番外編 水着選びする二人

 高一の夏休み初日。


 俺は、白雪と最寄りのショッピングセンターに買い物にやってきた。


てる君、逃げないでよ」


「分かってます……」


 地獄だ……。


 今日は白雪の水着選びに付き合わされることになってしまった。


 男子高校生にとっての鬼門って沢山あると思う。


 例えば、女性用の下着売り場とか!


 スーパーでたまたま通りかかってしまっても、絶対にその売り場には視線を送らないようにするのが普通だと思う。


 女子の水着売り場なんてまさにそれじゃん。


 もうね、深海に引きずり込まれたタコの気分ですよ。


「タコって海底にいるよね」


「……なんで俺がタコのこと考えているって分かったの?」


「タコみたいな顔してたから」


「めちゃくちゃ失礼だからな、それ!」


 誰がタコ入道だっ!


 最近はもう普通に思っていることが読まれるようになってしまっている。


「わー! これ可愛い!」


 白雪が真っ黒の水着を手に取る。


「白雪には派手だと思うよ」


「そう? こっちは?」


 今度は白雪が青色のビキニを取った。


「布面積が小さいから却下」


「ふむふむ、じゃあこっちは?」


「エロ過ぎるから却下」


「んふふ~」


「なんで嬉しそうにしてるの?」


「意外にちゃんと選んでくれてるなって思って」


 うっ! しまった!


 思ったことを言うクセが全然抜けていない。。


「じゃあどんなの似合うと思う?」


「白雪は真っ白なやつがいいよ」


「じゃあ真っ白なやつ探そー!」


 白雪が嬉しそうに水着売り場を駆け巡っていく。


 ……ここにいるのは恥ずかしいけど、白雪が嬉しそうならまぁいいか。


「あっ、これとかいいかも」


「確かに」


 白雪が真っ白な水着を見つけた。フリルタイプの可愛らしいやつだ。


 ふむふむ、これならあんまり体のラインが見えなくていいかもしれない。


「これがいいんじゃない?」


「……」


「ん?」


 白雪が水着のを見て固まってしまった。


「あれ? 高い?」


「いや、値段的にはお手頃なんだけどさ」


「なんだけどさ?」


「さ、サイズが……」


「……」


 あっ、白雪がなに言いたいか分かった!


「唐揚げ食べ過ぎるからだぞ!」


「そっちじゃないっ! どこが大きくなったと勘違いしてるのよ!」


 あれ、違った。


 最近、食欲爆発しているみたいだったからてっきり太った話かと。


「違くて胸の話! やっぱりてる君は察しが悪い!」


「……」


 そ、そっちかー……。男にそれを察せは無理があるよ!


「お、大きくなってるの?」


「ちょっとだけだけど……」


「……」


「……」


 つい聞いてしまった……。


 大きくなってるんだ……。服の上からじゃ全然分からないや。


「今、私の胸見たでしょう!」


「いやいや! それを言われたら見るでしょう!」


「恥ずかしいから見ないでよ! いやてる君は見てもいいんだけどさ!」


 恥ずかしがりながらデレてる。また高等テクニックを身につけやがったな。


「大体、誰のせいで!」


「えー、俺は関係なくない?」


「だって、この前揉んだじゃん!」


「も、揉むとか言うな!」


 言われるとめちゃくちゃ恥ずかしい。自分でも顔が赤くなっているのが分かる。


「だからてる君のせい!」


「暴論禁止! 唐揚げのせいもあるだろ!」


「なんでピンポイントで唐揚げの栄養が胸に行くのよっ!」


 白雪の顔も真っ赤になっている。


 二人で言い合っていると、後ろからトントンと誰かに肩を叩かれた。


「お客様、他のお客様の迷惑になるのでもう少しお静かにしていただけると……」


「「あ゛っ」」


 白雪と声がダブった。


「ふふふ、でもとても仲がよろしいんですね」


 店員さんがとても優しい目を俺たちに向けている。完全にペットショップの犬を見る目だ。


「そうですか~? まぁ、そうなんですけどぉ~」


 また白雪が恥ずかしがりながらデレ始めた……。


 は、恥ずかしい……。


 もう絶対にここには来れないじゃん。


 俺にとっての鬼門がまた一つ増えたのであった。

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