第14話:ロンリーガール(MJ FOUND A WEAPON)

「毎度ありぃ」


 なじみの客を玄関まで送ったムニャオ親方は、近付いてくる轟音に耳を澄ます。


 間違いない、あれは〝ドライバー〟のGTRの排気音だ。しかしいつものスムースさからは程遠い、荒いエンジン音が混ざる。店頭に立ったまま、その変調を訝しく思っている親方の前にGTRが荒々しく停車する。


「〝ドライバー〟、もっと丁寧に乗らねえか! 壊れても直して……? 誰だ、あんた?」


 親方が戸惑うのも無理はない。GTRの運転席から降りてきたのは、『Baby Kiss』とプリントされたTシャツにズタボロの革のパンツ、その上にズタズタの革ジャンを羽織った銀髪のダークエルフだったからだ。


「よ・よう、親方! お初におめにかかるね! ア・アタイはジェーン・ランダルの妹でメリージェーン・ランダルってんだ!  今後とも宜しくな!」


 はすっ葉だが、人懐こそうに言い放つ突然の訪問者にドギモを抜かれる親方の前で、その女はおかしな行動をとり始めた。


「ちょっと待て、メリー! 初対面なのに、その挨拶は無いだろう!」


 いきなり自分で自分をたしなめたかと思ったら、


「なに言ってるんですか、ジェーンさん! これからカチコミなんですよ! これぐらい威勢がよく無くてどうするんですか!」


と、まるで別人と話しているように、また自分をたしなめている。


 親方が『一人ボケツッコミ? 二重人格か?』と考えあぐねていると、再びそのダークエルフが吠えた。


「悪いけどよぅ、〝ドライバー〟がナイラグル・ニイガタ州の知事に捕まっちまったんだ。ちょいと助けに行くからなんか強力な銃、くれねえ?」

「な、何だと」


 『〝ドライバー〟が捕まってしまった』というのも驚きだが、この女は突拍子もないことを平気で言い出す。


「なあに、支払いは〝ドライバー〟を助けて来たら、きっちり支払わせてやるからよっ!」

「お、おい、あんた……」


 店内に入った女はムニャオ親方に構いもせず、銃架に架けられた銃やアモ・ボックス=弾箱をあさり始めた。


「警察署に殴り込みっていうと……ええと、AR―18にSPAS12ショットガン……いや、待て待て? それじゃあオークやオーガ達には効かないだろ? ブローニングのBARとか? 親方、ドラムマガジンねえ? おっ、こいつは凄い! 米軍が採用した、.338ノルママグナムを使うLWMMG(Light・Weight・Midium・Machine Gun)じゃねえか、すげえ! ベルト給弾だから、弾丸は1,000発ぐらいか? 親方、アネキの銃の修理は終わってんだろ? そう、コレコレ。これがないと〝ランダル〟っぽく無いな! 親方、こいつの弾くれねえ?」

「ちょ、ちょっと待ってください、ジェーンさん? それ、単に自分の趣味でしょう?」

「良いではないか! 『毒を食らわば皿までも』だ!」


 とメアーズレッグを専用のホルスターに収めながら、また一人ボケツッコミが始まる。親方はその女の厚かましさを訝しく思いつつも、奥の金庫から米軍のスチール製の弾薬箱に入った1,000発の.338ノルマ・マグナムと、弾箱に入った.500S&Wの弾を取り出す。


「こっちは何百発も撃つ銃じゃねえ。五十発もありゃあ、コト足りる」

「ありがとうよ、親方」

「それと……これを〝ドライバー〟に渡してくれ」


 親方はそう言って、油紙に包まれた少し長めの何かを取り出し、メリージェーンに渡す。


「? これ?」


 メリージェーンは包みを受け取って中身を覗く。


「!」


 驚くメリージェーンを見て、親方が口を開いた。


「本当に『〝ドライバー〟が捕まった』っていうんなら、いつもの得物じゃ不足だったってコトだ。〝ドライバー〟なら、こいつが有れば大抵の用は足りる」

「恩に着るぜ、親方」


 包みを元に戻しながら、メリージェーンは親方に礼を言う。


「なあに、良いってことよ」


 親方は、髭ツラに満面の笑みを浮かべた。


   ◇


 受け取った荷物を担いだメリージェーンはGTRに戻ると、トランクとボンネットを開いた。


 中から雷獣ライデンとミミックのスカハコがそれぞれ顔を覗かせる。


「本当にいいのかい? 後戻りは出来ないよ?」

「アッタリマエサ!」

「オレモ、アネサンニツイテイキマス」

「OK! それじゃあ、いっちょう行くかい?」

「オーケー」

「オーケー」


 メリージェーンはGTRのボンネットを閉め、受け取った銃をスカハコに仕舞おうとするが、スカハコが口を開けようとしない。


「? どうした、スカハコ?」

「チョット、チョウシガ……」


 見ればスカハコの体は、何か巨大なものを無理に詰め込んだようにだらしなく膨らんでいる。


「しょうがねえなぁ、またなんか変なモノ喰ったのか?」


 ダークエルフは持っている銃を助手席に放り込むと、派手な排気音を轟かせながらアラモ・マシン・アンド・ツールスを後にした。


「またなー! 親方!」


 遠ざかるテールランプを眺めながら、ムニャオ親方はおかしな思いに囚われていた。


 あの〝メリージェーン〟とかいう女の容姿……色こそ違うが、ジェーン・ランダルそっくりではないか!


 もっと不思議なのはその声だ。芽里とジェーン・ランダルが、同時に喋ったらあんな声になるんじゃないか……ムニャオ親方には、そうとしか思えなかった。

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