第11話:ドラマチックレイン

 七月にしては、冷たい雨が降っている。


 だが、〝ソーサラー〟はまったく気にする様子もなく、寂れたウスウストノス・カンエツエクスプレスのアポハイ・タカサキ・インター入り口の脇にGTRを停め、膝を抱えて蹲っていた。


 雨は体に届く前に消え失せてしまい、ずぶぬれになることは無い。しかし、もし体が濡れていったとしても、今の〝ソーサラー〟は一向にそれを気にすることは無かっただろう……それほど〝ソーサラー〟の心は深い闇に落ち込んでいた。


 また〝アイツ〟が出てきたのだ。〝ドライバー〟があんなに血塗れになって何かをするとすれば、〝アイツ〟が何かをしたに違いない。


「〝ドライバー〟……」


 いつもそうだ。傍に居ないのを実感した途端に、どうしようもない虚無感に襲われる。


 どんなに悪態をつこうが、〝ソーサラー〟は〝ドライバー〟=マスターが好きだった。恋愛感情のような好きとは違ったが、それでも男性としては魅力的だった。軽口ばかり叩くお調子者だし、おぢさん臭くもあったが、オシャレでユーモアがある、頼れる相棒なのだ。なにより、マスターの作るおいしい料理はもっと好きだった。


 そんな〝ドライバー〟=マスターを血塗れにしたうえ、一人で先に帰らされるなんていうのはただ事ではない……余程のことが起こったに違いない。だが一人ぼっちの今、何をしたらいいのか見当もつかない。衝動に近い感情だけが〝ソーサラー〟を揺さぶっていた。


『〝ドライバー〟を迎えに行きたい』

『マスターを取り戻したい』

『〝ドライバー〟に会いたい』

『マスターのご飯が食べたい』


 そんな子供のわがままのような感情だけが心の中をループしていると、


「芽里?」


 と誰かが自分の名前を呼んでいるのに気が付く。


 目を上げた〝ソーサラー〟の目の前には、グリズリー・オートマチック拳銃を構えたジェーン・ランダルが立っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る