嘘つきの。

鈴乱

第1話


いつからかなぁ。


君の前で、嘘をつくようになったのは。


***


最初はたぶん些細なことだった。


気を遣ったつもりで、小さな嘘をついた。


不安そうな君の表情に耐えられず、安心させるために嘘をついた。


あの時、私は自分に課した禁を破ったんだ。


正直に生きる、という戒めを。


***


嘘をつけばつくほど、自分が縮んだ。


自分がどんどん小さくなって、相対的に君の存在が大きくなる。


だから、私は勘違いしちゃったんだ。


君だけが素晴らしくて、私はそうじゃない、って。


素晴らしくない私は、素晴らしい君の言うことを大人しくすべて聞かなきゃならないって。


……昔からの癖なんだ。


身を守るために、強い者の意見に従って、ご機嫌を取って、自分を何とか活かす。


そういう癖。


"危険"だと思うと、無意識にその癖が発動する。


そう、君に嫌われるのは、私にとっての大きな危険だったんだ。


それほどに、君を失いたくなかっただけなんだ。


嘘ついてでも、君のそばにいたかった。



***


だけど、そんな嘘で彩ったメイク、いつかは剥がれ落ちてしまう。


嘘は露呈して、私は君からの信頼を失って、結局、嫌われちゃった。


あぁ、君は優しくて甘いから、そんな私を許すと言うのかもしれないけど、ダメだよ?

そんなの許しちゃいけないよ。


君に嘘をついて笑ってるような、そんな私を……許したらいけない。信じてもいけない。


信じるものは、信じる人は、君のその目で決めなくちゃ。


君を裏切り続けた私を信じるってのは、君を裏切る者を信じるって言うのと同じだよ?


やめときな。


私は変わりたいと思うけど、一朝一夕で変われるものでもない。


それに、私は『私が変わるまで待ってて』、なんて言える立場でもない。


私は君を待ったけど、待つってのも気力が要るよ。体力も。


だって、エネルギーを君に持ってかれながら生きる、ってことなんだから。


それはちょっと……しんどいよ。


そんな想いや期待、君にさせるわけにはいかないじゃん。


君には君の人生がある。


私には私の人生がある。


何でかわからないけど、授かってしまったこの命、どうにかこうにか、続けてかなきゃならないだろう?


……互いに見つめ合って、そうしたまま、死んでしまう人生なんて、あんまり楽しいとは言えないと思うんだよね。


君だって、私だって、まだまだやりたいことがある。そうだろう?


お互いを見つめてるだけで人生が終わったら、それはきっと、後悔が残るよ。


好きだけど……好きだから手を離さなきゃならない時もあるんじゃないかな。


君が私を忘れて、私も君を忘れる時間。


"自分"に向き合って、"自分"を愛してあげる時間。

"自分"のために、その命を燃やす時間。



……なんて、えらそうに言ってるけど、ここでこうやって想いを吐露してるあたり、まだ、私は君の魅力から抜け出せないみたいだ(笑)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

嘘つきの。 鈴乱 @sorazome

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る