走れメロスを大阪弁で読んでみよう

 メロスはめっちゃキレた。必ず、邪智暴虐の王を除かなあかんと決意した。メロスは村の牧人で、笛を吹いて羊と遊んで暮らしとった。メロスには16になる妹がおって結婚式を控えてたんや。そんで、必要なもんを買いにシラクスっちゅう町に来たんやけど、町の様子がおかしいというか、みんな暗いねんな。


 どないしたんや思うて町の人に話聞いたら、ディオニスって王様かなんか知らんけど、人をようけ殺しとるらしいわ。それでメロスはキレたわけや。


「呆れた奴やな。しばいたるわ」


 メロスはなんの考えもなしに城に入って逆に捕まえられてもうた。アホやろ。そのあと、王の目の前に引き出された。

 当然、死刑を言い渡されるんやけど、「妹の結婚式があるから三日だけ待ってくれ」と言うた。せやけど王もすぐには信じひんわな。


「とんでもない嘘言いよるのぉ。逃がした小鳥が帰って来るゆうんか」

「そうや。帰って来る。セリヌンティウスっていう友達がおんねんけど、そいつを人質に置いていく」


 王はどうせ帰ってんやろ。けど、三日後にそいつを殺すのもええかと思って了承した。深夜、メロスは城に召されたセリヌンティウスに事情を話して、セリヌンティウスは無言で頷いた。

 

 メロスは急いで村に帰って明日妹の結婚式を行うことにした。婿の牧人はいきなりすぎて困惑したけど、メロスもメロスでせなあかんことがある。結局、妹の結婚式は無事に行われた。


 三日目の朝、メロスは城に向かって走り出した。でも、比較的余裕があったからぼちぼち行こかー、みたいなノリで歩いとったら、前の日の大雨で川が氾濫したせいで橋が壊れてしもうてた。もう泳ぐしかないわな。

 メロスはなんとか泳ぎ切ってほっとしたのも束の間、目の前に山賊が現れよった。


「待て!」

「何すんねん! 俺は城に行かなあかんねん。放せボケ!」

「誰がボケや! しばくぞ!」


 そんなこんなでメロスは苦戦しながらも山賊を倒した。せやけど、疲労が蓄積して立ち上がることすらできひん。

 もうあかん。無理や。許してくれ……いや、堪忍してくれセリヌンティウス。メロスはもう諦めかけた。そんとき、水の流れる音が聞こえた。何の音や?

 よー耳すませてそこを見たら岩から清水が流れとった。メロスは水を飲んで疲労を回復させ、再び走り出した。

 

「ああ。メロスさん」

「誰や」

「フィロストラトスっちゅうもんです。セリヌンティウスの弟子です。もうあきません。走るのはやめてください。今はご自分の命が大事です。間に合いません」

「まだや! まだ陽は沈まへん。間に合う間に合わへんの問題ちゃうねん。しょうもないこと言うてる暇があったらついて来い! フィロストラトス」

「ああ。あんたは気が狂ったか。そないこと言うんやったら走ったらええわ。ひょっとしたら間に合うかもしれへん」


 メロスは死力を尽くして走った。そして疾風のごとく刑場に到着した。間にうた。


「セリヌンティウス。俺を殴れ。俺は一度悪い夢を見た。お前がもし俺を殴らへんかったら俺はお前を抱く資格がない。さあ、殴れ」


 セリヌンティウスはメロスの右頬を思い切り殴った。


「メロス。俺を殴れ。俺はこの三日間、一度だけお前を疑った。生まれて初めてお前を疑った。お前が俺を殴ってこうへんかったら、俺はお前を抱かれへん」


 メロスはセリヌンティウスの頬を殴り、抱き合った。王は二人の様子をじーっと見つめとった。ほんで、近づいてうた。


「あんたらの望みは叶ったで。あんたらはわしの心に勝ったんや。わしも仲間に入れてくれへんか」


 群衆は歓喜に包まれた。ふと、ひとりの女の子がメロスにマントを捧げた。


「メロス。お前まっぱだかやないか。はようそのマント着いな。この嬢ちゃんは、メロスの裸をみんなに見られるんが口惜しいんや」


 勇者はめっちゃ赤面した。


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