何処から流れたのか知らないけど、いつの間にか俺に彼女が出来たという噂があるらしい

武 頼庵(藤谷 K介)

何処から流れたのか知らないけど、いつの間にか俺に彼女が出来たという噂があるらしい

※前書き※

このお話の中で、道路交通法に抵触する表現がありますが、それを助長・肯定するようなものではありません。あくまでも物語上での表現です。






 自慢するわけじゃないというか、恥ずかしい話だけど高校二年生になった今に至っても、彼女が出来るどころか、クラスの女子達との会話でさえままならないというのが、常盤正英ときわまさひでという男子高校生である俺の客観的立場から見た評価だろう。


  事実、朝登校してから女子と会話することなく一日が終わるというのは日常茶飯事だし、何か用事があって話さなきゃいけないときも、余計な事など言える訳もなく、本当に用事をこなすだけの会話しかできない。


 そんな俺だから、自分に『彼女が出来た』という噂が上がっている事にかなり驚いたのは言うまでもない。


  事の起こりは何気ない一日を謳歌していた平日の昼休み時間。


「おい正英!!」

「ん?」

 声を掛けてきたのは一年の時からのクラスメイトで、俺は一方的に友達だと思っている吉田疾風よしだはやて。クラスの女子達からも、甘いマスクにふわっとした血筋譲りの茶色い髪を無造作に切りそろえただけなはずなのに、モデルをしていてもおかしくないと評価されている、所謂いわゆる一軍に所属する男子だ。ただ本人はそんな外野の声を気にした様子はなく、陰でも陽でも分け隔てなく接して誰とでも仲が良い良い奴なのだ。


 ただなんでも、自分の中で流れる欧州血筋の先祖返りの影響で、天パぎみの髪の毛が悩みの種だと、ちょっと影を落としながら話した時の顔は怖かったのを今でも忘れない。


「おまえようやく彼女出来たんだって!?」

「はぁ!? なに? 嫌味か?」

 昼休みの休憩時間に、購買人気ナンバーワンの焼きソバパンと第二位のナポリタンパンをゲットしてほくほくした心でかぶりついていた俺の前に、ニコニコと満面の笑みを浮かべながら、前の席の椅子をガタガタと大きな音を立てながら引き、そこに勢いよく俺向きになりながら座る疾風。


「か・の・じょ!! できたんだろ? 隠さなくてもいいだろ?」

「いやいやいや!! 隠すも何も……出来てないし……」

「はぁ!? 今更……どうしても教えたくないのか?」

「何言ってんだよ。いるなら居るってしっかり言うだろ? 疾風も知ってると思うが、俺は嘘は好きじゃないんだから」

「まぁ……そうだな」

 ふむという感じに顎に手を当てながら、悩み始めた探偵の様に考えこむ疾風。


「因みにそれ誰情報だよ」

「ん? あぁ……俺の彼女」

「あぁ……雅貴まさきちゃんか……」

 疾風は学校では目立ちたくないからという事で、彼女がいるという事は公言している。その彼女も俺達と一緒の学校では無い為、一部の女子生徒たちからはブラフだと思われているらしい。


 ただ俺は疾風の彼女である雅貴ちゃんこと荻野雅貴おぎのまさきとは、疾風と一緒に何度も顔を合わせているので、その存在証明の一翼を担っていたりする。

 どちらかといえば顔はイケメンな疾風だが、面倒くさがりな部分があり、それをさっぱりしている性格の雅貴ちゃんが補っている感じの、お似合いカップルだ。


「何か言ってたのか?」

「昨日の帰りに友達と買い物してた時に、正英が自転車の後ろに女の子を乗せて走ってたのを見たって言ってたぞ」

「昨日……?」

「なんだよ帰り道デートしてたのか? なら俺達と一緒にダブルデートしようぜ!!」

「いやいや……。昨日って……。そもそも俺はで帰ったぞ?」

 昨日は確かに俺も読んでいた小説の続巻が出るために、町の中に買い物をするため帰路はまっすぐに書店へと向かった。


「またまたぁ……。隠さなくてもいいだろ?」

「隠すも何も……」

「気を付けろよ? 自転車の二人乗りは違反だぞ? おまわりさんに見つかったら罰金取られちゃう時代なんだから」

「時代って……お前どの時代に生きてたんだよ……。現在バリバリの高校生だろうが!!」

「親父たちの時代は一種のアオハル的光景で、シングルな親父の憧れだったらしいぞ」

「そうなのか?」

「親父と母さんが言ってた」

 ニコニコとしながら俺に話す疾風。しかしなぜ両親からそんな事を聞きだしたのかはちょっと問い詰めなきゃならないかもしれないなと思いつつ、雅貴ちゃんが見た『俺達』の事が気になる。


「何はともあれ、正英本人が『いない』って言うなら、雅貴の見間違いか勘違いなんだろうな」

「そうじゃないかな? 帰りなんて人も多くなる時間帯だし、俺と誰かを見間違ったんだろうな」

 二人してうんうんと頷きあう。


「何にしても正英も早く彼女作れよ。そしたら俺達とダブルデートしようぜ!!」

「出来るならもうできてるよ……」

「……興味がない訳じゃないんだろ? いや、もしかしたら既に好きな人が居るのか? それなら協力するけど」

「……いや。から安心してくれ……」

 脳裏に一瞬だけ浮かんだ顔を振り払うように、俺は疾風にニコリとほほ笑んだ。


――確かに俺には好きな子が居る。いや正確には

 ただそれは叶わない現実だから、あえて誰かに言う必要はない事だとグッと堪える。


 疾風は早々に話題を切り替えて、俺もその話を聞いて、笑ったりツッコんだりしながら楽しい時間は過ぎていき、お昼休憩時間はあっという間に過ぎて行った。




それからしばらくの間は疾風が言ったような話を聞くこともなく、普段通りの学校生活を送っていたのだけど、気が付くとクラスの女子達からも何というか、暖かな視線というかそういうモノを感じるようになった。

 ついにはクラスの男子たちからも同じような視線というよりも、羨望や嫉妬に似た視線を受けるようになって困惑する。


「正英!!」

「なに?」

 とうとう何かに我慢できなくなったであろう、何事もなく過ごしていた平凡な週の中日なかびである水曜の放課後になって、クラスの男子を代表するかのように、俺の方へと近づいて来る数人の姿を名前を呼ばれて顔を上げた俺が確認する。


 そんな様子に気が付いたのか、スッと何も言わずにいつの間にか疾風が俺の隣の席へと腰を下ろした。


「ちょっと聞いていいか?」

「いいけど……なんだ?」

「お前の彼女の友達でいいから紹介してくれね?」

「へ?」

 予想していた事じゃない事を言われて、俺から変な声が漏れた。と同時に隣の席の疾風と顔を見合わせる。


「いやだってよ!! 俺達見たぜ!! 正英あんな可愛い女の子とどこで知り合ったんだよ!!」

「そうだぞ!! めっちゃ美人じゃん!! 羨ましい!!」

「彼女を紹介しろなんて野暮な事は言わないからさ、その……友達とかでいいから紹介してくれって言ってくれよ」

 俺の目の前でまくしたてる生徒たちに圧倒されて何も言えなくなる。


「待て待て……。正英が困ってるだろ?」

「お、おう……ご、ごめん……」

「すまんちょっと興奮してた」

 疾風がそんな俺の様子を見てため息をつきつつ、興奮している男子をなだめてくれる。


「おまえら……。ちゃんと説明してやれよ」

「そうだな……」

 そう言いつつ男子たちは互いに顔を見合わせるとコクっと一つ頷いて、その中の一人、初めに俺に声を掛けて来た男子が話し始める。


「昨日だけど、俺達はいつものように放課後駅前のゲーセンにいたんだよ。その途中で俺達正英を見かけてさ」

「昨日は確かに駅前の方には行ったけど……」

 疾風が俺に確認するような視線を向けるので、昨日の事を思い出しながら答える。するとコクっと一つ頷いて、男子の方へと視線を戻す。その視線を受けて男子生徒は話を再開した。


「一人だったら声を掛けて一緒にゲーセンに誘うと思ったらさ……」

「思ったら?」

「正英の乗る自転車が近づいてきて、よく見たら後ろに女の子乗せてるのが見えたんだよ」

「女の子?」

「そうそう」

 あれはとか言いながら昨日の事を思い出している様子の男子生徒。しかし俺はその事に関しては記憶に無いし、ましてや自転車の後ろに女の子がいたなんて事は無いから困惑する。


「どんな子だったんだ?」

 疾風が男子たちに聞く。


「ちょっとこげ茶の髪の毛でさ、凄くさらさらな感じの。それが風でなびいてて、正英に声を掛けようとしたらこっちに気が付いたのか、俺達の方へニコッと笑ったんだよ。それがまた可愛くてさ!!」

「そうそう!! なんというか……アイドルにいてもおかしくないっていうか!!」

「色白ですんごく顔が小っちゃくて!! その髪色とコントラストっていうの? すっごく似合っててさ!!」

「それで結局それに見惚れて正英には声を掛けられなかったんだけど……」

 ちょっとがっかりという感じに肩を落としながら話す男子生徒。


「おまえら……。その女の子じゃなくて正英に用事だったんじゃねぇのかよ……」

「いやなんというか……ってオーラを感じたというか……」

 再び顔を見合わせて言いよどむ男子生徒ズ。


「……、と、言ってるけど? 正英どういう事? 彼女いないって言ってたよな?」

 ジトっとした目で俺の方へと視線を向ける疾風。それに慌てて否定するように手をバタバタと振る。

「いやいや!! 本当に居ないって!! というか昨日だろ? 確かに駅前には行ったけど俺一人だけだぞ」

「……怪しい……。目撃者がいるんだからキリキリ吐け!!」

「ぐえぇ~……」

 疾風にヘッドロックを掛けられつつ、俺はその男子たちが目撃した女の子の容姿について考えていた。


――まさか……な。

 そんなわけは無いと頭を振る……事は、ヘッドロック状態の今はできなかったけど、痛みと苦しみの中でも少しだけ気にはなった。






 そんな事が有った帰り道――。

 疾風からようやく逃れた俺は、隙を見て鞄を抱えるとすぐに教室を飛び出した。

 そのまま一階の昇降口まで降りると、すぐに靴を履き替え、乱暴に上靴をロッカーに放り込み、急いで自分の自転車のある場所へと走る。


「はぁ……はぁ……。まったく!! 彼女なんていないって言ってんのに!! あいつら!!」

 少し腹が立ってしまっているのは仕方ないところだろう。なんとあのヘッドロック時に疾風から聞いたのだが、実はクラスの女子達もここ数日中に俺が二人乗りしながら自転車を運転しているところを目撃している人達がいて、その事がクラスの中で噂になっていたらしい。


 それをあまり仲が良いとは言えない俺に直接聞くこともできず、ただの『噂話』として広まってしまったというのが現状の様だ。


 それが昨日に至って、その現場を目撃した男子生徒たちによって、真実を明るみに――どちらかというと彼女の友達を紹介してもらうのが目的だと思うけど――しようと、俺に直接訴えに来たのが放課後の俺への突撃だったみたい。


――というか、そんなに噂になってるのか……。でも俺にはに心当たり無いんだよなぁ……。

 女の子と一緒に帰る事なんて中学生の時以来無い。かといって現在彼女もいない。更に俺は自転車の後ろに誰かを乗せて走る事なんて……今は無いな。


 自転車の鍵を差し込みガチャン!! という勢いのいい音を聞いて自転車を引き出しながら考える。


 纏まる事の無い事を思考しながらも、俺は帰路についた。

 

 学校と俺の家のある場所とは結構距離があって、自転車でも15分程こがないとたどり着かない。更に買い物などをする為には駅前に行かなければならないのだけど、家がある方向とは反対側にある為、その分更に時間がかかる事になるのだが、自宅がある場所は住宅街で有り、周りにはスーパーも無ければコンビニもない。買い物という事に関して言えばとても立地が悪い場所にあると言ってもいい。


 只その分というわけじゃないけど、家の周りには公園で有ったり池などが有ったり、自然も程よくあるために週末などは人が多い事もあるけど、そこまでうるさく感じるほどの事じゃないのが気にいっている。


 俺も小さい時は近所の子達と一緒に、家の周りを冒険したり、公園で遊んだり、良い想い出はたくさんある。そしてその反対に嫌な思い出も……。


 今日も母さんから頼まれた買い物をする為に、駅前の方へと自転車を向かわせる。学校帰りに買い物を頼まれる事も慣れてしまえば『日常の事』というくくりの中に入る。まぁ出来ればメンドクサイ用事を頼んで欲しくは無いと思っているのだけど、あいにく自分の家に車はあるけど父さんが出勤為の脚として使っているし、そもそも車があったとしても母さんは普通自動車運転免許を持ってない。

 結局は俺か父さんどちらかが帰り道で買ってくるしかないことに変わりは無いのだ。


――仕方ないよね……。

 小さなため息をついた時、ピピピー!! と笛が鳴るのが聞こえた。

 

「ちょっとそこの自転車の君停まりなさい!!」

「え!?」

 声を掛けられてブレーキをかけ、キキッと甲高い音をさせつつ速度を落とす、ちょっと声を掛けられた場所から離れたところで停まる。

 

 足をついて声のした方へと顔を向けると、二人のおまわりさんが俺の方へと駆け寄ってきた。


「きみ!!」

「はい!!」

 声を掛けられて姿勢を正す。おまわりさんに声を掛けられるなんてあまり無いので、緊張してしまった。


「後ろに乗っていた女の子はどうしたの? 逃がしてあげたの?」

「は?」

「は? じゃないよ。自転車の二人乗りは道路交通法で違反になるのは知っているよね?」

「え? えぇ……知ってます」

「なら違反だからね? 君高校生かな? 駄目な事はだめなんだからね。ほら後ろに乗ってた子も呼び戻して」

 二人のおまわりさんは、俺の自転車を確認しながら話している。


「あ、あの……」

「ん? なに?」

「俺……二人乗りなんてしてませんけど……」

「「はぁ?」」

 おまわりさんの声がシンクロした。



「いやいや嘘はダメだよ」

「いや、嘘なんてついてませんよ。俺は学校から一人でここまで来ましたし」

「それは言い訳にならないよ。私たちはこの目でしっかりと見たんだから」

「何を見たんですか?」

「君の後ろに乗って凄く楽しそうにしている女の子だよ」

「え?」

 そう言うとおまわりさんはその女の子特徴を俺に話してくれる。

 おまわりさんが言う『見た』女の子の特徴は、偶然なのかクラスの男子たちが昨日目撃したと言っていた女の子とほぼ同じだった。



「本当に!! 本当に俺はここまで一人できました」

「全く!! まだそんなこと言って!!」

「それに……」

「ん? なんだい?」

「良く見てください」

 俺は自転車サドル後方を指さした。


「荷台なんて無いので、そもそも座ったり乗ったりできません」

「「…………」」

 俺の説明におまわりさんも黙ってしまう。


「た、たしかにそうだね……」

「いやしかし、しっかりと見たんだが……」

 困惑の表情を浮かべるおまわりさんであったが、う~むと考えこんでしまう。


「更に言うとですけど、もしも俺がその女の子? を逃がしたとするならばおまわりさんたちがその場面を見て無いのはおかしくないですか?」

「むっ……」

「そうだな……君はその場面を見たかね?」

「いえ……」

 そういうと黙り込んでしまうおまわりさん達。

 結局は証拠らしい証拠もないという事で、注意というモノを受けたのだけど、それ自体俺には心当たりが無いのでどうにも納得はできない。


 しかしようやく解放された俺は急いで買い物をすますために自転車をこぎ出す。数分して目的の物が売っているスーパーへと到着し、自転車の駐輪場所へと移動している時、ふとスーパーの大きな窓の方へと視線を向けた。


「え!?」

――え!?

 心の中で思った事と、咄嗟に口から出てしまった言葉が同じになる。



 俺の乗るその後ろに、ブレザー姿の女の子が横向きでちょこんと座っていたのだ。


 外見は『噂』になっているそのままで、そして顔はニコニコと笑っている。


 混乱する俺をよそにずっとニコニコと笑っている女の子。


――誰だ!? いやそれよりも……。


『ようやく、ようやく気付いてくれた……』

「え?」

『正英。約束した通り、一緒に帰ろうね』

 脳に直接響くような声がする。そして俺にはその声に覚えがあった。


――まさか……。

うい……なのか?」

 それに返事する事は無く、代わりにずっとニコニコと笑顔のままの女の子がずっと俺の後ろに座っていた。



 

俺には小さい時から好きな子がいる。

 それを自覚したのは中学に進学した時から。それまではいつも一緒にいる友達の一人という認識だったのだけど、中学生になると変わる物がある。それが『学生服』だ。

 

 初めて学生服を着たその子を見たときに、俺は『恋』を自覚したんだと思う。


 その子の名前は羽河愛はねかわうい

 俺の幼馴染の一人







 中学生になっても、小さい時から遊んでいた友達との付き合いは同じように続いた。思春期特有の『男女の自覚』を感じるようになっても、俺達には無縁なものの様に感じていたし、他の皆も多少は影響があったかもしれないけど、それまでの仲が壊れるような事は無く、一緒に出掛けたり遊んだりすることが日常だった。


 日常が非日常になるのは突然である。中学3年生に上がる前の春休み、愛達家族が引っ越す事が決まり、俺達の関係は一気に変わった。

 

 それまで友達だった女子達は急によそよそしくなって、男子は新たな出会いから彼女等が出来たりして一緒に遊ぶことが少なくなった。


 俺はそれを黙って受け入れることが出来なかったけど、段々と離れていってしまう友達の事もまた引き留める事はできなかった。


「高校生になったら戻って来るから!! また一緒に帰ろうね!!」

 そう俺に言い残し、引っ越していった愛。

 その約束を信じて俺は毎日を過ごしていく。




「正英……」

「なに?」

 高校入試が目の前に迫ってきて、慌ただしくなり始めた12月の初旬。その一報は突然俺の元に届いた。


「愛ちゃんが……亡くなったって……」

「は?」

 学校へと向かう為に玄関で靴を履いていた時、俺の後ろから母さんが声を掛けて来た。


「何言ってんだよ!! そんなわけ――」

「本当なの……。今日、通学途中で凍結した道路で滑った車が愛ちゃんを……」

「うそだ……。嘘だ!! 嘘だぁ!!」

「…………」

「なぁ!! 母さん嘘なんだろ!? 俺をからかってるんだよな!? そうだろ!? 頼むよ……嘘だって……嘘だって言ってくれよ……」

 

 その日、俺は学校を休んで愛の元へと母さんに連れられて向かった。



「愛……。愛ぃ……」

 俺が見た愛はとても静かに、そして少しだけ大人びた顔をして微笑むようにして横になった姿。

 外傷的にはそこまでひどい物じゃなかったらしくとても綺麗なままで、ただそこにじっとして横になり寝ているような感じのまま。


 

 ただ、そこにはもう羽河愛という命は失われてしまっているのだけど――。






 今日も俺は放課後買い物をする為に自転車をこぎつつ駅前へと向かっている。


 そして俺の後ろにはニコニコと笑う愛が座って乗っているだろう。

 

 学校の内外で広がる噂は本当の事では無いけど、真実でもある。

 いつまで俺の後ろに愛が居てくれるか分からない。

 でもしばらくはまた一緒にいられると思うと、俺はずっとこのままでもいいかな? なんて思ってしまう。


 約束した『一緒に帰ろう!!』をいつまでも楽しんでいたいから――。







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