冬の駅

銀の筆

冬の駅

 線路が地吹雪で見え隠れしている。

 駅があるのは真冬の北海道だ・・・


 五十代の病んでいる中年男性がやっとホームに立っていた。


「ケホッ、ケホッ!」

 咳をするその顔には覇気というものが全く感じられず、まるで夢遊病者のように体をふら付かせている。


 男の黒いコートは毛玉だらけで、コートの内側に巻かれた縦縞のマフラーは、時折男の体が揺れるたびに紺色のネクタイを覆い切れず揺れた。そして、揺れるコートの下から見え隠れするグレーのズボン。裾は雪まみれになっていた。


 男の名前は翔(ショウ)、3号車に乗ると空いている席に崩れこむように座った。


     ・・・・・

 

 二駅目、一人の女子高生がメガネを曇らせて乗ってきた。


 曇ったメガネのせいで、どんなに可愛い目をしていてもその瞳を確認することはできなかった。でも、その目を逆に確認したくなるような他のパーツの可愛さは、曇りガラスのメガネさえも高級ブランドのサングラスよりも素敵なアクセサリーにしていた。


 17歳くらいだろうか、色白な顔で、背は163~165センチ位、低くはないが痩せているせいで小さく見えた。そして、昔付き合っていた彼女に似ていた。


 夢遊病者は彼女を見て、しみじみと昔のことを思い出していた。


~~ 30年前、最終駅で彼女から声を掛けられ付き合い始めたこと。

~~ ある寒い冬の日、デートに彼女は来なかったこと。

~~ それから、音信不通になったこと。


「あれから30年か。」

 ボソッと翔がつぶやいた。

(結局、彼女の事を忘れられず、30年経ってしまった・・・)


「♪~次は終点札幌駅~♪」とアナウンスが車内に響いた。




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