99.海底おそうじ大作戦
「海神様が怒っていらっしゃるのじゃ」
「恐ろしや…海神様が怒りなさるとワシらの村は海に沈んじまうだ…」
「このままじゃ、儂らはオシマイじゃ…」
「それもこれも、海を汚す冒険者のせいじゃ!!」
「そもそも、あいつ等泳げるんかのぅ?なーんかチャラチャラしおって…」
今、俺達の前にいるのはアクローザ沿岸地域に住む漁師の代表者だ。
「待ちなさい。まだ冒険者たちが原因とは決まっておらんのだ、そう責めるような事を言うでない」
「しかし、領主様…」
「すまないね。彼らも不安なのだよ、わかっておくれ」
「…はぁ」
話の流れはこうだ。
廃城で発見された「魔王の欠片」は冒険者ギルドへと預けられた。それと時を同じくして、アクローザ海国にある海底神殿において、海神の巫女が神託をうけた。巫女によれば「海底に魔王の気配あり。海中にある魔王の気配の元を絶つべし。さもなくば海の恵は失われ魔物はびこる死の海と化すだろう」との事。
その証拠に、すでに海では異変が起きつつある。沿岸の漁師達は「冒険者のせいだ」と騒いでいるのだが、魔王の件は伏せねばならぬ。漁師達は暴徒化しつつあり、アクローザ内も非常に危険な状態だ。
そこで、冒険者ギルドは冒険者達による「海底おおそうじ大作戦」を決行する事となった。事前調査では、異変はとある海域で発生しており、海底にはゴミが散乱していた。
「魔王の欠片」を探しつつ、ゴミ拾いをして「冒険者達は海を綺麗にしている」と漁師たちにアピールして、暴動をなんとか止めたいので協力してくれ。
…というものだ。
そして、クエストに参加すべく開始地点で漁師達に囲まれているといったワケだ。
「理不尽だ」
クエストとは言え、やってもいない事を責められるのはあまり気持ちの良いものではないな。
「クレーム対応を思い出して胃が痛いわ」
「オレも嫌な同僚に言いがかりつけられた事を思い出したッス」
「えっ、それウチの会社でか?」
「いや、学生の頃ッスよ」
「社畜のハートにクリティカルヒットなのにゃ」
「人生楽しいばかりではありませんからね」
まぁ、クエストだし相手はNPCだからな!何を言われても…
「なーんだ、オメェ?…こんなちびっ子が海なんざ潜れるわけねーべ」
なんだとぉぉぉ?!誰がチビだ!!
俺の本気を見せてやる!!!
「あっ、これはやらかすヨカン」
「後になって頭を抱えるシオン君の姿が目に浮かぶわぁ」
「わかりやすいのにゃー」
「まぁ、シオンさんですし」
「アイツ意外と単純なんだよなぁ」
とっとと話を終わらせて、問題の海域へと向かう。異変のある場所まではギルドの職員が小舟を出してくれるらしいので、利用してみた。
「ゲーム内は船酔いしないからいいにゃぁ」
カリンが伸びをしながら独り言ちている。ネクター達は動画でも撮ってんのかな?部長は微動だにしていないところを見ると離席中か。
そして、俺は何故かカゲの膝の間に座らされている。
「いやー、すいませんねぇ」
そう言ってペコペコしてるのはギルド職員のラクトだ。この人が乗ったせいで座席数が足りず、一番小柄な俺がカゲの膝の上に座ることになってしまった。重量制限は無いから何人でも乗れるのだが…
「まぁまぁ。シルバに乗って移動するのは流石に目立ちすぎるッスから」
「いや、そうなんだけどさぁ…別に立ってても良かったんだが」
「ほら、それは気分ッスよ」
気分…???つーか、カリンでも良かったんじゃないのか?
「接触判定あるから無理にゃ」
「レディーファーストよ」
えぇー、ジェンダーレスとか男女平等とかの時代にそんな事言うと炎上するぞ?
「そっちに座ってもらわないと違う意味で炎上するわよ」
…なんで?
「ほら、揺れるから立ってると危ないッスよ」
確かに揺れるけどなぁ…これって落下しない仕様になってなかったか?
「いや、パイセンは危険でしょ」
「タシカニ」
落ちても大丈夫だと思うけど、海域まで運んでくれるんだから落ちないほうが良いな。うん。
「さて、間もなく到着しますよ」
船のスピードがゆっくりになる。前方にブイのようなものやイカダがプカプカと浮かぶ場所にやってきた。
イカダの上には冒険者たちがいる。どうやらあのイカダは休憩所のような役割をしているようだ。
そのうちの一つにギルドの簡易窓口があって、同乗していたラクトが窓口の職員となにやら話していた。どうやら交代要員だったらしく、ラクトはそのまま窓口に座り業務を開始していた。
クエストに参加する冒険者は、この窓口で特別漁業権を受け取り海の中へ入っていくスタイルだ。
「特別漁業権を所持していれば、該当区域の海の中は自由に探索出来るらしいわよ」
「あ、そういうシステム?」
「悪目立ちしなくて良いですね」
「ウチら潜水アイテム必要ないからにゃー」
それなら、思う存分ダイビング出来るな!
待ってろよ漁師どもー!!!!
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