学年一の美少女におっぱい触ってもいいよと言われた。
立入禁止
学年一の美少女におっぱい触ってもいいよと言われた。
「おっぱい触ってもいいよ」
放課後、誰もいない空き教室、学年一の美少女と名高い同級生で同じクラスの亜久津紗奈が言ってきた。
「なんで?」
いや、まじでこの言葉しか出てこないと思う。だって意味がわからないから。ほぼ接点のない同級生に放課後に声を掛けられて用事があると言われてついて行ったらこれだった。
私の動揺とは対照的に清々しいほど堂々としている亜久津紗奈を見る。結論から言えば触りたい。触ってもいいよと言われれば触りたい。欲望に忠実なので触りたい。けど、理性のある頭はそれを許してはくれない。
「いや、なにこれ? なんかのドッキリとか?」
「ううん。違うよ」
「じゃあ、なんで、こんな接点もない同級生に……その、おっぱい触ってもいいなんて言うのさぁ……」
うーん、と考える仕草ですら絵になる。学年一の美少女と言われるだけあるなと。恐れ多くて私ごときが彼女と関わるなんてなかったのに一体全体、なんのイベントが起きたらこうなるのか。ルート違いでは無いのではと思ってしまう。
「だって、柊さんがおっぱい触りたいって教室で騒いでたから?」
「え?」
いやいやいやいや、奥さん。私がおっぱい触りたいって騒いでたから触らせてもらえる世界ってありますかって話で。えぇ、えぇ、今、目の前にあるんですが、本当と書いてマジでどうなってるんですかですよ。
「この前、柊さんが叫んでたじゃん。だから触らせてあげようかなって思っただけだし。嫌なら別にいい」
確かに騒いでたけども。騒いでたけどもさぁ……。なんか違うじゃん。それで「はい、おっぱい」って言われてもさぁ。いざおっぱいから来られるとさぁ。なんだかんだ、うじうじと考えすぎて黙っていたら「もう、いい」と拗ねて教室を出ていこうとする亜久津さんを呼び止める。
「あのっ、いやじゃないっ……です」
クルッと振り返った亜久津さんの表情が一転した。にこっと笑って、さっきまでの立ち位置まで戻ってくるのを眺めている。彼女の変わり身の早さにただただ驚いた。
「はい、どうぞ」
それよりも、今からすることへの緊張感もあり喉がカラカラだ。無理矢理飲み込んだ唾が上手く喉を通っていってくれない。
「やっぱり嫌なんじゃん」
「あっ、あっ、違うんです。本当に揉みたいんです。気持ち的には揉みてぇです。揉みてぇげす。揉みてぇげすとみたいな感じなんです」
「えっ、なにその三段活用みたいな言い方。こわっ」
あっ、ドン引きされている。口の端が引きつっている。うわっていう目もしてるし。今更ながら後悔したのかもしれない。亜久津さん怖がらせてめんご。
「えっと、あの、本当にいいの?」
「いいってさっきから言ってるじゃん。早くして」
今のが最終確認だよ。いいんだね。本当にいいんだね。もう、なにそれ。かなりドキドキしちゃう。ドキドキしすぎてえづきそう。なんか体も熱くなってきたし。
「では、失礼致しまする」
両手を亜久津さんの両胸に。引き寄せされるようにすぅっーと手が伸びていく。これが万有引力か。アイザック・ニュートンさま、引力を見つけて頂きありがとうございます。と心の中で呟きながら手を寄せていく。
ふと、亜久津さんを見ると無だった。びっくりするほど無だった。えっ、今からおっぱい触られる人が無とかある?なんならさっきのやり取りの方が表情が豊かでしたけど。触られるの嫌だったとか。でも触っていいって言ってたし。胸にたどり着くほんの僅かな時間だが脳内は騒がしかった。
「うわぁぁぁ」
心の底から感嘆する声が出た。無事に亜久津パイに辿り着いた己の手はその感触に感動を覚える。
すごい。すごすぎる。自分自身のを触ったことがあったけど、それとは似ても似つかない感触だ。なんとも言えない柔らかさと、服の上からなのに指の沈み込み具合。手からほどよく余るパイ。どれをとってもパーフェクトだった。
「揉みたい?」
「へぇっ?」
「別にいいよ」
「で、では……」
掴んでこの感動なんだよ。揉んだらとかもうさ。
「では、揉みます」
コクリと首を縦に振ったのを見て一揉みした。次いでニ揉み、三揉み、四揉みと揉んでいく。その度に「うわぁ、すごい」と声に出してしまう。夢中で揉んでいることに気付いて、しまったと亜久津さんを見た。
亜久津さんは顔を真っ赤にして、口からは小さく息を吐き出していた。
うわぁ、えっちだ。揉む前の無が嘘みたいに上気した顔に釘付けになる。それでも揉んでいけば、不意に目が合った。
心臓がドクンっと一際大きく奏でたかと思えば尋常じゃないほど早鐘を打ち全身に血液を送り出し始めたのだ。
体が熱くて仕方がない。逆上せそうだ。
「えっ……」
亜久津さんの驚きの声で亜久津パイを揉んでいた手を止める。
ポタっ、ポタッと床に落ちていく液体を見れば。
「赤色」
そう。赤色だった。しかも自分から出ているらしい。逆上せた頭ではうまく思考を回転させることは難しく、どこか他人事だ。
「鼻血出てんじゃん」
どこから出したのか、亜久津さんがハンカチで鼻を抑えてくれた。私はというと、鼻血かぁ……としか思わなかった。
空き教室のそこら辺にある席に腰をかけて鼻血が止まるのを待つ。床についた血は、亜久津さんが拭き取ってくれていた。「ふぅいまへぇん」と謝って立とうとすれば「いいから大人しくしてて」と怒られてしまったので、大人しく掃除してくれているのを見守っている。
暫くして、掃除が終わった亜久津さんが隣に座る。
「まさか、鼻血を出すとは……」
それね。私も思った。興奮してる自覚はあったし体もポカポカというかカッカッしてたし。けど今までもそんな体験はあったはずなのに。漫画やドラマみたいに鼻血を出すなんて思わなかった。さっきより幾分か機能が戻ってきた頭で思考をめぐらす。
穴があったら入りたい。
いや、まじで。せっかく学年一の美少女がおっぱい揉んでいいよ、と来てくれたのに不完全燃焼なうえに醜態を晒して終わってしまった。出来るならもっと揉みたかったし、スマートに生きたかった。
「今日が駄目なら、また明日揉めばいいじゃん」
「ふぇ?」
余程残念そうにしていたのだろうか。亜久津さんが言い出した言葉に開いた口が塞がらない。
「別に今日だけとは言ってないし」
そうなんだけど。そうなんだけども。いやいやいやいや、そんな簡単にうら若き乙女のおっぱいを揉んでいいよなんてよく言えますな。私は亜久津さんが心配ですよ。
「ふぁんで……」
なんで、と言いたかったのに鼻を抑えているため、きちんとした発音が声から出ない。
「なんでって……なんでだろうね。本当にわかんないんだよね」
私と目が合っているのにどこか遠くを見ている目に、私は映し出されていなかった。
「ほぉっか……」
人気者には人気者の苦労というものがあるんだろうな、と他人事のように思う。実際に他人なのだが。
おっぱいを触らせてもらってそして揉ませてもらって、鼻血を出して、どこかセンチメンタルな気分に浸って……。なんだこれ。シュールすぎんか?
いや、なんか笑っちゃいけないんだろうけど、凄く面白いって思ってしまった。あー、やべぇ。笑いたい。肩が震えるし、腹筋あたりがひくついている。でも今は笑う場面ではない。耐えろ。耐えるんだ。
「なんで笑い堪えてんの?」
すんごい呆れた顔で蔑んだような目で見られた。あっ、なんか違う扉が開いちゃうかも。なんて思う隙もなく、焦った。バレてた……。えっ、すごい耐えてたよ。バレないように耐えてたはずだよ。どこからどう見てもわからないようにしてたよ。
「肩震えてるしバレバレだから。はぁ……」
「あの、違うんだよ。違わないけど違うの」
何だこの言い訳。違わないけど違うは違うだろ。いや、違わないのか。自分で言っておいて意味がわからなくなってきた。えーん。
「この光景がシュールすぎるなって思っちゃって。そしたら。その、なんか、面白くなっちゃって」
「あー……なんかさ、わかったかも」
私を蔑んだ目のまま頬杖をついている亜久津さんは、どんな角度でも絵になるなと私は場違いなことを考えていた。
「柊さんにおっぱい触らせた理由」
「えっ、」
「柊さんって、馬鹿みたいにいつも楽しそうじゃん。おっぱいが好きって教室でも叫んでてさ。まわりの目も全然気にしてないし。一定数からドン引きされてるのに我関せずだし」
あれ、えーっと、その貶されているのでありましょうか。確実に褒められてはないよね。えっ、ちょっと泣いてもいい?だめ?泣きたい気分になってきたんだけど。
「それが、なんかいいなって。羨ましくなったのかな。私にはまわりの目が気にならないくらい夢中になれるものがないから。だからなのかも、馬鹿みたいに好きなものを好きだと騒いでる柊さんに興味が湧いたんだと思う」
そう言った亜久津さんは、蔑んだ目から憐れむような目に変えて鼻で笑った。
えっ、その顔も好き。ズキュン。なんだけど内容が内容だから、やっぱりちょっとだけ泣きたい。
「だから、おっぱい揉ませてくれたの?」
「んー、そうだね。柊さんが大好きなおっぱいを触らせたらなにかわかるかなぁって」
「ダメだよぉ。体大事にだよぉ。無闇矢鱈におっぱい揉むなんて言っちゃだめだよ。亜久津さんかわいいから本当にだめだよ。世の中は変なやつがたくさんいるんだからね。気をつけて」
「いや、それ触った本人が言う?」
「本当にそれだよぉ。なんで触って揉んだんだ。触ってみたかったし、揉みたかったからだよ。学年一の美少女に揉むなんて迫られたら、ハイッ喜んで精神で揉んじゃうでしょうが。当たり前だのクラッカー問題だよ」
「最初は触ってもいいよとしか言ってないし。揉んでいいよとも言ったけど、あんなに揉むとは思わなかったし。しかも揉みすぎ」
オーマイガー。
「本当だ。認知の歪み事件発生じゃん。触っていいよからの揉んでいいよではあったけど、あんなに揉んでいいとは言われていなかったね。それなのにあれほど揉みしだいたのは誰だ。私だ。どうしよう。責任取るよ。私のできる範囲であれば責任取ります。取らせてくだせぇ」
「責任を取る言い方じゃないよね」
呆れたように、けど「ふふっ」と笑ってくれる亜久津さんに少しだけ安心した。
「責任かぁ……。どうしよっかなぁ」
蔑んだ目から憐れみの目から小悪魔的な笑いと、私の中の亜久津コレクションがどんどん増えていく。
「なんでもいいの?」
「私で叶えれる範囲なら」
再度、強く確認され怖気付きながらも自分の範囲でならと誇張して答えておく。一体なにを言われるのか。
でもでもさ、亜久津さんからおっぱい揉んでじゃなくて、触ってもいいよって言ってきたわけだし。……私悪くなくない。うん。悪くない。けど、あれだけもんじゃったしさ、罪悪感から咄嗟に責任取るよなんて口から出てしまったわけで。女に二言はねぇ。けどもこの口がッ。この口が、余計なことばかり。くそう……くそぅ。
自分で自分の頬をペチペチと叩いていれば、亜久津さんに白い目で見られた。亜久津さんの冷やな目にまだまだ目のバリエーションがあるんですね、と感心した。
「きーめた」
にやりとニヒルな笑みをした亜久津さんが私を見てくる。背筋に汗が一玉つぅーと流れ落ちる感触に鳥肌が立つ。
「なん、でしょうか……」
何を言われるんだろうか。
「私がこの関係が終わりって言うまで胸触っていいよ」
「はいぃぃぃぃ?」
大きな声が出た。しかもそれなりの声量でいい声だった。自分で言うのもなんだけど。
「いや、なんで? えっ、なんでそうなるの? 私が言うのもアレだけど頭大丈夫?」
「本当にね。自分でもぶっ飛んでると思う。あー、まぁ、なんていうか柊さんに興味が湧いたままだから、かな」
興味が湧いたからで済む問題ですか。あなたの興味はどこから?私は鼻から。鼻から出たのは鼻血だよ。違うよ。そうじゃないんだよ。そもそも住む世界が違う住人というか、種族から違う気がするんですよ。というより違うんですよ。なにもかもがッ。なのになのーに。興味を持たれる意味がわからない。えー、美少女って不思議ちゃんが多いイメージだけど亜久津さんもそうなの。あと、すごい偏りな美少女への偏見すみません。石とか投げないで。本当に。思ってるだけで、お口から溢れてないから。セーフってことで。
脳内会話を終えただけで息切れがした。
「興味が湧いたからって、胸を触らせ続けるのはどうかと思うんだけど」
「うっわー、鼻血出して喜んでる柊さんに言われちゃおしまいだわ」
ケラケラと笑い出す亜久津さんは面白そうに笑っている。今日一日で色んな亜久津さんを見ている。
「で、責任取ってくれるの?」
取るって言ったけどさぁ。けどさけどさ。人様のおっぱいなんて初めて触ったし、なんならこれからも触りたいと思うけど自分を大切にして欲しいと思うわけじゃん。今更だけど。
「柊さんだからだよ。他の人にだったらしなかった」
なにが、と聞く前に亜久津さんの真剣味を帯びた目が私を射抜いた。その意味がなにかなんて聞くまでもなく馬鹿な私でも理解出来る。
「本当に……いいの?」
女に二言はねぇ、と豪語しておいてひよっているのだ。
「しつこい。これなら責任取れるでしょ。で、はいかイエスかできるか。早く答えて」
「えーん。どれも肯定返事。そんなの一択しかないじゃん」
「じゃあ、いいじゃん」
「嫌になったらすぐに言ってね」
「りょーかい」
「終わりたかったらもだよ」
「わかってる」
「あと、」
「返事は?」
「責任取ります! 取らせてください。大切にします」
ふはっ、と空気が漏れ出る声がしたかと思えば亜久津さんはお腹を抱えて笑っていた。目尻に溜まった涙を拭う。
「じゃあ、大切にしてね」
「ハイッ、喜んで」
その返事うっざ、と呆れられたが亜久津さんは楽しそうに笑っていた。いつの間にか私の鼻血も止まっていた。
この選択が後に、とてつもなく長い付き合いになることを、私と亜久津さんはまだ知らない。
学年一の美少女におっぱい触ってもいいよと言われた。 立入禁止 @tachi_ri_kinshi
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