第四章

第41話 ユウリの仕事


こんにちは!  碧心☆あおしん☆ です。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

初めての方もありがとうございます。


別々の世界に住むナギとユウリが、お互いの世界を入れ替わり、色々なこと経験し、成長していくお話です。

もしちょっとでも気になりましたら、第二章までのあらすじが書いてある25話にありますので、もしよろしければ、そちらを見ていただいてから第三章を読んでいただければすぐ追いつきます~w


――――――――――――――――――――――



 ユウリは、魔法の世界にきて4週間が過ぎた。


 あまりにも仕事の多さに毎日こなすのに必死で、悲しむ暇もないほどだ。そのため、いつの間にか悲しさ、寂しさという感情はなくなり、今はやりがいさえ感じ始めていた。


 そしていつものように書類に目を通す。


「だいぶん用水路の工事は進んでいる感じですか?」

「はい。ユウリ様が提案された資料を元に用水路を配置し、先週から着工し始めておりまして、今のところ滞りもなく進んでおります」


 そう話すのは、行政官のマクナスだ。まだ20代前半ではあるが、頭の回転が速く、敏速に対応してくれるユウリにとって右腕的な存在の男性だ。


「ただやはり財源的に厳しく……」

「わかりました。会計官を読んでください」


 すると1人の壮年の眼鏡をかけた白髪まじりの男性オネストがやって来た。


「オネストさん、忙しいところすみません」

「いえ、大丈夫です殿下」

「あはは……殿下ねえ……」


 殿下と言われ、まだ慣れないユウリだ。ちらっと横を見れば、ディークにギロっと睨まれた。ちゃんと受け入れろと言うことだ。


 ――はいはい。わかってます。


 心の中で返事をしつつ、ユウリはオネストへと笑顔を見せる。


「オネストさん、すみませんがまた用水路工事への資金の算出と追加資金のお願いしたく……」


 そこでオネストの顔色を見る。元々表情には乏しいオネストだが、片眉が一瞬ぴくっと動いたのをユウリは見落とさなかった。


「やっぱり無理でしょうか……」


 最初の予算よりもかなりオーバーしている。それを分かった上の追加資金だ。


「もし無理なら僕の個人の預金から出して――」

「わかりました。どうにかします」

「だ、大丈夫ですか?」


 ユウリも一応この領地の財政は把握している。元々北の僻地ということもあり、やせた土地が多く目立った産業もない。前の領主は何もせずただ高い税を取り私服を肥やしていたどうしようもないクズだったとディークから聞いた。

 ナギになってからはマシになったが、まだまだインフラは整備されておらず、足りない物はこの土地に来る時にもらった膨大な金額のナギのポケットマネーから出していた。

 だがそんなことをしていても根本的な解決にならず、いつかは底をつく。そこでディークに頼み、信頼出来る人材を集めてもらった。特に行政官は若い年齢限定で探した。理由は歳がいっている者ではなかなか今までの概念を崩すことが出来ないからだ。


 ユウリが進めているインフラ改革は、元いた世界の考えのものだ。まだこの時代はユウリがいた時代よりもかなり100年ほど遅れている感じだ。そのような時代の者に新しい取り組みを提案しても門前払いされるのが目に見えている。ならば柔軟性がある若者を使ったほうがいいと思ったのだ。そして選出された1人がマクナスだった。


 彼は選ばれただけあり、ユウリの提案をすぐに受け入れ、そればかりかユウリの提案よりも更に上の提案をしてきたのだ。さすが回転が早く頭がいいマクナスだ。ユウリとマクナス、そして他数名の者達とどうインフラ整備をしていくのかを毎日のように話しあった。それがユウリにとってとても楽しかった。自分がしたかったことはこれだと言いきれた。だがどれだけいい案を出しても、それを現実にするには金が必要だった。頭がいいから金銭関係も出来るかと言えば、無理だ。やはりこればかりは経験者が必要不可欠にだった。

 そこでユウリは城の会計係とは別に、銀行員や学校の教授などで専門分野の者を集め会計関係を任した。その長がオネストだ。


「どうにかなりましょう」

「もし無理なら僕の」

「殿下、それは最後の切り札として取っておきましょう」

「オネストさん……」

「まあ少し城の者には不自由な生活をさせてしまうかもしれませんが、まだどうにか出来る範囲です」

「どうにかと言うと?」


 そう質問したのはディークだ。その意図を読み取ったオネストはディークに応える。


「この領地の南西にある土地を隣接国のベルクに売るのです」

「あの土地をか? あそこはミミクラの栽培地ではないか!」


 ミミクラとは、綺麗な水でしか生育しない果物だ。今この領地ツイランにとって数少ない生産物なのだ。


「唯一安定している産物ではないか! そんな大事な場所を売るとは!」


 ディークが声を荒げる。だがオネストは冷静だ。


「だから売るのです」


 するとマクナスが「そうか!」と声を上げ賛同する。


「それは良い考えですね」

「マクナス?」


 ディークは怪訝な顔を見せる。


「あの土地は今はとても安定しています。それは隣国ベルクは欲しているはずです」

「確かに今までそのような話はあったが……」


 ベルクは何度もあの土地を売れと言ってきていた。


「だから今なら高く買ってもらうのです。そうすれば用水路工事の資金を算出できますし、反対におつりがでる」

「だがそんなことをしたら、ツイランの財政はもっと厳しいものになるぞ」

「いいえ大丈夫です」

「なんだって?」

「もし用水路が完成すれば、綺麗な水がツイラン全土に行き渡ります。そうなれば、もっと多くの良質なミミクラ栽培ができます」

「!」

「今工事をしている用水路は、最北端にあるパルマ山からの水を引く予定です。あの山の水は鉱水です。でしたらミミクラにとって最適な水と言えましょう。今売ろうとしているミミクラとは比にならないほどの甘くて良質なミミクラが出来るはずです」

「なるほど。後々考えればプラスということか」


 そこでディークも理解する。


「はい。ですので、売るなら今なのです。どうでしょう殿下」


 オネストとマクナスがユウリへ返答を求めるように視線をユウリに向ける。


「それで行きましょう」


 ユウリは笑顔で応えた。




 そしてその夜、自室でゆったりしていたユウリは時計を見る。見れば夜の10時だ。ソファーに座り、机に置かれているガラス玉の置物のボタンを押す。


「ナギ? いる?」


 するとガラス玉から声が聞こえてきた。


『おう。今帰ったところだ』



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