生えてる方がお得って思ったら敗け~妹だと思ったら女装した弟だったけど、可愛いからOKです~

@syusyu101

1敗目 サキュバスコスの“弟”

 親父が再婚した。

 まぁヨシとする。

 親父の再婚相手が子連れの未亡人だった。

 まぁ、これも複雑だがヨシとする。


 血の繋がっていない妹ができた。

 しかも、同じ屋根の下、隣の部屋で暮らす感じになった。

 ……これがちょっと、健全な男子高校生の俺にはキツかった。


「は~い♡ 『マコマコ☆チャンネル』のお時間だよ♡」


 うっすい壁越しに聞こえる甘ったるい声は、その妹のもの。

 名前はマコト。

 苗字は俺と同じになって神原。


「最近配信休んじゃってごめんね~? ちょっと引っ越しで忙しくて……皆に会えなくて寂しかったよぅ♡」


 いつもはオドオドと義母の影に隠れる、黒髪ボブカット低身長小動物中学生クール族の女の子なのだけれど。

 今やっている配信では、そんないつもの姿を忘れてしまうような甘い声を出している。

 語尾に♡がいっぱい。

 股間に、クる。


「そのぶーん……今夜は、いっぱいサービスしちゃうからね♡」


 現在、午前二時。

 薄い壁ごし、ベッドの上で寝ようとしていた俺の耳に、そんな声だ。

 眠れない。

 凄まじく気になる。

 俺は壁に耳を付け、漏れ聞こえる普段聞けない甘い声に集中し。


「早速、送ってもらったこの……エッチな服、着ちゃおっかな……♡」


 そこで、愕然とした。

 エッチな服。

 Hな服、あるいは叡智な服。

 深夜の配信で、急にそれを「着ちゃおっかな……♡」

 まだ中学生くらいの妹が、引っ越ししてきたその晩に、これである。


「わ、スパチャありがと~♡ サービスしちゃうね♡ キモデブ権現さん♡」


 キモデブ権現とかいうあからさまにやべー名前のヤツに小遣いをもらいながら、エッチな服を着てしまうのである。

 妹が。

 俺の、血が繋がっていない妹が!


 未だ一度も兄と呼んでもらっていない俺だが、兄である。

 兄ならば、しなければならない事は決まっていた。

 俺の部屋を出る。


「それじゃ、さっそくお着換えたーいむ……ふふっ♡」


 時間は残されていない。

 急がなければ、マコトの裸体が、エッチな服がネットの海に流されてしまう。

 阻止しなければならない。

 押し入ってでも阻止しなければならない!


「にしても皆、ド変態さんだね~♡」


 ド変態共に、俺の大事な妹のエッチな……




「“男”のサキュバスコスが見たいなんて、さ?」




 扉を開けて、最初に聞こえたのが、そんな台詞だった。


「……へ?」


 撮影用の照明に照らされる、美少女にしか見えない妹。

 へそを出していた。

 上にビキニのようなサキュバスな感じの衣装を装備。

 今から下のジャージを脱ぐ、という所。

 黒髪ボブカット。

 青い瞳。

 瑞々しくて、つやつやで、とても若々しく可愛らしい美少女然とした頬……それが俺の方を向いて、みるみる内に赤くなっていく。


 赤くなっていく妹は可愛い。

 妹は、可愛い。

『“男”のサキュバスコス』

 頭の中に、もう一度その甘い声が響いた。


「に…………お兄ちゃん!?」


 肌を隠す妹……いや、サキュバスコスの妹、いや、サキュバスコスの弟。

 両手であらわになった肩を隠し、可愛い。

 俺は天を仰いだ。


「…………生えてる方が、お得だな」


 深夜二時。

 我らが神原家に響き渡った弟の悲鳴から、この物語を始めさせてもらおう。

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