2-21 #新聞部、号外②

 折鶴 「天ノ川さん、聞きましたか!?」


 天ノ川「……はい」


 折鶴 「こんな可愛い女の子がここまで言ってるんですよ。本当に友達のままでいいんですか!?」


 天ノ川「良く、ないです」


 折鶴 「それは、つまり!?」


 天ノ川「実は今度、とある女の子と二人で出かける予定があるんです」


 折鶴 「はいっ!」


 天ノ川「……その時に、今度は僕の方から告白しようかなと考えてます」


 折鶴 「素晴らしいっ!(拍手) 話は変わって村咲さん! 天ノ川さんと二人で出かける予定はありますか!?」


 村咲「(感激した様子で口を覆ってしまい、言葉が出てこない)」


 折鶴「あああああーーーーっ!!!」



(……は?)


 誘われていない。二人で出かける予定なんて、立ててない。


 それどころか一ヶ月近く、顔も合わせていない。毎日ウザイくらい付きまとって来たくせに。


 どうして会いに来ないのか。

 いつから会いに来なかったのか。


 そんなことを考えていると、同じように新聞を囲むギャラリーの声が耳に入る。


「後輩ちゃん、めっちゃ純愛じゃん。胸キュン~!」

「ていうか天ノ川、なんで中学生助けたの隠してたんだ?」

「鬼弦会長を立てたいから黙ってただけじゃね?」

「そういえば警察の表彰とかあったな。会長ってどうやってチンピラ追っ払ったんだっけ?」

「確か警察呼んだ振りして、追っ払ったとか」

「そんだけ? 天ノ川に比べたらショボくね?」

「……バカ、前見ろ」


 桐子がジロリと振り向くと、生徒たちは青い顔で去っていく。そして掲示板の前には、桐子だけがぽつんと残される。


(……天ノ川くんは、この一年生のことが好きなの?)


 そんなことが、本当に起こりえるのだろうか。何度フラれてもめげずに、自分の側を離れなかった遊星が。


 自分のおかげで成長も出来たのに。能力を評価して右腕の席だって用意したのに。


 これから立派になるまで、見守ってやろうと思ったのに。自分が育ててきた遊星が、なにも知らない一年女子に奪われる……?


 そんなのありえない。

 ありえないし、許せない。


 それになんだ、この記事は。

 こんなのデタラメに決まっている。


 目の前の新聞を引き剥がし、新聞部の部室へ直行する。


「ちょっと! なんなのよ、この低俗な記事は!」


 扉を乱暴に開け放ち、怒鳴りつける。突然の来訪者に、昼食をとっていた折鶴も呆気にとられた表情だ。


 だが桐子の手に持っているのが、自分の書いた新聞であることに気付くと不快感をあらわにする。


「低俗、かどうかは読み手の判断に任せますが……勝手に剥がさないでもらえます?」

「なに言ってんの。私はこんな記事の掲載許可、出してないわ!」

「必要ないと判断しました。今回の記事では鬼弦会長に起きたことの訂正は一切ありません。追加のエピソードが増えただけです」

「だとしても私の名前を出すなら、事前に聞きに来なさいよ!」

「必要でしたか? これまでの新聞でもたくさん会長の名前は出してきたんですけど」

「うるさいっ! いいからこの記事は公開中止よ、いますぐすべて破棄しなさい!」

「拒否します」

「は?」


 激昂する桐子とは対照に、折鶴は淡々と答える。

 ……それと同時。折鶴は机の上に転がっていた、ICレコーダーのスイッチをさりげなくオンにした。


「この記事は天ノ川と村咲氏の両名に許可を得ています。また新聞部顧問も了承している以上、公開する権利がある」

「私は許可しないって言ってるでしょう!?」

「一個人に発行物を止める権利はありません」

「一個人ですって? 私は生徒会長よ、全生徒の中で一番偉いのよ!」

「偉いかどうかは別として。新聞の発行にはなんの権利を持たない、一個人じゃないですか」


 まるで心を乱さない折鶴の態度に、桐子はどんどんヒートアップしていく。


「そんな生意気な口を聞いて、ただで済むと思ってるの?」

「さあ、どうなるんです?」

「職員会議の議題にして、新聞部を活動停止に追い込んでやるからっ!」

「それは困りますね、でもそんなこと出来ますか?」

「出来るに決まってるでしょ、私は生徒会長なのよ!」

「生徒会長はその時の気分ひとつで、部活動を停止に追い込めるんですか?」

「当たり前でしょ。生徒会長は全生徒の人望を集めて選ばれたのよ、私の決断に逆らえるわけないじゃない」

「それは恐ろしい話ですね。その話が事実なら後で公開こうかいしてよろしいでしょうか?」

「好きにしなさい。あとで後悔こうかいしたって手遅れなんだから」

「わかりました。いま聞いたお話は、しっかりと公開こうかいしますね」


 なぜか嬉しそうな顔の部長を尻目に、桐子は新聞部を後にする。


(これで新聞部は終わりね)


 桐子はそれからすべての掲示板を周り、張り出されていた新聞をすべて回収した。


 暴走は止まらない。

 止めてくれる人はもういない。


 自分で自分の首を絞めていることにも、気付かずに……



―――――


 会長からコウカイの許可をもらった録音データが残りました……

 2章もそろそろ後半戦です!

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