第22話 二度目の謁見

「ついに、あきらめた。と思うか?」


「多分、まだあきらめてないと思うの。

 陛下のことだから、きっとおかしなことを考えていると思うわ」


「そうだよなぁ。何を考えているのか……」


当主変更の儀が始まってから二週間が過ぎた頃、

王宮からの使者の命令が変わった。

それまでは王宮に呼ばれるだけだったのが、

どうしたら雨が止むのか教えろというものだった。


それに対して、

「この雨は精霊王が次期当主を拒絶しているものだから、

 当主変更の儀を中止すれば止みます」

と答えたのだが、

当主変更の儀を中止するという返事が来るまで三日あいている。

その間に何を考えたのかわからないため、油断することができない。


前回王宮に呼ばれたのは二十日前。

白くて美しい石造りの王宮は黒く汚れていた。

全体的にカビが発生してしまったらしい。


雨は止んだが、まだ他の被害は続いているようだ。

このぶんだと中庭の東屋など木造の建物は崩壊しているに違いない。


謁見室に入ると、やつれた顔の陛下と宰相。

そして、奥にはボロボロになったお父様とブランカがいた。

ブランカがいるのは予想外で思わず見てしまうと、睨みつけられる。

薄汚れたドレスにげっそりとした顔。ぼさぼさの髪に化粧もしていない。

この二十日間、どんな目に遭ったのかはわからないが、

表情を見たら少しも反省していないことはわかる。


「……エルヴィラ、これはいったいどういうことだ?」


「私も予想外でした。陛下がお父様を当主にと申されましたので、

 当主変更の儀を行い、お父様に当主を譲るつもりでいました。

 ですが、精霊王はそれを認めなかったようです」


「あくまでエルヴィラのせいではなく、精霊王のせいだと?」


「それは、もちろんです。

 私が王都中に雨を降らせるような魔力があるとでもお思いですか?

 王都だけでなく、王領、ダーチャ侯爵家領地でも雨が降ったと聞いております。

 そのような広範囲に雨を降らせる力はオーケルマン公爵家でも無理でしょう」


事実のままに答えると、宰相もうなずいている。

さすがに私がこれだけの力を持っているとは思っていないようだ。


「では、エミールが当主になるのは無理だと申すのだな?」


「当主にすることはできるでしょうが、その場合は一か月過ぎても雨は止みません。

 今は儀式を中止にしたため止んでいますが、

 今日の話し合いの結果次第ではまた日没から雨が降るでしょう」


「なんだと?もう終わりではないのか?」


一度中止にすればなんとかなると思っていたのか、

また雨が降ると聞いて陛下の顔色が変わる。

二十日間、どれだけ雨が降ったのかはわからないが、

それだけ嫌な思いをしたらしい。


「精霊王がこの国を守るのは、気に入った人間が当主になった時だけです。

 気に入らなければ、気に入った当主に変わるまで災害は続きます。

 その場合、雨だけでは済みません」


「……エミールではダメだということか」


がっかりする陛下と宰相に、しっかりとうなずく。

何を企んでいるのかはわからないが、お父様が当主として認められることはない。

もうすでに精霊の加護を外されているのだから。


「よし、わかった。では、エミールではなく、娘のブランカに継がせる。

 それで大丈夫だろう!」


「は?」


何が大丈夫なのかと呆れてしまって即座に言い返せない。

お父様がダメならブランカに?人を変えれば大丈夫というわけではないのだが。


「若い女なら大丈夫だということなんだろう?

 エルヴィラの前もディアーヌが当主だったと聞いた」


あぁ、そういう考え方をしたのか。

私とお母様が当主だったのは女性だから大丈夫だったのだろうと。


「陛下、お父様は一応は公爵家の籍にいるものですので、

 陛下のおっしゃることにも同意できましたが、

 ブランカは公爵家のものではありません。平民です」


「なぜだ?認めたくないのはわかるが、異母妹だろう」


「お父様はお母様が亡くなった後、再婚しておりません。

 ブランカは愛人との娘です」


「なんだと?」


知らなかったようで、陛下と宰相が顔を見合わせている。

国法により、愛人の子の相続権は認められていない。

……のだが、それは理解できているんだろうか?


「ひどいわ!お姉様!

 いくら私とお母様が嫌いだからってそんな嘘つかなくてもいいじゃない!」


黙っていられなくなったのか、ブランカの甲高い声が響く。

嘘って。ブランカも知らなかった?


「嘘じゃないわ。お父様は公爵家の婿だったの。

 お母様が亡くなった後も私の父親として籍に残されているけれど、

 もしブランカの母親と再婚したのなら、公爵家の籍から外されるわ。

 お父様はそれを嫌がって、再婚しなかった。

 つまり、公爵家の籍にいたのは私とお父様だけ。

 ブランカとブランカの母親は客人として本宅に住んでいただけなのよ」


「嘘よ!ねぇ、お父様、お姉様が言っているのは嘘よね?」


「………本当だ」


さすがに陛下の前で嘘をつくわけにもいかないのか、お父様は本当だと認めた。

それを聞いて、ブランカが髪をかきむしって嫌がる。


「嘘よ!嘘、嘘だわ!私が公爵家を継ぐんだから!!」



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