いで飛び出した




「危ない……ほんとに」



心臓が壊れそうになるし

喉がカラカラだ。

あんなのいつまでも慣れない‥



綺麗すぎる顔に見つめられるのも

唇に触れたがるのも

私には全部全部心臓がもたない



本当に子供過ぎて

隼人くんに申し訳ない‥


大学生なら

みんなこんなこと余裕なのかな‥



ごめんね‥

いっぱいいっぱい待たせたのに

好き過ぎて逆に急げなくて‥‥



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『おはよう、みんな暑いのに

 待たせてごめんね」



『うちらもさっき来たところだから』



彩と安藤くんそして



「弥生ちゃん

 急に誘ってごめんね?」



二年に入ってから

選択授業で時々会う弥生ちゃんとは、

前していた図書館の

アルバイト先で知り合った

バイト仲間でもある。



私の猫っ毛な髪の毛と違って、

艶のある黒髪のサラサラな

ロングな髪がとても綺麗で

構内でも彼女がよく

告白されていると聞かされる




『大丈夫だよ。

 レポートみんなで出来るの

 すごく楽しみだから、誘ってくれて

 ありがとう。』



「そうだね、私も楽しみ。

 みんなありがとう。‥じゃあ行こっか。」



ここにいても暑いので、

マンションに向かって行く途中

コンビニでそれぞれお菓子やら

飲み物を買った



勉強といっても、

友達同士集まれば

結局おしゃべりして

終わることも多々あり

それが楽しいんだけどね



『って‥‥ここかよ………

 高級マンションじゃん!』



私も最初は

きらびやかなエントランスやら

一面絨毯の通路に驚いたもん。



慣れって恐ろしい‥‥



「あ、あのね……実は、

 私ここで住み込みで

 家事手伝いをさせてもらってるの」



『住み込み!?』



彩は知ってるけど

二人にはこういう話したことないし、

部屋に行ってからだと

瀬木さんいることに驚くから

最初に言うことにした



到着した私は

いつも通り鍵を出そうと思ったけど、

何となくみんな名前もあり

インターホンを押すことにしたのだ



カチャ



『あれ、おかえり。

 入ってくればいいのに。』




「あ……はい‥えっと‥‥

 せ、瀬木さん、

 こちら大学の友達です」



急に静かになった三人を見れば

安藤くんは瀬木さんに驚いていて、

弥生ちゃんは何故か驚いた様子で

目を丸くして固まっている



瀬木さん本当にカッコいいから、

みんな固まるの分かるよ‥‥

わたしも初めて見た時固まったもん。



そこらの芸能人よりモデル並みに

綺麗な容姿してるし、

背丈も申し分ないくらいスラッとしてるから。



『フッ‥‥立花がお世話になってます。

 暑いからどうぞ』



瀬木さんがわざわざ外に出て

ドアを開けてくれたので、

ボーッとするみんなを

押し込み中に入れた



お世話になってますって……

まるで保護者みたい




『おかえり‥

 車出すって言ったのに』



クスクスと笑う綺麗な顔に

さっきまでの事を思い出して

顔が赤くなりそうだったから、

瀬木さんも一緒に押し込む



「近いからいいの!

 ほ、ほら暑いから入ろう?」



『クス‥‥

 もっと甘えればいいんだよ』




和木さんが別荘で言っていた事を

思い出して俯くと、

リビングに入ったみんなを確認して

瀬木さんは私の頭を撫でた



『あ、あの瀬木さん、

 ここのダイニングテーブル

 使ってもいいですか?』



敬語を使った私に

眉を寄せたのはなんとなく分かったけど、

付き合ってるとはみんなに言ってないもん。



あくまでも、

家事手伝いと雇い主だ。



ダイニングテーブル

大きいから六人は座れるし、

ソファだと姿勢的に勉強やりづらい



『いいよ、立花さん。

 後でコーヒー持ってきて。

 残りの仕事仕上げてるから』



「う、……はい。」



危ない……

普通にうんって

言ってしまうところだった



ラフな服装なのに

かっこよく着れるのって羨ましいし

どんな姿でも見惚れてしまう。



「ここ使っていいみたいだから座って?

 私コーヒー淹れたら資料持ってくるよ。」



『なぁ、それにしても

 ほんとに凄いとこだな?

 あの人一人で住んでるのか?』



みんながテーブルに移動して

椅子に腰かけるも、

全く落ち着かないようで

キョロキョロしている



「そうだよ、ここで仕事もしてるの」



さっき仕事って言ってたけど、

瀬木さんが作家ってこと

言ってもいいのかな…

後で聞いてみよう




私はコーヒーを落としている間に

二階から資料を何冊か持ってくると

安藤くんが珍しそうに手に取った



『すごいな!!これ……

 貸し出し難しいレベルのものまである』



『ほんとだ!……見ていい?』



弥生ちゃんに頷けば、

彩にはそれとは別の本を二冊手渡した



『何これ?』



「先生が彩の課題の参考になるからと

 昨日別で渡してくれた本だよ」



『ほんと!?見る!!

 さすが日和、私の事ちゃんと

 考えてるんだから』



無理言って今日来てもらったから

彩にはほんとに申し訳なかったんだよね



私はおとした熱いコーヒーを

トレイに乗せて

仕事部屋をノックした



コンコン



『‥どうぞ』



「失礼します」



開けた先には

眼鏡をかけて

原稿を見詰める瀬木さんがいて、

邪魔にならない場所にコーヒーを置いた



「置いておきますね。

 あの‥‥瀬木さん?」



『ん?』



「瀬木さんの仕事の内容って

 みんなに言っても良かったですか?」



自費出版から、

和木さんの信頼を得て

出版している人だと聞いてるから



人気も出てきて個人宅だから

言ってもいいか不安になる




『構わないよ。』



「ほんと……ですか?」



『敬語か……立花らしいな。

 今日は仕方ないから我慢するよ』



「瀬木さんありがとうございます。

 勉強頑張って来ますね」




抱きつきたい気持ちを抑えて

頭を下げて部屋を出たあと、

みんながいるところで

私もパソコンとノートを広げた




安藤くんの隣に腰掛ければ

目の前の彩が真剣に本を読んでいた。



なかなか借りたくても

借りられない本だけに

彩以外の二人も静かに読んでいた。



『立花

 そう言えばあの人って何やってるんだ?

 こんな本持ってるって凄いぞ?』



ドキン



「あ、………あのね、

 作家の仕事してるの。」



『『作家!?』』



予想通りの反応にうまく説明出来なくて

溜め息が出そうになる



『あの人なんて人!?』



「…えっと‥

 …瀬木 遥だよ。分かる?」



『えっ!!』



急に大きな声を出した弥生ちゃんが

口元に手を当てて驚いている。



『瀬木 遥って……どうしよう‥‥

 凄いファンなの……

 本も全部持ってて‥すごい‥

 ふふ‥奇跡だ‥‥』



「そ、そうなの!?

 きっと瀬木さん喜ぶよ?」



顔を桃色に染めた頬が可愛くて、

何故か震えてる弥生ちゃん。



そりゃこんな近くに

大好きな作家さんがいたら

嬉しいもんね‥



瀬木さんのファンが

ここにもいることに

私まで嬉しくなった



「安藤くん、どうかした?」



『あ、いや……

 レポート作ろうか。』



一人だと分からないことも、

三人いれば意見が出て

ノートに色々書きこんでいける



やっぱりみんなで

やって良かったかも‥‥



だいぶ纏まってきた頃に

ふと前を見れば

気持ち良さそうに眠る彩がいた。



クーラーで風邪を引かないように

ソファにある映画用に私が

置いたブランケットを

そっと掛けた



昨日もバイト遅番って言ってたし

寝かせてあげよう。

無理言ってごめんね彩。



彩には隼人くんとのこと

伝えてあったから、

本当に気を遣ってくれたと思う



『あの、日和ちゃん、

 トイレ借りてもいい?』



「うん、

 そこの扉出たらすぐ左だから」



弥生ちゃんが立ち上がって

リビングを出ていったので

安藤くんに歴史のこと色々聞いてみよう



「あ、あのさ」



『なぁ、立花って

 好きなやつとかいるの?』



「えっ?」



質問しようとしたら

突然聞かれたことに驚いていると

隣の安藤君が肘をついて

こちらを見ていた



なに……?


真剣な眼差しが

いつもにこにこしてる

安藤くんじゃない‥



『ね、立花、聞いてる?』



私の方に近付いてきた安藤くんが

ぐっと顔を近付けてくる



「うん……いる」



変に心臓がドキドキし始めた私は、

参考書を開いて目をそらした



「俺さ立花のこと好きなんだけど」



ドクン



『何してるの?』



ビクッ



低くて私の心を動かす声に

俯いていた顔を上げれば、

仕事部屋の入り口でもたれて

こっちを見ている瀬木さんがいた



『何って‥勉強ですよ』



『へぇ……

 そんなにくっついて?』



えっ?



隣を見上げれば

ほんとすぐそこに

安藤くんの顔があって

驚いた私は立ち上がった



多分だけど

声のトーンで怒ってるって

何となく分かったから‥‥



コーヒーをおかわりしに

来たのが分かったから

私はすぐにキッチンへと

向かった。



「瀬木さんコーヒー飲み過ぎです。

 ‥‥何か食べてからじゃないと

 胃がやられます。」




カチャ


『あ……せ、瀬木先生! 』



トイレから戻った弥生ちゃんが

部屋から出てきてた

瀬木さんを目の前に

真っ赤になっている



『あの……

 私先生の本全部持ってます!!

 次の作品も楽しみにしてます。』



『‥‥へぇ全部?

 …それはありがとう。嬉しいよ』



えっ!!



私を無視するかのように

歩き出した瀬木さんは私の目の前で

弥生ちゃんの頭に手を軽く置いた




ドスンと音を立てた後

思わず麻の豆袋を落として

いた事にハッとするも、

豆の散らばる音で

やっと我に帰り息をし始めた私



彩が驚いて目をさませば

私の方を見て

すぐに駆け寄ってきた



『日和、何してんの!』



「だ、大丈夫!

 ごめん‥‥‥ツッッ」



ここまで言って

豆を拾う手に滴が溢れてるのに

私も彩も気が付いた



駄目だ………

ここで泣いたら



私はバレないように目を擦り

落とした豆を何とか広い集めていく





『そうだ!!

 瀬木さんは

 今日は午後からここで

 打ち合わせの仕事あるって

 言ってたから

 そろそろ私たち帰ります。

 二時間近く勉強出来たし

 助かりました!!

 もう、日和も体調悪いなら言いなさいよ。』



えっ?

………彩?



突然何を言い出すのかと

上を見あげれば

少しだけ笑った彩が私の頭を撫でた



『瀬木さん

 それじゃあ私たち帰りますね。

 安藤くんと、弥生ちゃんも帰るよ?』



『えっ?だって立花は?』



『いいから。

 瀬木さん体調悪そうなので

 あとお願いします』



『‥‥ああ』



『先生……!!

 今度本の感想聞いて下さい、

 お願いします。』



ドキン



力が入らなくてその場で

泣き始めてしまった私に

多分彩は気付いてる



ごめんね彩……



ガチャン



みんなが片付けをして

出ていってしまうまで、

そこから立ち上がれない私に

ようやく触れた手に体が強張る




『いつまでそうしてるの?』



「……ごめんなさ……」



勝手に泣いて

大事な友達にまで

余計な気を使わせて

私は最低だ



カウンターキッチンの合間で

顔を上げれない私に

背後から伸びた手が体を引き寄せる



『何告白なんかされてるの?』



「ウッ………ヒック」



我慢してた私は漏れる嗚咽を止められず、

後ろを振り返ることが出来ない。



ドキン



そんな私を他所に

瀬木さんは軽々と私を抱えると

立ち上がり歩き始める



「ど…こ行く…の?」



『俺の部屋』



ドクン



「…や…おろして」



『………無理』



私を片手で抱えたまま

ドアを乱暴に開けた後

ベッドの上に

おろされた



真上から見下ろされるのは初めてで

整った顔が眉を寄せていて、

余計に涙が出る



『悪いけど、今怒ってるから』



「……怒ってるって……

 分かるも…ん」



沢山見てきた先輩の表情の中でも

私に今見せている表情は

1番怒りが伝わる




『‥‥嫉妬した』



えっ?



「んっ………」



泣く私の首元に

温かい何かが触れて

体が思いっきり跳ねる



耳元に移動したそれが

舌だと分かった私は

そこから逃げようとするけれど、

力も体も大きい瀬木さんには勝てない




「んっ‥‥私も

 ……嫉妬……した」



『……えっ?』



「瀬木さんが…

 弥生ちゃんの肩触ったから」



体を起こした瀬木さんは、

私の乱れているであろう髪を

横に流してから

涙を丁寧に拭っていく。



『ん‥それで?』



「瀬木さんが弥生ちゃんのとこに…

 行っちゃったらって……恐くなった」



ただ肩に置かれた手


だだそれだけだけど、

この手を独占したいって

見苦しい感情が沸いてしまう



『俺も同じ‥‥』



「えっ?」



『偶然部屋から出てみれば

 近付かれて

 告白なんかされてるし。』



隼人くん‥‥



いつも冷静で落ち着いてて

まだ時々何考えてるのか

分からないけど

そんな隼人君が

私に嫉妬?



「…隼人くんしか…やだよ」



『ん、俺も‥‥日和だけ』




泣いてぐちゃぐちゃだろう顔で

笑顔を向ければ、

おでこに触れた瀬木さんの薄い唇が

目尻、頬に触れてくる



『立花……口開けて?』



ドクン



今泣いてたから

ちゃんと分かってなかったけど

安心して落ち着いてきたら

今のこの情況に

胸が急速に鼓動し始める



「……待って」



『待てない』



こんな時にそんなこと言われても、

押さえられてる手首から

鼓動が伝わってしまいそう



『‥‥まだ怖い?』



隼人君が怖いんじゃなくて、

沢山触れられた後

知らない自分がどんどん

出てくるのが怖い



あの手1つにも

醜い嫉妬もしてしまう



私はいつからこんなに

独占欲が強くなったのだろう。




『日和‥‥好きだよ』



顎を捉えられた私は

目の前の綺麗な顔に見惚れて

唇をあっさり受け入れた



甘く優しく降ってくる唇に

緊張している暇もなく

瀬木さんの舌が入り込み、

どうしようもなく鼓動が高鳴る



「んっ‥‥‥‥ツッ‥‥‥ん」



駄目………

心臓が壊れそう



「んっ‥‥あっ‥‥隼人く‥‥」



とろけるように力が

どんどん抜けていく中

お腹に直接触れた手が滑り込み

私の胸に触れる




ピンポーン



インターホンは

瀬木さんにも届いているはずなのに

行為を全く辞めてくれないから

拳を作って肩を叩いた



「んっ………はぁ……はぁ」



『‥‥‥残念、

 やっと素直に開けてくれたのに』



いたずらっ子のように笑った瀬木さんが

ベッドから降りて部屋を出て行ったあと

捲れ上がったブラウスと

露出した下着を慌てて整える



未だにドクドクと鼓動を増す胸に

手を当ててゆっくり呼吸を整えた



瞳を閉じると

隼人君の甘い舌と力が抜けて

気持ちよくなっていた

知らない自分に熱を増す



後でみんなにメールしなきゃ‥‥

レポート途中で

終わらせちゃったから



暫くして落ち着いてから

部屋を出れば、

隼人君はリビングのソファに

腰掛けていたから

緊張しつつも

ゆっくりと階段を降りた




「お客様?」



『‥‥‥‥‥‥ん、大丈夫

 セールス。』




良かった……



あの後作った昼食を

食べ終えた隼人君は

書き直した物を用事がてら

出版社に直接行ってしまったので

私は隅に寄せていたノートを開いて

レポートの続きをすることにした



「ツッ!!」



ノートに書かれていた

言葉に私は固まってしまう



"ずっと好きだった。

ちゃんと話させてほしい"



安藤君のこと

友達としか見てなかったのに、

突然のことで受け入れられない‥‥

私は絶対先輩以外

好きにはなれないから。


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瀬木 遥 side



せっかく日和が

開いてくれた唇に触れられたのに

邪魔された苛立ちで

インターホンの画面を覗く



『(……………この子)』



2階を一度見てから、

きっと顔を赤くしてるだろう日和は

すぐ来ないと想像し玄関の扉を

チェーン越しに開けた



『‥‥なに?』



そこにいたのは

帰ったと思ったはずの

日和の友達だった



『あ、あの私‥

 ひよりちゃんにまだ

 話したいことあって‥』



綺麗な子だとは思うけど、

日和と同じように

真っ赤な顔をして話すこの子を見ても、

なんの感情も湧いて来ない



どうしてだろう……



あんなに子供みたいに

我が儘言ったり

困らせて泣いたりするのに

日和にしか欲情しない自分がいる





『それにやっと会えたから……』



『‥‥‥‥‥‥‥?‥‥!!』



ああ……そうか



日和は俺にとっての恋愛の

原点そのもの

だからだ。



コーヒー飲みすぎとか

頭拭いてとか、

寝てくださいとか

無意識に俺を心配する小さな彼女



そんな下心のない彼女だから、

強引にでも早く口を

開かせたくなるのかもしれない



『日和が起きてる時においで。

 彼女、眠ってるから。』



『えっ?』



ほらね…

やっぱり思った通りだ。

下心な上に、佐伯さんが言った

嘘の発言も忘れたのか

心配せず自分のことばかり



わざと立花ではなく

日和と名前で呼んだのは

相手に対する最大の警告




俺の記憶が間違ってなければだが、

苦い思い出に久々に溜息が出る。




あの子

日和に何もしないといいけど…




瀬木 side 終


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「明日からの週末

 おうち家あけてもいい?」



夕食を食べ終え、洗い物をした私は

瀬木さんに許可をもらうべく

おとしたてのコーヒーを差し出した



『いいけど、何処か行くの?』



「うん………お兄ちゃん家」



お母さんが

アパートを解約したのを

どうやら知らなかったみたいで

心配してるらから私の顔を見たいらしい



その日は北海道から来て

お兄ちゃんのアパートに泊まるから

一緒に泊まれと言われた。



『久しぶりなんだろ?

 ゆっくり会っておいで』



「うん、ありがとう。

 2日間いませんけど

 家のこと出来なくてごめんなさい。」



隼人君の手が私を引き

隣に座らせると

肩をそっと抱き寄せた



「隼人君?」



『よく考えたら

 一緒にいて初めて離れるなって思って。

 …もう会えなくなる訳じゃないのに

 寂しいなって』



確かにそうかも。

数ヶ月前

ここでお世話になってから

ここに帰ってこない日はなかったから。



大きな綺麗な手が頭に乗せられ

親指がその場で私をくすぐる



「隼人君、ちゃんと寝てね。」



『ん‥‥』



「コーヒーは5杯以上ダメだよ。」



『ん‥‥気を付ける』



「暑くても服着て寝て……んっ」



軽く触れた唇が私の唇を啄み

恥ずかしいリップ音が響く



『………日和』


「何?」






『‥抱きたい』



ドクン



みんなが来たあの日から

深いキスを落とされるたびに

そうなりかけた時もあった。



隼人くんの唇からの舌の合図にも

まだ緊張する



でも前よりも

もっと長くくっついていたいって

思えるほどにもなった



整った容姿が目の前で

私の瞳を真っ直ぐ見つめてくる



ずっとずっと

私の気持ちを優先して

待っててくれてるって

知ってる


きっとここで断っても

きっと隼人君は待ってくれると思う



キスする時も

強引なようで

ちゃんと私に合わせてくれてるから



「‥‥‥‥ん‥‥」


恥ずかしかったけど、

大好きな人とそうなりたい



隼人君は

私を大事にしてくれる


だから答えたい


そう思うのは

この人だけだから


勇気を出して小さく頷くと

私はあっという間に抱っこされて

隼人くんの寝室に連れて行かれた



「‥‥あの‥‥私初めて‥なの」



『ん‥‥知ってる。』



電気もつけない部屋には、

暗くなり始めた外の僅かな

明るさだけが窓から差し込む



恥ずかしい‥



心臓が

このまま本当に

飛び出てしまうのではないかと

ドキドキする



でもやっぱり隼人君が私を

大切にしてくれてるのが

伝わるから答えたいし

向き合いたい



『日和‥‥大丈夫だから』

 



何度も降り注ぐ甘い唇も

優しいものから次第に激しくなり



自分の口から漏れる呼吸や声も

どんどん抑える余裕もなくなっていく



『日和‥‥声‥可愛い‥』


「んっ‥‥‥あっ‥‥‥」



手際よく脱がされるワンピースと

下着に入り込む掌が

包む胸の頂に

上がっていく息と漏れる甘い声



不安になりそうだとわかると

また優しく唇を塞がれ

その度に痺れる甘さに力が抜けていく



隼人君が出すリップ音と

私の体を這う指に

感じたことのない気持ちが溢れて

声を抑えられない



『日和‥‥』


「はぁ‥あ‥‥‥ああっ‥‥んっ」



自分ではどうすることも出来ない感情や

止められない甘い声も

隼人君が全て受け止めてくれている



何度も大丈夫か聞いてくれ

余裕のない私は頷くことしかできない



経験したことのない鼓動


誰にも触られたことのない場所への

侵入


止まることのない律動や昂る声


一つひとつが知らなさ過ぎて怖い



それでも好きな人となら自然な気持ちで

そうなりたいって思えることを知れた



怖くてしがみついた私を抱きしめ

どうにかなってしまいそうな時も

肌と肌が触れ合えば安心した






体が繋がるって

気持ちが繋がるのと

同じくらい

心地よくて安心するんだ‥‥‥



--------------



「‥‥‥ん」



今何時だろう‥‥


私さっきまで‥‥



ドクン



動こうとした私のお腹に

巻きつき触れている手



それが誰のかは分かるけど、

リアルに感じる手の感覚と

背中に触れる素肌の感覚に

裸のままだと気付き固まった




途中から

覚えてない‥‥


幸せな気持ちになったのは

覚えてるんだけど‥‥




隼人くん‥幼児体型で

ショックだったかな‥



もっと可愛い下着つけておけば

良かったとか今になって

不思議と色々考えれる

余裕があるから不思議




『ん‥‥起きた?‥‥体ツラい?』


ドキン


「んっ‥‥大丈夫‥‥」



腕の力が緩められ

頬に軽く唇が触れてから

隼人君がベッドから起き上がった。



『シャワー浴びてくる‥

 仕事そのままにしてるから

 少しやってくるけど

 体ツラかったらここで

 寝てていいから。』



上半身裸のまま

下だけ履いていた隼人君が

部屋を出て行った後

私も体を起こそうとして驚いた


ツッッ!!



筋肉痛にも似た

気怠くも重たい体は

もう一度ベッドに倒れてしまう



‥‥‥もうすぐ明け方だろうか。

外は少しだけ明るさを覗かせてる。



隼人君の温もりが

なくなったシーツの中は

どこか寂しさもあり

痛む体をゆっくりと起こしてから

服を身につけた。



いつまでも裸でいるのには

全く慣れてない。



隼人君はよく上だけ裸で

寝ててそのまま起きてくるけど‥



まだ少し眠かったし

歩く時に違和感もあったけど、

喉が渇いたから私もゆっくり

リビングへと降りて行った。



あ‥‥メールかな



テーブルの上に置きっぱなしの

スマホが点滅しているから開くと

お兄ちゃんからメールが届いている



ガチャ



『‥‥起きて大丈夫?』



冷蔵庫から

ミネラルウォーターを

コップに注いでいた時

シャワーから戻ってきた隼人君



「うん‥‥大丈夫。

 ちゃんと服着て髪の毛乾かしてね。」



隼人君にも同じように

ミネラルウォーターを渡してから

コーヒーメーカーに豆をセットした。



『日和、ありがとう』



「ん?コーヒー?

 お仕事するから飲みたいかなって」



すると

突然後ろから抱きしめられて

まだ隼人君の濡れた髪が

私の頬に雫を落としていく



『‥‥ん、それもだけど

 日和を抱けたから‥』



ドキン



さっきまでの時間が鮮明に蘇り

大切に大事にしてもらえた事が

嬉しくなる



「隼人君‥‥あ、あの、ごめんね

 私‥‥その発達が悪くて‥‥

 その胸とか‥‥ないから」



彩や弥生ちゃん

高城さんのように

女性らしさには

かけた体型だけに

謝ることしか出来ない



『ハハッ‥‥知ってる?

 日和にしか欲情しないから‥俺。』



「んっ‥隼人く‥‥あ」



後ろから抱きしめていた両手が

私の胸を包み込む



『伝わってない?

 ‥‥もう一度する?』



「だ‥‥大丈夫!!

 んっ‥隼人君!!」



綺麗な指が

服の中でまた動き始めたので

私は咄嗟にそこから抜け出して

お風呂場に逃げた。



「はあ‥‥」


私のためにお湯を

張ってくれたのだろうか



温かいお湯につかり

体を抱きしめる



『日和にしか欲情しないから‥‥』



隼人君の言葉を思い出すと

体がどんどん熱くなってしまう



昨日までと同じ私の体なのに

どこか違う私のようで

恥ずかしくなる



でも

やっぱり好きな人との

時間はとても満たされて

幸せだなって思えたから



うまく答えられたか

自信は全くないけれど

今日勇気を出して

返事ができた事が

良かった‥‥



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