第78話 さようなら心の声!

「随分、前から決まってたみたいだよ」


 そう言って工事の人は行ってしまった。


 全然知らなかった……。


 確かに俺たち以外の人は見たことがない寂れた神社だったけど、まさかそんな予定があったとは。


「びっくりだね」


「うん」


 白雪も驚いた顔をしている。


 なんか寂しいな。


 昔はここで白雪とかくれんぼしたりしてたっけ。


 ……思えば、最初にここに立ち寄ったのもそんなことを思い出したからだった。


「心の声、どうなるんだろうね」


「そうだね」


 白雪もどこか寂しそうに神社のことを眺めている。


 まさか本当に物理的になくなってしまうなんて思わなかった。


 ……。


 ……。


 あれ……?


「白雪、今日は心の声聞こえている?」


「それが今日は全然なんだよねぇ」


「本当?」


「なんで嘘つかないといけないのよ! どうせてる君に心読まれちゃうんだからそんなことしないって」


 俺も今日は心の声が聞こえてきていない。


 昨日はあんなに聞こえていたのに!


「……これからずっと聞こえなくなっちゃう気がするね」


 白雪がボソッとそんなことを呟いた。


 よく分からないけど、俺もそんな気がている。


「なんで聞こえてたんだろうな……」


 神様の悪戯といえばそれまでだが、そもそもなんで心の声が聞こえるようになったんだろう。


 なんで俺たちにそんなことが起こったんだろう。


「誰かに来て欲しかったのかもね」


「来て欲しい?」


「私たち、よくここらへんで遊んでいたのに全然来なくなっちゃったから」


「……」


 寂しがり屋の神様かぁ。なんか妙に親近感が湧いてきた。


 昨日、あんなに邪魔にしちゃって罪悪感が出てきてしまった。


「お礼を言っておこう」


 中には入れないので、その場で手を合せてお参りをする。


「あっ、じゃあ私も」


 二人でお賽銭箱がある方向に手を合せる。


 ――疎遠だった幼馴染とまたこうして巡り合わせてくれてありがとう。


 精一杯のお礼を心に込めた。


 心の声が聞こえてこなかったら、多分今もずっとあのときの俺のままだったと思う。


 俺たち、ちょっとだけ似てたのかな。そんなこと言ったら神様に怒られちゃうか。


てる君、そろそろ行こう。遅刻しちゃうよ」


「うん」


 後ろ髪が引かれる気持ちもありながら、俺たちその神社を後にした。


 神様も誰かと疎遠になることの寂しさを知っていたのかもしれないな……。


 寂しがり屋な神様のちょっとした悪戯心。


 俺は今回のことをそう思うことにした。


 春から夏へ季節が移ろうとしている。


 真夏を感じさせる暖かい風が俺の頬を撫でた。



“思い出してくれてありがとう”



「え?」


 風の音がそんな風に言っているような気がした。



てる君?」


「な、なんでもない!」


 ――こうして、ふとしたところで心の声騒動は終わりを告げたのであった。


 何故か、俺は喉が痛くなるほど涙ぐんでしまっていた。




※※※




「よっしゃー! 勝ったー!」


「ぐぬぬぬぬ!」


 数日後、期末テストの答案が返ってきた!


 俺は見事、クラスで一桁の順位に入ることできた!


 中学のときから、ずっと真ん中でさまっていた俺にとっては初の快挙だ。


 ちなみに朝陽は真ん中よりちょい上くらい。


 ふふふ、俺には優秀な専属コーチがついていたからな!


「寿司か焼肉か! なに食べようかな!」


「購買のから揚げ弁当で許してください」


「随分、ランクが下がったなぁ」


 もちろん、そんなの奢ってもらえると思っていないので全部冗談だ。


 勉強ってちょっと面白いかも。


 やればやるほどちゃんと結果が出る!


「二学期の中間でリベンジしてやるんだから……!」


「チャレンジャーよ。いつでも来るがよい」


 朝陽とそんな話をしていたら白雪が俺たちのところにやってきた!


「じゃあ、私はなに奢ってもらおうかなぁ」


「ざっけんな! お前はなしだろ!」


 白雪さん、期末テストクラス一位。


 名実ともに我がクラスのチャンピオンだ。ちなみに二位は亮一君らしい。


 容姿が良くて、勉強も出来たら、どうやってこいつ太刀打ちするんだ。


「白雪、クラスの皆で今度こそ期末の打ち上げ行くらしいんだけどどうする?」


 席に座ったまま、朝陽が白雪に問いかけた。


 白雪がちらっと俺のことを見る。


「行くよ」


「おっ、今日はノリがいい」


「うるさい彼氏に怒られたので」


 うるさいは余計だろ!


 根が素直な白雪は、ちゃんとこの前の言葉を実行してくれているようだ。


「はぁ、仕方ない。じゃあ私から誘ってくるか」


 白雪が大きなため息をついた。


 そのまま、永地ながとちさん・露本つゆもとさんコンビのほうに歩いていった。


 我が彼女ながら鼻が高い。


 白雪が自分から誰かに歩み寄ろうとしている。


「なんか優しい目をしている」


「そう? 頑張れって気持ちなんだけど」


「きもい」


「きもい言うな!」


 朝陽がケラケラと笑っている。


 期末テストも無事終わった。クラスのみんなとの仲も良好。


 心の声も聞こえなくなった。


 諸々、順調すぎるくらい順調だと思う。


 ……いや、まだだ!


 絶対に忘れちゃいけないイベントが残っていた!


 俺は忘れてないぞ!


 子供の頃、一回ガチで忘れていて本気で白雪に泣かれたことがあった。


 一学期終業式の直前の七月十七日。


 白雪の誕生日がやってくる!


 心の声なんて聞こえなくても、白雪が欲しいやつなんて知ってるよ。

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