1-16 後輩ちゃんの嫉妬?

「ま、待って、村咲さんっ!」


 陽花を追って猛ダッシュ。すぐに教室を抜け出した甲斐かいもあり、昇降口を出てすぐのところで追いついた。


「……むう、なんで追いかけてきたんですか」


 陽花は不満そうな表情で、遊星にジト目を向ける。


「なんでって、村咲さんとの約束が、先だったから……って、謝るのが先だよね、本当にごめんっ!」


 吐く息に合わせて、なんとか謝罪の言葉を絞り出す。

 陽花はしばらく納得のいかない顔をしていたが、ひとつ溜息をついてから困ったように笑った。


「もう。こんなに汗かいたら、風邪引いちゃいますよ?」

「風邪くらいならいいよ。村咲さんに許してもらえないほうが、よっぽどしんどい」

「ダメです。……ひざ、曲げてもらえますか?」


 言われた通りにかがむと、陽花がハンカチで額の汗を拭ってくれた。


「あぁ、助かるー」

「先輩、手のかかる子供みたいです」


 陽花が笑顔を見せてくれたので、大人しくされるがままでいる。


「はい。これで大丈夫です」

「ありがとう。ハンカチ、洗濯して返すよ」

「いえ、気にしないでください。自分で洗いますので」

「そうはいっても男の汗だし、匂うと思うよ?」


 ハンカチを受け取ろうと手を差し出したが、なぜかそっぽを向いて譲らない。

 

「……いいったら、いいんです」

「そ、そうなの?」


 そこまで言われたら押す理由もない。陽花はハンカチを大事そうにバッグの奥へ仕舞い、二人はどちらからともなく歩き始めた。


「……」

「……」


 だが、会話が続かない。

 陽花は無表情のまま足元を見つめ、黙々と歩いている。


 これでは一緒に帰ってる意味がない。思えば謝罪も中途半端になったまま。気になることを放置していては、話したいことだって話せない。


「……ごめんね、約束してたのに遅くなっちゃって」

「大丈夫ですよ。先輩には先輩のお付き合いがあるって、わかってますので」

「それでも、村咲さんとの約束が先だったんだから」


 陽花から返事はない。

 それが怒っているのか、そうでないのかわからず、焦りを覚える。


 だが陽花も気掛かりではあったのだろう。あの場に立ち会って、まず最初に思うであろう疑問をぼそりと口にした。


「一緒にいた綺麗な方は、どなたですか……?」


 そうだ、そこから説明しなければ。

 自分から切り出さなければ、まるで隠そうとしてるようにも見えてしまう。


 やましいことはなにもない。

 それなら説明責任を果たして、陽花の誤解を解かなければ!


「さっきの人は、副会長の藤美ノ梨さん」

「とても、仲が良さそうでしたね」

「仲はいいけど……生徒会も辞めたし、気にしないで!」

「手、握り合ってましたよね?」

「握り合って、はないかな。一方的に握られていたというか」

「頭、撫でられてましたよね??」

「ええと、スキンシップの多い人なもんで……」

「告白されてましたよね???」


 ……さっきから墓穴ぼけつばかり掘ってる気がするのはなぜだろう?

 話せば話すほど追い詰められていくような気がしてくる。


(でも村咲さんに納得してもらえるまでは終われない。しっかりと説明して信頼を取り戻さないと……!)

 

 遊星がそう意気込んで陽花の方を向くと……なぜかこちらを見てクスクスと笑っていた。


「ごめんなさい、すこしイジワルなことを言ってしまいました」

「え、ええと?」

「先輩の焦っている顔、面白かったのでいじめてみたくなったんです」

「……勘弁してよ」


 へなへなと大きく溜息をついてみせると、陽花はまた面白そうに笑う。


「私、こんなことで怒ったりなんてしませんよ。めんどくさい女の子だと、思われたくないですし」

「……別にめんどくさいなんて思わないよ?」

「でも、イヤじゃないですか。せっかく美人の先輩とお話してるのに、どうでもいい後輩が横槍いれてきたら」

「どうでもいい後輩って……村咲さん、自分のこと言ってるの?」

「他に誰がいるんですか。先輩にとって私なんか……」

「村咲さん」


 意図せず強い口調になってしまい、陽花がぴくりと肩を震わせる。


「僕は君のこと、どうでもいい後輩だなんて思ってないよ?」

「でも私なんか、先輩にとって知り合ったばかりの……」

「村咲さん」


 歩幅を早めて、陽花の前に回り込む。


「私なんか、って言わないで」


 だが陽花は顔をうつむかせたまま、目を合わせてくれようとはしなかった。


(村咲さんは言葉どおり、怒ってはいなかったのかもしれない。でも……)


 不安には、なったはずだ。


 同じ人を好きなライバルが現れた。しかも相手は最強の外見を兼ね備えていて、一年も同じ時間を過ごしている。比較なんてしてしまえば、自信なんか持てるはずがない。


 陽花は、遊星の前では自信が持てない。

 嫌われることを恐れてしまい、愛され上手の令嬢モードになることもできない。


 そして自信の持てない自分を、陽花自身が一番なんとかしたいと思っている。


 だったら遊星にできることは――ひとつだけだった。


「村咲さんっ!」

「は、はいっ!?」


 遊星は陽花の両肩に手を乗せ、正面から向き合った。


「突然ですがっ、クイズです!」

「…………はい?」



―――――――


 正解はCMの後!

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