第一部 プロローグ

第1話 どやら神界ではヤバいイベントが進行中のようです

 金属の床をブーツでカツカツと歩いていると、自分の足音がやけに耳に響いた。

  その音が張り詰めた空気と反響する度に、私――ブリュンヒルデは嫌な予感を覚えていく。

 これは悪い兆候よ。どう足掻いても結果は変わらないのに、悩むなんて……どこまでも不毛だもの。

 私には決定権も発言権もない。ただ付き従うのみ。この主に。

 視線の先には大柄の老人が歩いていた。老人といっても見た目よりずっと若々しい。その印象は、鍛えた体か、切り揃えられた顎ひげがダンディだから、それとも白髪のオールバックがワイルドな感じだからか――


 いえ、違うわ。そもそもこの人に年齢という概念はないし。

 なぜなら彼は、オーディン様と言って、この神界を統べる主神の一人なのだから。

 人知を超えた多次元宇宙に位置するこの場所は、いくつもの区画に別れた楽園よ。通路こそ金属に囲まれたSFチックなものだけど、この先は円形闘技場を模した講堂で、当然建築様式も古い。最上階のフロアに至っては、神々が住んでいるだけあってギリシャやローマ風の神殿がある保養エリアだって備えられている。

 けれどそこは神々。伝統的に古めかしくしているだけで彼らが取り決める事柄は馬鹿にできるものではなかった。


「オーディン様、どうにかならないのでしょうか? 周期的に決まっているとは言ってもこれではあまりにも……」

「お前は慈悲深いな。そんなに人間が心配か?」

「はい……」

「ではまだ時間もあるし、少し話そうか」


 足を止め、オーディン様が振り向いてくる。左目に黒い眼帯をつけているけど、右目は優しく緩んでいた。

 見た目はマフィアのボスみたいな厳ついものでも、オーディン様は悪戯に人間を苦しめるような神様ではないことを私は知っている。だから大きな胸に両手を添え、


「災害は愚かな人類への罰として執行されるものだとは分かります」


 瞳を細める。憐れむように。悲しむように。そして信じられないとばかりに小さく首を振った。


「ですが、今回の災害は規模が大きすぎます。千年に一度の災害だとしても……どうかお願いします。彼ら人間にチャンスを……」


 懇願する。心から、誠意を込めてオーディン様の瞳を見つめる。


「オーディン様、どうか……」

「くふっ」

「え……?」


 なぜか笑われた。どうして? 私、何かおかしなことでも言った?

 オーディン様がひらひらと手を振ってくる。


「いや、すまない。あまりにも真剣だったものだから。それにお前にお願いされずとも、もう手は打っているぞ?」


 余計な心配だったらしい。

 最悪な事態を回避するその手って一体……。


「あの、それって――」

「いたいた。ブリュンヒルデさん、こちらへ。間もなくイベントが始まりますので」


 折れた通路の先から黒いブレザー姿の若い女性が出てきたかと思うと、私に手振りで知らせてくる。

 イベント企画部の戦乙女ワルキューレの子じゃない。何の用かしら?


 彼女の所属は、神々を退屈させないために色々なイベントを用意する部署だ。昔はいつかくる終末戦争ラグナロクに備えるために死者の魂を導いて兵士にしたりしていたけど、今じゃこういう娯楽要員になっている戦乙女も少なくない。


 でも何で私を呼んでるの?


 おかしい。私は不審に思って小さく眉をひそめた。


「何かの間違いでは? 私は執行部、オーディン様の側近で秘書。イベント事には無関係ですよ」

「そのオーディン様からの命令です。あなたは、本日行うイベント『千年に一度の天罰! ダーツでダークな世の中を』の司会に抜擢されました」

「え……ちょっと! どういうことですかオーディン様」

「聞いた通りだ。じゃあ、わたしは観覧席で見ているからあとは頼んだぞ」


 そして最後に「災厄を回避するのはお前にかかっているからなー」と言いながら通路を歩んでいく。


「聞いてないわよ、こんなこと……」

「さぁこちらへ。そのままの格好でいいですから早く」

「え、ええ」


 こうなったら行くしかないわ。私は企画部の子に急かされるまま講堂のステージに向かったのだった。


(お願い)

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(お知らせ)

 1から3話までが神界パート、4から9話までが現代パートです。

 10話(二章)から異世界パートですが、現代パートと繋がる内容になっています。

 本作は現代パートも重要で、現代から異世界へ行くまでの過程をコミカルに書いています。


 二章(10話から22話)がで異世界導入編です。特に15話を読めば、異世界の世界観が、入門程度に分かると思います。


 一話あたり、だいたい1500文字から多くても3000文字程度で短めです。サクサク読んでもらえると思うので、よろしくお願いします。


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