冬の駅

銀の筆

冬の駅

 北海道の真冬。地吹雪に線路が隠れたり現れたりしていた。 吹きつける雪の中に、ひとりの男が立っていた。


 五十代。痩せこけた頬に覇気はなく、咳をこぼすたび身体が揺れる。 黒いコートは毛玉に覆われ、裾のズボンは雪で重く垂れていた。 それでも彼は、何かに誘われるように列車へ足を運んだ。


 3号車。空席に崩れるように腰を落とすと、窓は白い息で曇った。


 二駅目。少女が乗ってきた。 メガネは曇り、瞳は隠れている。それなのに、その白い頬と細い輪郭は、かつて愛した人を思わせた。


 三十年前の記憶が、雪明かりのように胸に差す。 終着駅で声をかけられ、始まった恋。 ある日を境に、姿を消した彼女。 戻らぬままの時。


「あれから三十年か」 吐いた言葉は、車内の冷気に吸い込まれていった。


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