赤ずきんを大阪弁で読んでみよう

 昔、あるところに小さい可愛い女の子がおった。みんなえらいその子を可愛がってたけど、その度合いはおばあちゃんが一番いっちゃんやった。

 あるとき、おばあちゃんは赤い天鵞絨ビロードで女の子に頭巾をこしらえた。それが良う似おうて、それ以来、女の子は「赤ずきん」と呼ばれるようになった。


 ある日、赤ずきんのオカンが言うた。


「さっ、赤ずきん、ちょっとい」

「はーい!」

「ここにあるお菓子と葡萄酒をおばあちゃんのとこに持っていってほしいねん。おばあちゃんは病気で弱ってるけど、これをあげたらきっと元気になる」

「うん! わかった!」

「あと、知らん場所に行ったらアカンで。迷ったらえらいこっちゃ」

「うん! わかった!」

「あと、おばあちゃんにうたらちゃんと挨拶しいや。無言はアカンで」

「うん! わかった!」

「あと、おば……」

「行ってきまーす!」


 天然気質の赤ずきんはオカンの話を最後まで聞くことなく家を出てしもうた。


「……人の話は最後まで聞け!」

 

 さて、おばあちゃんの家は村から半道離れた森の中にあんねんけど、赤ずきんが森の中に入りかけると、狼がひょっこり出てきよった。

 せやけど、赤ずきんは狼がどんなけだものか知らんかったから特に驚きもせえへんかった。怖いもの知らずってやつやな。


「赤ずきん。こんにちは」


 なんで名前知ってるん? と赤ずきんは言いかけてやめた。まずは挨拶や。


「こんにちは!」

「こんな早くにどこ行くんや?」

「おばあちゃんのとこ行くねん」

「その前掛けの下に持ってるんは?」

「お菓子と葡萄酒。おばあちゃん、病気で弱ってんねん。やからな、これ持って行ってあげよう思うて、昨日、うちで焼いてん」

「そらえらいなぁ。で、おばあちゃんの家はどこ?」

「えーと、確か……」


 狼の質問に赤ずきんは懇切丁寧に答えてしもうた。ええ子やけどこれはアカン。

 こいつはカモや、と狼は悪知恵を働かせて赤ずきんと並んで歩きながら話を進めることにした。喋る狼と女の子が並んで歩いてるとかシュールすぎやろ。


「赤ずきん、そこらへんに咲いとる花見てみ。ほら、鳥があんなええ声で歌をうとうてんのにあんたは聞いてへんみたいやな」


 そう言われて赤ずきんは空を見上げた。すると、太陽の光が木と木の茂った中から漏れて綺麗な花がいっぱいに咲いとるのが目に入った。


「せや! おばあちゃんに花束あげたらきっと喜ぶわ。まだ朝早いし大丈夫や」


 赤ずきんはそう言うて森の奥に誘われるように進んでいった。やってもうた。

 この隙を狙って狼はおばあちゃんの家へ駆けて行った。そして戸を何度か叩いた。


「誰でっか?」

「赤ずきんや。お菓子と葡萄酒をお見舞いに持って来たんよ。開けてくれへん?」

「そんなジジ臭い声ちゃうかった気ぃするけど……ごめんやけど取っ手を押してくれへんか? 体が弱っててよう押されへんわ」


 狼が取っ手を押すと戸はあっさりと開いた。そして何も言わずにいきなりおばあちゃんの寝室に行って、ひと口でおばあちゃんを飲み込んだ。それからおばあちゃんの変装をしてカーテンを引いておいた。

 赤ずきんが家に着くと、戸が開いたままになっとって赤ずきんは変に思うた。


「なんかあったんかな……」


 不安に思いながらも赤ずきんは「おはようございます」と呼んでみた。せやけど返事がない。

 そこで、赤ずきんは寝室に向かってカーテンを開けてみた。そしたらそこにおばあちゃん、もとい狼が横になっとった。


「うわっ、おばあちゃん、耳めっちゃでっかいやん」

「あんたの声が良く聞こえるようにしたんよ」

「目ぇもでっか」

「あんたのおるんが良く見えるようにしたんよ」

「手ぇもでかい」

「あんたの手ぇをがっしり掴めるようにしたんよ」

「でも、おばあちゃん、口と声がめっちゃ気色悪きしょい」

「あんたは口が悪いみたいやね」


 狼はいきなり寝床から飛び出して赤ずきんをひと口で飲み込んだ。

 腹を膨らませた狼は、また寝床にもぐっていびきを立てて寝た。ちょうどそのとき、狩人が通りかかってふと立ち止まった。

 

「いびきにしては声量が人間離れしとんな。どないなっとんねん」


 狩人はおそるおそる中に入って寝床に行ってみると、狼が横になってるのを見つけた。


「なんで狼がこんなところにおんねや。……それより、この腹さすがにでかすぎちゃうか」


 もしかしたら中に人が入っとるんちゃうか、と狩人は鉄砲を使うのは止めて鋏を出した。そして、狼の腹を切ると赤いずきんがわずかに見えた。もう少し鋏を入れると女の子が飛び出してきた。


「びっくりしたぁ。ああっ! もう臭い!」


 やがて、おばあちゃんも自力で出てきた。赤ずきんはおっきいごろ石をそれはぎょうさん運んできて狼の腹ん中に一杯に入れたった。

 狼が目を覚ますと、石の重さで身動きがとれへん。狩人は狼の毛皮を剥いで持って帰って行った。

 

 おばあちゃんは赤ずきんの持ってきたお菓子を食べて葡萄酒も飲んだ。そしたらすっかり元気を取り戻したとさ。


「ええか、赤ずきん、人の言うことは最後まで聞かなアカンで」

「……はい」

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