第31話 サンマルクカフェ

 買い物も終わった。後は帰るのみ。しかーし、帰りの新幹線は午後6時16分発なのだ。そして今は4時過ぎ。2時間もある。かと言って、夕飯には早いし、もう歩き回るのは嫌だ。なぜその時間の新幹線にしたかと言うと、夕飯を買って、新幹線の中で食べながら帰ろうという算段だったからである。指定席券を買ってあるので、前倒しにも出来ない。まあ、席が空いていれば振り替えてくれるかもしれないが、そこまでして前倒ししなくてもいいだろう。

 というわけで、とりあえず駅構内にある店に入って、お茶でもしようと考えた。観光案内所の近く、路面電車の踏切の向こう側に、マクドナルドやサンマルクカフェがあった。空いていて入りやすそうな、サンマルクカフェに入った。

 ここは、カウンターで注文をし、お金を払って商品を受け取り、好きな席へ行って飲むというシステムだ。なので、まずはカウンターへ行く。メニューを見る前に、

「カフェインレスコーヒーはありますか?」

と、一応聞いてみた。そうしたら、

「当店では扱っておりません。」

と、ぴしゃりと言われた。ちょっと、「帰れ」と言われたくらいに。「そんなもの、うちにはないから、欲しいならよそへ行ってくれ」という感じ?若い男性の店員さんだったのだが。

 こういうのはよくある事で、カフェインレスコーヒーがあるかどうかを聞くと、ぴしゃりと言われる事が多い。申し訳なさそうに言われる事もあるが、大体はぴしゃり。でも、たまーに扱っているお店もあるので、一応聞いてみるのだ。そして、聞かれる事が増えていけば、お店の方でも扱おうかと検討してもらえるのではないかと期待している。私一人の力ではあまりにも微々たるものだが、それでも頑張っているのだ。以前、長崎のフルーツサンドが有名なお店で、一応聞いてみたらあったし、東京の新美術館のカフェでもあった。まだコーヒー専門店では聞いてみた事がない。もし無いと言われたら、注文出来る物がないから。だからコーヒー専門店には入りにくいのだ。

 さて、このサンマルクカフェでもカフェインレスコーヒーは無いという事なので、改めてメニューを見た。温かい物が良かったので、コーヒーから下、ホットメニューをずっと見て行って、目に留まった物を注文した。

「じゃあ、ゆず茶で。」

と。すると、出て来たのはカップになみなみと注がれた、透明感のある黄色い液体。底にマーマレードと分かる物が沈んでいる。席へ運ぶ時、ソーサーの中に少しこぼしてしまった。あまりになみなみと、だったから。

 適当なテーブルにカップ&ソーサーを置き、荷物を向かいの椅子に置いたりなんだりして、やっと座る。こういう所、スマートに出来ない私。まごまごしてしまう。そしてやっと、ゆず茶を一口飲む。甘い。甘酸っぱい?いや、甘い。柑橘系の香りがして、疲れが取れそうだ。ビタミンCも摂れる。予想通り、おととい兼六園の茶屋で飲んだ柚子ジュースの、温かい版だった。こういう、柚子ジャムが底に沈んでいる飲み物は、北陸ではメジャーなのだろう。他の地域では、どこの店にもあるというメニューではない。少なくともメインメニューには無いと思う。大阪では「冷やし飴」という名前で生姜湯の冷たい版がメジャーだったりするが、北陸では柚子か。もしかしたら、他の地方でも、柚子の産地ではメジャーなものなのかもしれない。

 ソーサーにゆず茶をこぼしてしまったので、カップを持ち上げて飲む度に、ポタッと垂れる。それがちょっと玉に瑕。ソーサーの外にこぼさないように、注意が必要だった。そして、時間はたっぷりあるというのに、すぐにほとんど飲んでしまった。甘い飲み物はやっぱり美味しくて、進んでしまうのだ。ほとんど水分がなくなってしまったが、底に残った柚子ジャムをスプーンですくって食べると、これまた美味い。そうだ、これを食べながら、SNSに投稿しよう。

 というわけで、時々柚子ジャムを食べながら、TwitterやFacebook、Instagramに旅の記事を投稿していった。Twitterでは二つのアカウントにそれぞれ投稿した。写真を選び、コメントも付けて。そんな事をやっていると、あっと言う間に時間が過ぎる。1時間はあっという間に過ぎた。

 それにしても、甘い汁がこぼれているので、虫ちゃんが寄ってくる。最初は手で払いの除けていたのだが、ほぼ食べ終わった頃には、ソーサーにこぼれている甘い汁の海にはまってしまった虫ちゃんが。もう、放っておいた。この店はドアがなく、外と繋がっているのだ。夏だし、飛ぶ虫がいるのは仕方がない。

 そして、5時半ちょっと前にカフェを出た。

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