第76話 心の声と心の声

 家に着いた!


 良かった! 今日も母さんは出かけているようだ。


「白雪、こうなったらじっくり話そう!」


「分かった」

(今日はおばさんいないんだ。ラッキー)


 邪魔者にされるうちの母親……。ちょっぴり可哀想。


てる君だってそう思ってるくせに!」


「あぁあああ! もうなにがなんだか!」


 お互いの心の声が聞こえるようになり、更にわけが分からなくなってしまった!


 言われたことに心が反応してしまうし、心で聞いたことを口で反応してしまう。


 一人しかいないのに二人と話しているような気分になってくるっ!


「だから俺は彼氏として白雪に色々してあげたいの! 俺と付き合うことで誰かと疎遠になるのが嫌なの!」


「なんでてる君がそんなこと気にするの!?」

(私はてる君だけいてくれればいいの! 何度そう言えば分かるの!?)


「何度言われたって分からないよっ!」


 確かに俺も白雪のことを独占したいとは思ってるけど、そこまでして欲しいとは思ってない!


 好きだからこそ、白雪に色んな景色を見て欲しい。朝陽とか、色んな女友達と遊びに行ったりしてほしい。


 これからずっと一緒にいるために、お互いに成長していきたい!


「むぅ、そんなに私のこと思ってくれているなんて」


「ふんっ、俺の心を全てを聞くがいい」


「じゃあ、私の思っていることも聞かせてるあげるから!」

(じゃあ、私の全部も見てもらうからっ!)


「ぜ、全部見せてくれるの!?」


「どこに反応してんのよ! この頭、真っピンク!」


 言い方が悪いだろ、言い方が! 男子高校生はどうしてもそういう方向に考えちゃう生き物なの!


「……そ、そんなに見たいの?」


 そりゃ見れるものなら見たいだろ。


「今はそんな話してないだろう!」


「心の声は素直だよ」

(私も見てほしい…ような?)


「そ、そういうお前だって、エッチなこと考えているくせに!」


「そんなこと考えてないもん!」

(仕方ないでしょ! 女の子だって性欲あるんだよ!)


「せ、性欲って……」


「言葉に出すなぁあああああ!」

(恥ずかしぃいいいい!)


 とっ散らかりすぎて全然会話が前に進まないよ。


 もう本当にごっちゃごっちゃだ。カオスすぎる。


てる君って昔から頑固なとこある!」


 そんなこと言われなくても自覚はあるっていうの!


「白雪は昔からワガママ!」


「な、なんですってぇ!」

(自覚はあります)


「ぷっ」


「あははは!」


 二人同時に笑ってしまった。同じようなこと考えてる。


 いけない、いけない。


 今、俺たちは今後のために大切な話をしているのに。


「俺、ずっと思っていたけど白雪に見合う男になりたいよ。だから勉強も頑張れた。体育祭も頑張ろうと思った」


「私はてる君にそんなこと求めてないもん」

(私はダメなてる君でも好きだもん)


 前も白雪はそう言ってくれたなぁ。


 俺は白雪姫に出てくる王子様にはなれないけど、それでも王子様に近づけるように努力したい。


 だから、苦手な交友関係も頑張るって決めた。前みたいに、諦めたりしないで、全部頑張るって決めた。

 

 この……。


 このっ……!


 ダメ男好きがっ!


「自分でダメ男って言っちゃってる」


「心の声邪魔くせぇえええ!」

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